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比些志さん

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人間万事塞翁がラッキーポイント🤞

17/01/08 コンテスト(テーマ):第126回 時空モノガタリ文学賞 【 304号室 】 コメント:0件 比些志 閲覧数:986

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野口六郎は朝ベッドで布団をかぶったまま寝ぼけまなこでテレビをつけたら、めざましテレビの女性アナウンサーが、「下三桁は304でした。304号室にお住みの方、おめでとうございまーす」とニコニコ顔で話している。昨日の晩のニュースで上六桁の数字が自分の地区の郵便番号だったことは知っていたが、まさか自分が当選するとは夢にも考えていなかった。

野口六郎はベットから飛び起き、パジャマの上に上着を重ねると、マンションを飛びだした。
表に出るとすぐに午前七時になった。ルールどおり狩り開始の時間である。
これから二十四時間は、標的の半径百メートル近辺のゲーム参加者のスマホがビービーと警報を鳴らしながら点滅する。だから人ゴミには近づけない。やむをえず野口六郎は裏通りを抜け、近くにある雑木林の中に身を隠した。

野口六郎は今日という日が、人生最大のピンチであると同時に最大のチャンスであることを認識している。野口六郎が当選した人間狩りロットは毎月発表されるが、標的となれるのは各県一人だけである。そのきわめて幸運な標的に六郎は選ばれた。それは、このまま明日の朝七時までだれにもつかまらずに逃げおおせれば、15000ラッキーポイントをゲットでき、逆につかまればロット実行協会から罰金として1000ラッキーポイントを没収され、借金生活を余儀なくされることを意味していた。ラッキーポイントの借金生活とは、すくなくとも借金を返すまで何ひとついいことは起きないということである。しかし、反対にうまくいけば、一生分の幸せが保証されるのだ。

この世界での運と不運は、すべてラッキーポイントをいくつ持っているかで決まる。完全なる機会均等をめざす国連政府の政策により、地球上のすべての人々は生まれたときに平等にラッキーポイントを割り当てられるようになった。つまり、この世界では、あの人は運がいいとか悪いとか、そんなことはだれも口にしない。みんな平等に良い時もあれば悪い時もあるというのが常識となっているのだ。

みんな平等であることには誰も不満はない。しかし、それゆえにこそ、誰もが人よりももっと幸せになりたいという欲望を捨てきれずにいる。

だから野口六郎の元には、雑木林に身を潜めている間にも、安否を心配し、支援をみずから申し出る趣旨のメールや伝言が山ほど届いた。ゲームのルールではその支援を受ければ、標的である六郎は、支援者が標的の捕獲権を喪失することの見返りとして支援者に100ポイントを渡さなければならない。

野口六郎は人並みはずれてケチで用心深い性格なので、誰に対しても支援の要請もしなければ、返信すら行わず、林の中でじっとしていた。しかし、このままじっとしていればいずれば必ずつかまる。不本意だが支援者の協力を得て、一刻も早くそこを抜け出す必要があった。支援者とスマホを交換すれば、一時間だけ警報がミュートされる仕掛けになっている。そのあいだに人ゴミを逃れて、一時間後にふたたびスマホを交換すればよいのだ。

問題はだれを支援者に選ぶかだーー。もっとも信用できるのはだれか?
考えた末に野口六郎は、桜井さくらを選んだ。他の人間と違い、さくらからは今日一日メールも電話もない。さくらは当選発表のニュース以後、自分からはアプローチしてこない唯一の知り合いといえる。ーーだからこそ、元カノのさくらは信頼できるとおもったのだ。

メールで支援要請の連絡をとると、すぐにさくらから返信があった。しかし、考えさせてほしいという。野口六郎にしてみればさんざん迷惑をかけた過去のいきさつがあるのでそれ以上強くもいえない。十五分待つから、返答を聞かせてほしいとだけ伝えた。十五分後に、要請応諾の自動送信と前後して「わかった。すぐ行く」との返信メールがあった。

さくらは約束どおりやってきた。久しぶりということもあってか緊張した表情をうかべていた。
「ありがとう」
野口六郎はさくらの手を取り、自分のスマホをさくらに渡した。さくらもそこではじめて笑った。
さくらは殊勝なことに温かいスープをいれた水筒を持参していた。野口六郎は一口だけ特製スープを飲み、
「時間がない。すぐにとなり町の森林公園まで逃げよう」
と云って、走り出そうとしたところで、足元がよろけた。

そのとき背後でガサガサと枝を踏みしめる音がした。朦朧とした意識の中でふりかえると、見たこともない男が立っている。
さらに驚いたことに、その男にさくらが歩みより、ごく自然な動きでその男と腕を組んだ。さくらは云った。
「わたしら、もうすぐ結婚するんだ。ラッキーポイントはあんたからのご祝儀ってことで遠慮なくもらっとくね。さんざんもてあそんどいて、こんなときにだけ頼るなんて、バッカじゃないの?」了


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