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クナリさん

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ダストシュート・ミステリ

17/01/02 コンテスト(テーマ):第126回 時空モノガタリ文学賞 【 304号室 】 コメント:2件 クナリ 閲覧数:706

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 目が覚めると、僕の体はひどく暗い空間の中、がれきのようなものに埋もれていた。
 ここはどこなんだ。僕のマンションの部屋、リバーサイドメゾン304号室じゃないのか。
 目を凝らして見ると、すぐ横に愛用の冷蔵庫が横倒しになっていた。よく見ると棚や椅子やテーブルも倒れていて、全て僕の家具だった。
 状況が理解できない上に、昨日までの記憶がまるでない。

 頭がひどく痛むので、強く打って軽い記憶喪失にでもなったのか。思い出せるのは、自分の名前と部屋の番号くらいだ。
 僕がいるのは、縦長の四角い空間のようだった。僕が二三人いて手をつなげば、端から端まで届きそうだ。逆に天井は高い。僕の身長の三倍程度だろうか。
 壁には前後左右とも窓がないので、ダストシュートの底を想わせる。
 壁の材質はコンクリ打ちっ放しだった。これは僕の部屋と同じだ。ならば、マンションのどこかにこんな空間があって、僕は酔っ払いでもしてうっかり落ち込んでしまったのだろうか。でもそれなら、なぜ僕の家具も一緒に放り込まれているのだ。
 303や305の隣人とはそれなりに関係良好にやっているし、家賃も滞納していない(そんなことは思い出せた)。家具ごと、こんな粗大ごみのような扱いを受けるいわれはないはずだ。
 わずかな明かりは、天井から漏れていた。天窓のようだ。何枚かの布が天井の中央、二メートル四方くらいに貼りつけられ、それが光を透かしている。窓枠の影が見えるので、布の向こうはガラスらしい。
 その時初めて気づいた。すぐ横のがれき(というか元家具)の上に、男がうつ伏せで倒れている。
「あ、あのう」
 返事がない。手首を取ってみた。
 死んでいる。
「何で!? 誰!?」
 放りだした手首の先、壁に文字が書いてあるのが見えた。
『マドアケルナ シヌ』
 文字は、血文字だ。よく見ると死体は頭から出血していた。これを書きとめて絶命したのか。
 とはいえ、窓はおろかドアすらこの暗い縦穴にはない。あの布で塞がれた天窓のことだろうか。
 でも、開けたら死ぬ? どうして。あの上には何らかの危険があり、僕がここに落とされたのはそれを逃れるためだということか?
 しかしいつまでもここにいれば、いずれ飢え死にするだけだ。
 くそ、記憶が戻れば別の道も開けるかもしれないのに。しかし、今は体力のあるうちにできることをしておく。あくまでも慎重に。
 あの男の死因は、天井からの墜落ではないか。彼は家具に乗るなどして天井へ近づき、布の向こう側に何があるのかを見た。その後バランスを崩して落下し、最後の力を振り絞って血文字をしたためたのだろう。

 僕はがれきの中から、冷蔵庫や棚といった大きめの家具を引き起こした。重ねて壁に立てかけ、ハシゴ代わりにする。
 気をつけながらよじ登って、天井近くまで行けたので、布を少しつまんでみた。どうやら、布テープで応急処置のように天井に留められているようだ。あの男が貼りつけたのか? そして、やけに湿っている。雨でも降ったのが染みたのだろうか。
 思いきって、布を少しはがしてみた。一緒に布テープの一部もはがれる。その上にはひび割れた窓ガラスがあった。向こう側から、鈍い光がゆらゆらと揺れている。
 ゆらゆらと揺れている?
 次の瞬間、テープをはがしたところのガラスが軋んだかと思うと、わずかな隙間から水が漏れ出した。それはあっという間に膨大な奔流となって窓ガラスを押し開け、僕の体を呑み込んで、床のがれきに叩きつけた。
 その衝撃で、ようやく思い出した。あの死体は、昨日うちに遊びに来ていたコウジだ。
 昨日、大きな地震が起きた。建物が傾き、横倒しになった。リバーサイドメゾンの一部は、九十度傾いた状態で、サイドの大きなリバーに着水した。
 家具が全て僕のものなのは当たり前だ。この縦穴は僕の部屋だ。南向きの窓が上になった。北側にあったキッチンと廊下へのドアが下になり、降ってきた家具で隠れた。上下左右がコンクリなので、キッチンとドアが隠れてしまえば、無愛想な縦穴のできあがりというわけだ。
 壁をよく見ればそれに気づいたろうが、暗いのと、死体や記憶喪失に動転して充分に観察できなかった。
 あの布は、カーテンやファブリックを総動員してコウジが水漏れを止めたのだろう。それを僕がはがしてしまった。
 全身を強く打ったせいで、力が入らない。水の中で意識が遠のいていく。
 部屋を満たした水は、妙にしょっぱかった。地震の影響で海水が逆流しているのかもしれない。
 目の前を、海の魚らしきものが泳いでいる。コウジの死体も、僕の脇に漂う。

 地上はどうなっているのだろうか。
 一人暮らしに賛成して送り出してくれた故郷の両親は、今どうしているだろう。
 そこまで考えるのが限界だった。
 僕は、意識を失った。


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このストーリーに関するコメント

17/01/15 あずみの白馬

拝読させていただきました。
何があったのだろうと思わせ、引き込まれました。
最後の仕掛け、本当に起こりそうですね。

17/01/16 クナリ

あずみの白馬さん>
仕掛けを思い付いたときは、「うおおこれはおもろい……!」と思った(自分で(^^;))のですが、評価していただけて嬉しいです!
人も自然も、平和が一番ですね……。

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