糸井翼さん

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AKAZUKIN

17/01/08 コンテスト(テーマ):第125回時空モノガタリ文学賞【優しさ】 コメント:0件 糸井翼 閲覧数:454

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森の中にその組織の施設はあった。
以前から内偵している馬場の力も借りて、なんとか組織に入り込むことができた。
「お前、名は」
「ウルフだ」
この組織では本名では呼び合わない。俺の名前は大神だったからウルフとなった。俺の立場からしたら随分露骨な名前だが仕方ない。
施設の中で馬場が待っていた。
「名前、ウルフなんていいじゃないですか。私、グランマですよ。馬場だから、ばばあって。センスないでしょ」
「うるさい」
「組織の中で優しくしてもらっている人がいまして。紹介しますね」
「大丈夫なのか」
「ええ、彼女少し天然みたいだから。美人なんですよ」
写真を見ると、馬場の言うとおり、ほんとうに美人だった。話を聞く限り、彼女は馬場を本当に友達と思っているようだった。これほどうまくいっているのは、組織の中では女性が少ないからだろうか。
「彼女に近づいてください。私、機会を作りますから」
「わかった」

馬場は次の日にその女性を連れてきた。
「はじめまして。私はレッドです。新入りの、グランマのお友達さんね。彼氏かな」
「はあ、違います」
無邪気に笑う彼女を見ていると、本当に恋に落ちそうだ。仕事であることを忘れてはいけない。そう、感情を捨てないと。


長く森の施設にいると、世間から隔離されているせいか、気持ちが疲れてくる。ここは怪しい修行施設で、一定期間出ることはできない。そのせいか、恋愛が起こりやすい環境だと馬場はいった。
「ハンターとかいう男と仲良くしているよな」
「ふふふ。もてる女は辛いですよね」
馬場は笑う。
「でも、そちらもレッドと仲良くなれてるじゃないですか。作戦成功ですね」
レッドは優しい人で、人を疑うというのを知らないような人に見えた。厳しい環境とよくわからない修行で疲れてきっている俺に優しくしてくれるのは、彼女だけだった。修行が終わって、ぐったりしている俺のもとに彼女はやってきて、本当は禁止だが、小さなチョコレートを持ってきてくれた。チョコレートもそうだが、彼女の笑顔と、小さな秘密の共有に力をもらっていた。
もはや二人は愛し合っている。俺も仕事とは無関係に、彼女に精一杯の気持ちで応えているつもりだ。しかし、いつか別れなければならない。こんな立場でなければ。俺がこんなジレンマを抱えることになるとは思ってもみなかった。

そんな日が続いて、あるとき、レッドが言ってきた。
「私、この教団を抜けようと思っていて」
「な、なぜ」
「あなたも、抜けませんか」
一緒に逃げよう、そう言いたい。だが、俺は内偵中なのだ。自分の気持ちだけで勝手に抜け出すわけには行かない。正体を明かそうか。そうすれば、彼女を守ることができるかもしれない。しかし。しかし。しかし。
そうして考えているうちに、彼女は言った。
「最後、あなたに話があります。今日の夜、目立たないように、グランマの部屋に来てください」

夜。ひそかに馬場の部屋に行った。馬場はいない。レッドから何か言われて、場を外したのだろうか。
そこにレッドが入ってきた。赤いスカーフをつけている。
「この教団に入ったとき、これをつけていて、それでレッドと呼ばれるようになったんです」
俺は何も言えない。
「どうしてあなたはそんなに優しいんですか」レッドは表情を変えずに聞いてくる。
「どうしてって、」
「私から情報を聞き出そうとしたんでしょう」
「なぜ・・・」
ハニートラップ。その言葉がよぎる。こちらが仕掛けたつもりが、かかったのはこちらだったのか。彼女の全てが嘘だとは思いたくない自分がいる。
「でも、俺は君を、」
「ずいぶん甘いこと言うのね、ちょっと優しくしたくらいで。優しさなんて、危ういものよ」
彼女は冷たい笑みを浮かべた。
ドアを開けて、ハンターが入ってくるのが見えた。「終わりだな」
「ウルフにぴったりの幕切れよね」


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