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タキさん

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性別 男性
将来の夢
座右の銘 風船じゃなく、自分の翼で飛べ

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年末ジャンボ宝くじ

17/01/08 コンテスト(テーマ):第125回時空モノガタリ文学賞【優しさ】 コメント:4件 タキ 閲覧数:828

時空モノガタリからの選評

宝くじあるある≠フような、宝くじユーザーなら誰しも多少なりとも経験がありそうな身近な内容ですが、宝くじそのものがテーマではなく、それを通して夫婦の関係性が浮き彫りになるのが良かったと思います。地に足の着いた暮らしぶりや、親しみやすいキャラクターが対比的に鮮やかに伝わり、下世話ではなく、爽やかな印象が残ります。妻の「夢物語」が全て、夫のため、しかも非常にささやかな願いなのが、なんとも素敵だと思います。「俺」が当否の結果を先に知ることによって、宝くじそのものよりも、妻を気遣う「俺」の感情に焦点がはっきりと定まり、内容的なブレがなくよかったと思います。確かに「3等100万円」くらいは当たって欲しいものですが。互いの為を思いやる彼らは、さほど豊かでなくとも結構今の生活を楽しんでいるようにも見えますね。テンポもよくテーマにも合った内容で、共感できる親しみやすい作品でした。

時空モノガタリK

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今年も残すところあと8時間。妻は「身を清める」と言ってシャワーに入った。「年末ジャンボ宝くじに当選する為の儀式」らしい。珍しく宝くじを買った妻だが、凄まじい意気込みを感じる。何しろ【数多くの当選者を輩出したという宝くじ専門の神社】にまでわざわざ出かけて買ったのだ。

「当たったらどうしようかな」
ドライヤーで髪を乾かしながら、妻が無邪気に言ってきた。
うーん。どうしよう…。

「まずは、あなたの奨学金を返そう」と妻が言った。「奨学金は借金と同じだからね」
そうだね、と答える。本当は稼ぎの良い仕事に就いてさっさと返したかったのだが、安月給では暮らしていくのが精一杯で、返済は遅れがちだった。

「車も買ってあげるからね」と妻は続ける。ドライヤーのスイッチを切って、しばし沈黙。「…150万円くらいの」
うん、と答える。10年前に70万で買った愛車は先日ついに走行距離15万キロを超えた。
「あ」と妻が真剣な顔で急にこっちを見た。な、なに? という顔をしていると、「ちょっと無理し過ぎかな。やっぱり100万くらいかな」
いいんじゃない、と答える。
「そうね」と再びドライヤーのスイッチを入れて髪を乾かす。「そのくらいは良いわよね」長く乗れるし…とウンウン頷いてる。

台所に立って年越しソバの用意をし始めてからも、妻は嬉しそうに予定を語り続けた。
「あなたの靴も買い替えないと」
ネギを刻む後姿に、まだ履けるよと答える。くたびれてはいるが穴は空いていない。
「駄目よ。みっともないし。それからスーツも買い替えないとね。ヨレヨレよ」
確かに、卒業間近の高校生の学生服みたいに生地もツルツルだ。

「沖縄にもまた行こうね」
新婚旅行で行ったきりだもんなー、となんだか申し訳なくなってきた。
俺の好きな場所という理由で沖縄に決めた。妻は、波照間島の夜のサトウキビ畑で星空を見上げ、「今が人生で一番幸せ」と涙を流した。大げさな、沖縄くらいすぐにまた連れてくるよ、と軽く言ったが、結局実現していないし、出来そうな気配もない。

「…ジャマイカにも行けるわね」と、包丁を持つ手を止めた妻は振り向いて意味深な笑顔を浮かべた。
なんでいきなりジャマイカ? と考え込んでしまった。妻がそんな事口にするのは初耳だ。
「あー、その顔。忘れてるの? 信じられない」と体をこちらに向けてムスッとした顔になる。
雷が頭に落ちたみたいに記憶が蘇った。ジャマイカは子供の頃、俺が一番行きたかった外国だ。出会ったばかりの頃、妻にそれを話したのを思い出した。

「これで合計いくらくらいかな?」
頭の中でどんぶり勘定。ジャマイカ行きの飛行機っていくらくらいなんだ。調べた事も無い。
「まあいいわ。一等当たれば7億だし」
恐ろしい事を平然と言ってのける。目が本気だ。

俺は内心で唸ったが、物凄い事に気づいてしまい頭に衝撃が走った。
妻が語った当選金の使い道、全部【俺の為】のものじゃないか。
夢物語を語っているうちにテンションが上がってきた妻は、キッチンで踊るように料理しながら、「たららー」とすっかり上機嫌だ。
ああ。俺が金運の神様だったら、甲斐性の無い貧乏な男と、そんな男に嫁いでしまった良く出来た妻に、せめて【3等100万円】を当選させてやるくらいの夢は見せるのに。
そうすれば、その男は妻の為に、暖かくて軽いオシャレなコートとか、ショッピングモールに行くたびに夫に悟られないようチラチラ横目で見ている外国製のロングブーツなんかを買ってあげるのに。
しかし現実はまったく優しくはない。
俺はネットの速報ですでに結果を知っていた。大ハズレだった。当たるはずが無いのだ。でも妻には言えなかった。

それでどのタイミングで当選番号見るの、とおそるおそる聞いてみた。
妻は、「そうねえ」と考えて、「金運の神様が今だ、って言った時かな」と笑った。

ソバを食べて、大晦日くらいはと本物のビールを飲んだ後、風呂に漬かりながら、どうすれば妻が傷つかないかをずっと考えた。
宝くじの当選確率は、不治の病にかかったり飛行機事故で死ぬよりも低いって話を聞いたことがある。もし一等が当たれば、確率的に今度はそういう信じられないくらい非現実的な悪い事の心配もしなくちゃいけなくなる。

妻が当選番号を確かめる前に、こう言おう。

俺は君がそんな目に遭うのを心配したくないよ。いっそ外れてくれた方が良い。

風呂から出ると、座布団に正座した妻が宝くじとスマホを持ったまま静止していた。身じろぎ一つしない。リビングの時間が凍りついている。
そのままの姿勢でパタリと横向きに倒れた妻に駆け寄った。慌てて抱き起こす。予定のセリフなんてふっ飛んでいた。
「お、俺がんばるから…!」
…せめてブーツだけでも買ってあげよう。それが俺の新年の抱負になりそうだ。


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このストーリーに関するコメント

17/02/04 光石七

拝読しました。
夫のための使い道しか考えない優しい妻、妻を思いやる優しい夫。宝くじの結果はよくあるパターンですが、とても微笑ましく思いました。
神様、どうかこのご夫婦にご褒美を。
面白かったです!

17/02/05 タキ

光石七さん、ありがとうございます。地味でささやかな話なんですが、「本当の優しさ」って案外そんなものかな、と思いながら書きました。光石さんのコメントにもそんな優しさを感じました。

17/02/15 まー

入賞おめでとうございます。
(様々な人の過去作品をたまに読ませていただいているもので、時期の外れたコメント投稿をお許しください。)

当てる気満々でいる子供のように無邪気(?)な奥さんがユニークですね。
貧乏ながらも幸せそうな二人の未来像が浮かんできました。
素敵な作品をありがとうございます。

17/02/20 タキ

まーさん、コメント遅くなりましたが、読んで頂きありがとうございます。興味を持ってもらえた事が素直に嬉しいです。

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