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若早称平さん

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神様、ちょっと待った!

16/12/29 コンテスト(テーマ):第124回 時空モノガタリ文学賞 【 五分間 】 コメント:2件 若早称平 閲覧数:611

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 大学を卒業する直前に帰ったきり実に三年振りの帰省だったのだが、どうにも実家は居心地が悪く、買い物に行くと言って街に出た。駅前はすっかり様子が変わってしまい、見覚えのない店や建物が増えていたが、駅の南口を出てしばらく歩いた川沿いの道は私が高校生だった頃から何も変わっていなかった。
 友人達と自転車で通学していた土手をゆっくりと歩いていると、ふとその頃に付き合っていた彼氏のことを思い出した。今にしてみるとだいぶ変わった人だったな、と一人でニヤけてしまう。
「ある日突然死ぬとするじゃん? そうしたら神様が現れるんだよ」
 ちょうどここの土手で彼が言い出した。付き合いたての彼女に何を言い出すのかと怪訝に思ったのをよく覚えている。
「遺書もなく、自分が死んだのを受け入れられなくて成仏出来なくなりそうな奴だけにチャンスをくれるんだよ。一番大切だと思う人と五分間だけ会えるチャンスを」
 今俺が死んだらお前に会いたい。そう続ける彼に少しときめいてしまったのは今では一生の不覚だ。
 どうせ家にいても親の小言を聞かされるだけなのは目に見えているので、神様から最期に五分間もらえたらと考えながらこのまま散歩することにした。春には桜でいっぱいになるこの通りも年明け早々のこの時期には葉も全て落ち、枝の間を刺すように冷たい風が吹きつけてくる。私はコートのポケットに両手を入れ背中を丸めて歩いた。
 まず無難な所を言えば両親になるだろう。どちらか一人に絞らなくてはならないのであれば父親を選ぶと思う。色々と口うるさく言ってはくるが、上司との不倫という情けない理由で会社を辞めた私を本当は心から心配しているのが筒抜けだ。最期の時くらい素直にありがとうと伝えるのも一人娘の役目だろう。
 きっと死ぬ程泣くんだろうな、と父親が号泣する姿を想像しながらマフラーに埋もれた口元が緩んでしまう私は本当に親不孝者なのかもしれない。
 高校時代の元彼の主旨に沿って考えるのならば候補は二人いる。一人は三ヶ月前に不倫関係にあった前の会社の上司だ。既婚者だと知っていながら一年近く付き合っていたが、彼の奥さんと会社にばれそうになったので彼に黙って会社を辞め、連絡も絶った。一度も出たことはないが、今でも時々着信がある。そんな彼と最期の五分間で何を話そうか。
「私、死んじゃったんだ」
 彼は驚くだろう。そして私が彼の元から消えた理由を尋ねるかもしれない。
「これ以上一緒にいると多分あなたに迷惑がかかるから、初めて私に愛してるって言ってくれたあなたへの最後の恩返しのつもりでした」
 何を勝手なことを、と彼は怒るだろう。
「私が身を引くことをあなたに言えば、あなたは困りながら引き止めるでしょ? あなたは優しい人だから。でも、ごめんなさい」
 ぼーっと歩いているうちに川をまたぐ大きな橋まで来てしまった。これを渡って長い坂を上れば母校に着く。私は橋を渡りながら二人目の候補について考えていた。彼とは会社を辞めてとりあえず始めた居酒屋のバイトで出会った。
 二つ年下の彼はバイトをしながらバンドをやっているらしく、今までそういう人とあまり接点のなかった私にはとても新鮮で輝いて見えた。とは言えまだ付き合ったりということもなく、休憩中におしゃべりをしたり、仲間内の何人かで飲みに行く程度の仲でしかない。
 そんな私が現れた所で彼は困惑するだけだろうが、今最も一緒にいて楽しいのは彼だし、こちらの都合を優先すれば彼を選び、最期に想いを告げるのもありなのではないかと思う。
「最期だから言うけど、私君のことが好きだったんだ」
 ありがとう、と彼は言うだろう。さすがにオッケーはもらえないだろうが、今私が死ぬとしたらやり残したことはありがとう、ごめんなさい、好きです、この三つくらいだ。
 高校に着く直前で私はきびすを返した。とりあえず元上司に「ごめんなさい」とラインをしながら家に帰り、父親に「ありがとう」と言おう。そして明日東京に戻ってバイト先の彼に「好きです」と伝えよう。
 ポケットからスマホを出すとタイミングよく元上司から「今どうしてる?」とラインが来ていて、私はそれに久しぶりに既読を付けた。何から話そうかと画面を見つめながら一考していると、突然目の前が真っ白になった。
「突然のことで恐縮なのですが……」
 全く恐縮していなそうな長い髭で真っ黒なスーツ姿の老人が立っていた。その後ろでは赤い車の周りに人だかりが出来ている。
 ああ、彼の言っていたことは本当だったんだ。なんとなく状況を理解した私は目の前の老人に言った。
「神様、それもうちょっとだけ考えさせてもらってもいいですか?」


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このストーリーに関するコメント

16/12/29 霜月秋介

ちりぬるを様、拝読しました。
自分が神さま実在するオチでしたか(笑)
もし自分が死んだら誰に別れを告げたいだろうか。考えさせられる話でした。面白かったです。

16/12/30 若早称平

霜月秋介様コメントありがとうございます!
死ぬ前に最後に食べたい物は何か?っていうよくある話題を元にしました。
ちなみに裏テーマは「歩きスマホは危ないよ」です(笑)

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