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そらの珊瑚さん

🌼初めての詩集【うず】を上梓しました。  (土曜美術出版販売・現代詩の新鋭シリーズ30) 🌼小説や詩、短歌などを創作しております。 🌼作品を置いています。よろしかったらお立ち寄りくださいませ。 「珊瑚の櫂」http://sanngo.exblog.jp/14233561/ 🌼ツイッター@sangosorano 時々つぶやきます。 🌼詩の季刊誌(年4回発行)「きらる」(太陽書房)に参加しています。私を含めて10人の詩人によるアンソロジー集です。アマゾンでお買い上げいただけます。      ✿御礼✿「馬」のオーナーコンテストにご参加いただきました皆様、ありがとうございました。

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将来の夢 星座になること
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愛を確かめ続ける砂時計

17/01/02 コンテスト(テーマ):第124回 時空モノガタリ文学賞 【 五分間 】 コメント:11件 そらの珊瑚 閲覧数:1138

時空モノガタリからの選評

「愛を確かめ続ける」装置としての砂時計。五分間というテーマを効果的に生かした作品だと思います。「遺骨」の「砂時計」が、夫の妻への感情を端的に表現していますね。実は遺産目当ての結婚、早く財産だけ得たい妻の本当の気持ちを知っていたかのように事前に用意された「最後の贈り物」。そこに妻への過剰なまでの愛が凝縮され、夫の性格までも浮かび上がってくるようです。また毎日砂時計をひっくり返すことでしか遺産を受け取れないという計画が、なんとも周到で圧倒されます。たとえ五分とはいえ、自分のことを思い出して欲しいと思うのはごく普通の感情のように見えますが、現実に強制する装置、それも遺骨で作った砂時計という形に具現化された途端、なんと言えぬ異質感が露わになってきますね。人間の情念が砂時計という形でうまく表現されていると思います。また「忘れないでいる限り、その時間は人の心の中に存在し続ける」という導入部と「ファンタジー」という語感生み出すロマンチックなイメージを、後半で覆していく対比的な展開がうまいと思いました。

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『手作りオリジナル砂時計お作りいたします・トアノ砂時計屋』

 今どき、砂時計? と思う人は少なくないだろう。
 時計と名がついてはいるが、そもそも砂時計は今現在の時間を示す時計ではなく、砂時計が落ちるまでの時間を示すものだ。つまり時刻を知るためのものではなく、一定の時間を刻むことを約束したタイマーともいえる。
 或いは普通は見ることの出来ない時間、思い出と呼ばれる類を、可視化するようなファンタジーといえなくもない。
 中空の透明な入れ物に入った砂。ひっくり返すと、砂は中央の細い通路を重力によって上から下へと落ちる。一分計は一分で、五分計は五分で落ちきるという仕組みだ。砂の形態や重量、通路の大きさにより、砂が落ち切る時間を計算して、店主トアノは砂時計を作る。何分時計にするかは、客の要望によって決められるが、十分計以上のクラスになると大きく重いものになるので、あまり需要がない。
 砂時計は、テーブル或いは出窓の片隅にちょこんを置かれ、気が向いた時に片手でひっくり返すくらいの小ささが一般的には好まれる。

