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吉岡 幸一さん

性別 男性
将来の夢
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優しい占い師

17/01/02 コンテスト(テーマ):第125回時空モノガタリ文学賞【優しさ】 コメント:0件 吉岡 幸一 閲覧数:494

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「それでは何を占いましょうか」
 占い師は長い髪で顔を隠しながら、今日も迷える人々の手相を見るのだった。
 デパートが閉まった後、シャッターの前に折り畳み式の小さな机と椅子を並べ、仕事帰りのOLや酔っ払いを相手に占っていた。
 そこそこ人気があって固定客もいたが、商業ビルなどに入ってきちんと店を構えようとは思っていなかった。占いなんて本当は出来なかったので、いつでも店じまいをして姿を隠せるようにしていたかったからだ。
 占いができなくても占い師はできるものだ。「河馬でもわかる手相入門」は念のため読んで頭に入っている。客は手相を見て占って欲しいのではない。客は未来への不安から少しでも解放されたいだけなのだ。それが占い師の考え方だった。
「彼とは結婚できるでしょうか」「いつになったらいい人が現れるんでしょうか」
 若い女が占ってほしいことは大抵が恋愛がらみのことだ。
「仕事がうまくいくでしょうか」「将来は家が買えるでしょうか」
 男は大抵が仕事のことと、その仕事がうまくいった後のことだ。
 それ以外にも夢が叶うかとか、病気が治るかとか、姑はいつ死ぬのか、などいろいろとあるが占ってほしい客の根底にある不安を占い師は占いで救ってやっているつもりでいた。たとえそれが嘘の占いであっても。
「ええ、大丈夫ですよ。あなたの望む通りになります。ほら、ここの親指まで伸びている線は、遠からず望みが叶うっていう線なんです。どうぞ思う通りにされてくださいね。未来が明るい手相ですよ」
 占い師はどんな客が相手でも、どんなに先が暗そうに思える内容でも同じようなことを話した。いつのころか占い師は「優しい占い師」と、言われるようになっていた。
 この日最後に来た客は仕事帰りのOLでもなく酔っ払いでもなく、背広を着た白髪の老人だった。酒に酔っているわけでもなく、冷やかしのような蔑んだ目つきもしていなくて、背筋も伸びて品が良かった。とても占いに興味を持つような人には見えなかった。
「それでは何を占いましょうか」
 老人が目の前に座ると、反射的に占い師はいつものように聞いていた。
「実は寿命を占ってほしいのです。私がいつまで生きているのかを」
「では、手相を見せていただけますか」
 占い師は手相を見ながら、老人の表情を読み身に着けている服や腕時計を値踏みしていく。どれも高価な物ばかりだ。
「社会的に成功されていらっしゃるのではないですか。ここに成功者の線がはっきりとでています」
「世間ではそう呼ぶ人も確かにいます」
「健康にも問題がないようですね。健康線がりっぱです」
「ということは、私は長生きをするということでしょうか」
「あなたは長く生きたいと思っていませんか」
 すぐに答えるのではなく、占い師は質問をしながら老人の望む答えを探っていった。
「できれば、孫が成人するまでは」
「ええ、大丈夫ですよ。寿命がつきるまでは後二十年はあります。生命線がこんなに太いんですから」
 感謝をのべると、老人は十万円もの金を置いて席をたった。占い料にしては破格だ。いつもは四千円しか貰っていなかったので、占い師は金を返そうとしたが、老人は受け取ろうとはせずすぐに立ち去った。
 老人が去るとき、通りすがりの女性が「あ、あの人よ。テレビでCMやってる会社の社長さんよ」と、話している声が聞こえてきた。
 占い師は知らない顔だったが、有名な実業家なのだろう。きっと占いの結果を喜んで大金を置いて行ったのだ。そう占い師は思って満足した。もちろん占いは嘘だ。占ってもいない。言ってほしそうなことを言っただけだ。地位も財産もある老人が、それをできるだけ長い間享受したいということだろう。だから寿命が気になった。その気持ちに応えてやっただけだ。それが優しさってものだから。
 老人を占って一週間後、いつものように閉店後のデパートの前で店を開いていると刑事が訪ねてきた。
「この人が来なかったか」と、老人が写った写真を見せて、占い師が返事をする前に顔色でわかったのか、刑事は勝手に話し出した。
「自殺だとは思うんだが、有名な実業家だし、調べなくてはならなくってな。会社が傾いていたのを苦にしたんだと思うけど。まあ、何か知っていることがあれば教えてくれよ」
 占い師は驚きながらも老人を占ったことを話した。寿命を気にしていたことも隠さなかった。
「長生きできたけど、長生きするわけにはいかなかったってことだな。かわいそうに」
 刑事は形だけの話ですぐに帰っていった。
 もしあのとき寿命がないと言っていたのなら、と占い師は考えて首を振った。いや、それは違う。私は客の期待に応えただけだ。
 独りよがりの優しさほど残酷なものはないのかもしれない。
 優しい占い師は立ち上がると店をしまいはじめた。夜の通りはまだ人で溢れていた。


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