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冬垣ひなたさん

時空モノガタリで活動を始め、お陰さまで3年目に入りました。これからも勉強を重ね、たくさんの作品を書いていけるよう頑張りたいと思います。 写真を撮り、絵も描きます。こちらでupするなかで、特に記載のない画像は冬垣の作品です。 ・ツイッター https://twitter.com/fuyugaki_hinata ・時空モノガタリでもお読みいただける、拙作「渋谷スイングバイ」の動画があります。 内容は同じですが、音声読み上げ朗読、エンディング付きです。 「softalk朗読渋谷スイングバイ」  https://www.youtube.com/watch?v=6nsb8bo8Egs (=は半角に直してください)

性別 女性
将来の夢 いつまでも小説が書けるように、健康でいたいです。
座右の銘 雄弁は銀、沈黙は金

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徒歩5分のパントマイム

16/12/31 コンテスト(テーマ):第124回 時空モノガタリ文学賞 【 五分間 】 コメント:2件 冬垣ひなた 閲覧数:520

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「あの家、売れたらしいね」、そんなことを言ったのは買い物帰りの母さんだ。
 日曜日のチラシに載っていた、『新築一戸建て、駅から徒歩5分』。駅前にある、ぼくの住むマンションからも徒歩5分。ぼくはランドセルを降ろし、野球帽をかぶって、早速偵察に出かけた。
 マンションを出て、黄葉が落ちる並木道を下り、川沿いの石畳を歩きながら、橋が見えた所でぼくは足を止めた。
 つい先日までモデルハウスだった、深緑の屋根をしたオシャレな家。庭に咲く金木犀は満開を迎えていて、その下で飼い犬らしきコーギーと女の子が遊んでいる。
 ぼくの心臓は、どきりと飛び跳ねた。
 女の子が立ち上がると長い髪がさらりと落ちる。凛とした横顔がゆっくりぼくの方を向くと、大きな二重の瞳で驚いたように訴える。誰、と言いたげに。
 ぼくは慌てて駆け出した。
 朝一番のクラスの話題になるぞという軽い好奇心を、甘酸っぱい感情が打ち倒した。今見たあの子の唇の色を、カラフルなキャンディのようにガラス瓶に閉じ込めておきたい。嬉しいような恥ずかしいような、何だっていうんだ、この気持ち。


 彼女は5年1組、ぼくと同じクラスになった。葉山七実、それがキレイなあの子の名前だ。
「真野君……?」
 葉山さんがぼくの席に来る。
「昨日私の家に来たよね?」
「いや、たまたま通りがかっただけさ、たまたま……そうだ。朝、学校に一緒に行こう!」
「え?」
「ぼ……ぼくの家が、君の家に一番近いみたいだしっ」
 必死になってぼくが誘うと、葉山さんは「いいよ」と言った。
 毎日、彼女と一緒。
 ぼくは遅刻しないよう目覚まし時計を2個セットして、母さんにひどく笑われた。


 こうして毎日ぼくは学校の道すがら、彼女とおしゃべりする。
 好きなアイドルの話。
 お互いの家族の話。
 休みの過ごし方。
 思った以上にぼくらは気が合った。
 ぼくは冗談を言いふざけるけれど、葉山さんは大人しいタイプで控えめに頷く。
 だからぼくはいつも頼れる奴のように振舞った。
「なんでもぼくに言いなよ」

 でもそれは上辺だけ。
 彼女の家まで迎えに行く、徒歩5分。
 ナニヲ、ハナソウカ?
 ナニガ、オモシロイ?
 ボク、キラワレナイ?
 鼓動は早くなる。本当のぼくは、臆病者だった。
 男子のように大声で笑わず、静かに相槌を打ってくる葉山さんの心が解らなくて。
 ソワソワ、ドキドキ。
 女の子のコトなんて初めてだから、薄雲の空の下で、ぼくは勢いよく傘を開く真似なんてしてみる。
 ボクノカサヘ、ドウゾ!
 何かの役に立つかもしれない想像だけは一人前で、葉山さんに会うまでの5分間は、毎日ぼくの一人舞台だった。



 並木道にイルミネーションが灯る冬。
「これ」、葉山さんの家で行われたクリスマス会で、彼女が一番にマシュマロのお菓子をくれたので、ぼくはひどく浮かれていた。
 けれど、その喜びはすぐに消えた。
 他の男子も、そして女子にも。優しい葉山さんは、分け隔てなくマシュマロを配っているではないか!
 ぼ、ぼくは、特別じゃないのか……。
 現実を突きつけられ、ぼくはうなだれた。
 しかも、二人きりになった廊下で彼女が言う。
「真野君、私、今度からエミちゃんと学校に行こうと思うの……」

 ぼくは思いやりが足りなかった。
 毎日いて、気付けなかった。
 ぼくなんかよりも、葉山さんの方がもっと不安だったんだ。見知らぬ土地に引っ越して、知らない人間ばかりの街で、一人ぼっちで……。
 葉山さんは、友達が欲しかったんだ。
 それはぼくの欲しい「好き」じゃなかった……。

 けれどぼくは笑ったよ。
 葉山さんが幸せなら、僕も幸せだ。

 我ながら、満点の笑顔だったろう。
 5分間のパントマイムが、こんなにもぼくを強くしたんだ。それは嘘偽りなく葉山さんのおかげだった。
 ぼくは彼女に握手を求める。
 葉山さん。
 僕の胸から恋の棘が落ちた。
 そう思ったときだ。

 葉山さんの温かい両手が、ふわりとぼくの手を包む。
 廊下の淡いライトが、白い輪郭を天使のように照らす中、上気した頬が赤く染まり、葉山さんをいつもより大人びて見せた。
 ゴメンナサイも、アリガトウの言葉もない代わりに、葉山さんの温度が、ぼくの冷たい手に伝わった。
 一緒に過ごした時間に、真新しい女の子の感情が上乗せされていく。
 そんな大それた想像はしたことがないので、ぼくが金魚みたいに口をパクパクさせていると、彼女は恥ずかしそうに廊下の奥に消えてしまった。


 その帰り道、嬉しすぎて、最速の新記録を出したんじゃないだろうか?
 徒歩5分から、遠のいた彼女の背中。
 けれど心の距離は0に近づいた、今なら言える。
 ありったけの気持ちを込めた独り言の台詞を。
「……ぼくは、君が大好きだ!」


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このストーリーに関するコメント

17/01/04 そらの珊瑚

冬垣ひなたさん、拝読しました。

初恋だったのかなあ……。
少年のまっすぐな心が、ほほえましいような、まぶしいような気がしました。
ラストシーン、一生忘れられない思い出になるでしょうね。
(でも案外女の子は覚えてなかったりするけど、笑)
本年もどうぞよろしくお願いします。(*^_^*)

17/01/05 冬垣ひなた

そらの珊瑚さん、コメントありがとうございます。

本年もよろしくお願いします!
はじめ、まさに女の子が覚えてなかったために別れのストーリーになる予定だったのですが、思い直し、爽やか風味に作り直しました。レパートリーが増えるよう、今年もいろんな作品にチャレンジしていきたいと思います。

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