 高校球児が試合で負けて持ち帰った甲子園の砂の砂時計。新婚旅行先の海で拾った砂で作った砂時計。時間は決して戻ることはないし、そうともいえるし、そうではないかもしれない。忘れないでいる限り、その時間は人の心の中に存在し続ける。そんな時間をいともたやすく戻るためのツールでもある。
 ◇
「ご注文の品を届けにまいりました」
「いったい何ですか」
「ご主人が生前注文されていた砂時計でございます」
 応接間に通されたトアノは持参したスーツケースの中からちょうど手のひらに載るくらいの小さな砂時計を取り出した。
「奥様への最後の贈り物だと伺っております。どうぞお納め下さい」
 女はそれを受け取りながらも、ちっとも嬉しそうではなかった。むしろ怪訝な顔であった。
 トアノと一緒に夫の弁護士が同席していたのが気になっていたのだ。手広く事業を行っていた夫の多額の遺産。他に親族もなく子もない夫婦だったので、それは妻が相続するはず。が、夫の死後一か月も経つのに手続きはいまだ遂行されていない。弁護士にその訳をたずねても、もう少し待ってくれと言うばかり。夫が経営していた会社を整理するのに時間が必要だとか何とか云われて。
 早くお金ちょうだいよ。
 女はのどから出かかった言葉を抑える。夫には愛情があるようにふるまっていたが、遺産目当ての結婚だった。
「この砂時計を一日一回ひっくり返すことが、故人の遺言による遺産相続の条件です」
 弁護士が口を開いた。
「この砂時計を、ですか?」
 女は首をかしげる。
「はい。この砂時計の中に入っている砂は実は砂ではありません。便宜上砂時計と呼びますが」
「砂でない……。では何ですか?」
「ご主人の遺骨を砕いたものです」
 それを聞いた女は手にした砂時計を反射的に放りなげた。大理石の床に落ちた砂時計はゴトッと鈍い音を立てて転がった。
 なんて悪趣味。あの人の骨ですって? 
「大丈夫です。この砂時計はトアノ特性強化ガラスで出来てますから、たとえ象が乗っても割れません」
 トアノが傷ひとつ出来てはいない砂時計を拾い上げてテーブルの上に置いた。
「要りません。そんな気持ちの悪いもの」
 女の言葉に弁護士が答える。
「それでは遺産の全ては福祉事業に寄付されます」
「そんな」
「砂時計を受け取る。そして一日一回それをひっくり返して自分、つまりあなたの夫をしのぶ。それが奥様が遺産を受け取る条件です」
 嫌だ。夫のことなんて早く忘れたい。「俺のこと愛してるか?」猜疑心の強かった夫は一日に何度も私に聞いた。「愛してるわ」そして私は一日に何度も嘘をついた。夫が死んで私は解放されたはずだったのに。
 仕方ない。お金のためだ。
「わかりました。砂時計を受け取ります」
 その砂時計にはカウンターが付いていて、ひっくり返すごとに一を刻む。それは一日に一度しかカウントされない仕組み。つまり毎日それをやる必要がある。見た目はアナログなくせに変なところがデジタル化されてるのね。女が苦笑いした。遺産は数十回分に小分けされ、一年ごとに、支給されるという。その時、砂時計のカウントが365回になっていなければ無効になる。
「この砂時計は何分計ですか?」
「五分計でございます。一日にたった五分間、愛を確かめ合うには少々短いと存じますが、精一杯作らせていただきました」
 女の問いにトアノが答えた。

 おそるおそる女が砂時計をひっくり返す。
 女にとってこれから続くであろう長い道のりの、最初の五分間のファンタジーが始まった。

 ――なあ、俺のこと愛してるか?
 砂状の白い骨が、新しい命を得たようにさらさらと落ちていく。



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このストーリーに関するコメント

17/01/03 あしたば

そらの珊瑚さん

拝読させていただきました。
二千字とは思えないほどの、洗練された重量感をもつお話でした。
思うに、夫は妻が自分を本気で愛していないことに気付いていたのでしょうね。そして夫は妻を本気で愛していた。偽りの愛を確かめる5分間の和分が、いつかあの砂時計こそが最大の遺産であったという確信を導いてくれることを祈ります。

17/01/04 そらの珊瑚

あしたばさん、過分なお言葉をありがとうございます。

実際に手作りの砂時計を作ってくれるお店があるそうで、それがこのお話を書くきっかけとなりました。
この砂時計こそ最大の遺産、いつか彼女がそう思える日が来るといいのですが。

17/01/04 泡沫恋歌

そらの珊瑚 様、拝読しました。

砂時計をひっくり返すのが遺産を受け取る条件とは、ユニークな発想ですね。
愛してもいない夫の骨で作った砂時計を毎日毎日ひっくり返さなくてはいけないなんて・・・
ある意味、拷問みたいな条件ですね。

砂時計は3分のがありますが、カップ麺を作るのに便利です(笑)

17/01/11 霜月秋介

そらの珊瑚さま、拝読しました。
重い砂時計ですね。お金の為とはいえ、死んでからも夫に束縛される毎日。いつか夫のことを本当に愛するようになることを祈ります。
この掌編を読んだら、不思議と砂時計が欲しくなりました(笑)

17/01/18 デヴォン黒桃

連続ドラマの最終回だけを見たような。
そんなドッシリとした読後感がありました。時計の仕掛けが素敵でした。

17/01/23 そらの珊瑚

泡沫恋歌さん、ありがとうございます。
拷問かあ…そういえなくもないかも。
砂時計で計ったラーメン、なんか優雅な味がしそう♪

霜月秋介さん、ありがとうございます。
いつかそんな日が来るといいですね。
うちの砂時計も行方知れずです。

17/01/23 そらの珊瑚

デヴォン黒桃さん、ありがとうございます。
励みとなるお言葉に感謝いたします。

17/01/29 光石七

拝読しました。
小さいけれどとても重い砂時計。主人公には拷問のような五分間でしょうね。
続けていくうちに夫への愛が芽生えるのか、慣れて形式的にひっくり返すようになるのか、主人公はどちらでしょう?
面白かったです!

17/01/30 そらの珊瑚

光石七さん、ありがとうございます。
女の性格からいえば後者の方かもしれませんが。
面白いといっていただけて嬉しいです。

17/01/30 白沢二背

とても面白かったです。

17/02/01 そらの珊瑚

白沢二背さん、ありがとうございます。
面白いといっていただけて嬉しいです。

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