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結簾トランさん

お話を書くのが好きな、結簾トランと申します。紅茶とケーキと古めのものも好きです。よろしくお願いいたします。小説家になろうにも同名でおります。http://mypage.syosetu.com/915289/

性別 女性
将来の夢 たのしいお話を生み出す人になりたいです。
座右の銘 「結局俺たちに選べるのは、やるかやらないだけなんだ」FFXのジタンの台詞です。

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優しいぬくもりを手探りして

16/12/27 コンテスト(テーマ):第125回時空モノガタリ文学賞【優しさ】 コメント:0件 結簾トラン 閲覧数:352

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「ストーブのね、出したばっかりの時の埃の焦げる匂いってすごく落ち着きませんか?」
「あぁ冬だなぁって感じで」

 そうなのか?と青年が返す。彼女は頷いた。
「うちは両親の趣味で薪ストーブだったからなー、薪の燃える匂いとか、パチってはぜる音かな」
「あーいいですね、憧れます」
 本の中では見慣れた光景が浮かんできて知らず笑みが浮かぶ。想像の中の暖炉の前には、なぜかサンタ・クロースが座っていた。

 二人が歩いている閑静な住宅街。どちらも仕事帰り、珍しくどちらも残業がなかった。夕方よりすこし手前、半端な時間のせいか、木枯らしの吹き荒ぶ道には誰も見えなかった。押し黙る家々だけが二人を見送っている。
「なんかこう、閉鎖的というか、こじんまりした温もりといいますか。冬の暖房器具ってちょっと幸せになれる感じがしませんかね」
 彼女は両手を擦り合わせながら言葉を継いだ。こんな風に彼女が自分から話題を振るのは珍しい。考え考え話す小柄なつむじがなんだか愛おしくて、ひとつ年嵩の青年は目を細めてそっと見つめた。あ、とちいさく叫んで彼女がぱっと目を上げる。青年は反射的に歩道のスズメに注意を引き付けられた、…ふり。
(……なんか、負けた気分)
 なんだかすごく、敗北を感じている先輩には気づかず、彼女はのんびりと続けた。
「帰り道のカレーの匂いとかもいいなぁと」
「あっそれはわかる!で、自分家に帰っても作ってあるわけないからさ、ちょっと落ち込んだりするんだよなー…あ。いや、」
「ふふ、わかりますよ」
 ふわりと笑われ、ほんのすこしプライドと安心がせめぎ合い。しかし彼女の穏やかな空気に感化されたのか、それは後者の勝利に終わった。
「あー…とな、帰って夕飯と…誰かが待ってたらさ、嬉しい、よな」
「ええ、とても」
 一人暮らしですからねと彼女が付け加える。
「でもお前は猫がいるんじゃないか」
「アーニャは大切な存在ですけど、そういうのとはまたちょっとちがいますね」
 そういうものかと青年は考える。そっか、呟いてまたすこし沈黙した。

「お、雪だ」

 気づけば天から、音もなく白いものが降りてきていた。
「わぁ、ホントですね!」
 彼女が伸ばした手に、青年の真っ赤な鼻の頭に、一瞬だけの装飾を加えて溶ける。あとは慎ましやかに舞い降りていった。
 さっきの、と青年が呟き、彼女は顔を上げる。
「待つ方、はさ……嬉しいんかな」
 黒目がちな大きな目は、またやや伏せられた。
「うれしいと、おもいますよ。早く帰ってきてくれるなら、ですけど」
「そっか。お、俺はさ、待っててくれたら誰でもいいってわけじゃないんだ」
「わたしだって、そうです」
 だよな、嬉しげに笑う青年を見上げると彼女はちょっと考えて。その空いた手の人差し指をそろりと掴んだ。
「お、おい?」
「さむいですね、……なんて」
 恥ずかしそうに。手探りに確認を積み重ねる、自分たちの初々しさが可笑しくなって笑った。
「……ああ、そうだな」
 ホントになんて恥ずかしい。
 でも、嫌いではないと。
「…なぁ?あのさ」
 彼女の手にしっかり指を絡ませてから、青年は妙に神妙な様子で息を吐いた。
「なんでしょう、……」
 彼女もそっと握り返す。震えそうな指先にはすこしの不安と期待を込めて。
「もし、その…お前さえよかったら」
 切り取られた帰り道には、凍てついた家と、道と、白。声を持たぬものたちは、眠るふりして二人を見守った。

「…俺と…」

 次のことばまであと1秒。忘れた温もりまであと何秒?アレルヤ、アレルヤ。喫茶店のBGMが微かに木枯らしへ加わった。
 アレルヤ。ああ、幸いなるかな!


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