1. トップページ
  2. 一緒に歩くための検討時間を

結簾トランさん

お話を書くのが好きな、結簾トランと申します。紅茶とケーキと古めのものも好きです。よろしくお願いいたします。小説家になろうにも同名でおります。http://mypage.syosetu.com/915289/

性別 女性
将来の夢 たのしいお話を生み出す人になりたいです。
座右の銘 「結局俺たちに選べるのは、やるかやらないだけなんだ」FFXのジタンの台詞です。

投稿済みの作品

0

一緒に歩くための検討時間を

16/12/26 コンテスト(テーマ):第124回 時空モノガタリ文学賞 【 五分間 】 コメント:0件 結簾トラン 閲覧数:579

この作品を評価する

 返事は別にいらないよ。特急が通り過ぎるのを見詰めながら、ベンチの隣に座る友人はそう言った。
 いや、俺は友人だと思っていたのだけれど、こいつにとって俺はそうじゃなかったらしい。追えない速さで通り過ぎる車体をじっと見たみたいに、微動だにしない友人の横顔がブレて見えた。あのう、好きだって今、言った?いつから?昔からそうなの?っていうか、世間の可愛い女の子を差し置いて俺のどこら辺を。俺、ブレザー着てて、胸もないんだけど。ま、まさか俺のこと女の子だと思ってたとか、お前目悪かったっけ?こんなふうに茶化したかったが、片方しか見えない友人の目はいつになく真剣で、それでいてどっか諦めのような笑みを湛えていて、からかう台詞は全部こいつの見えない手で押し留められてしまった。なんとか出せたのは、「そっか」みたいな、掠れた情けない相槌だけ。橋崎(こいつの名字だ)は「それだけかよ」と笑った。言わせなかったのはお前のくせに。
「え、っと、今まで考えたことなかったから、えぇと」
「返事はいらないって言ったろ」
 まるで俺の方がヘマをしたみたいに、こっちを向いてふっと噴きだすこいつに若干、なんだよと思う。告白されたのなんて初めてなんだぞ。俺、お前が好きだよ。なんてサラッと。いつか格好良く吐いてみたい言葉だったのに格好良く吐かれ、こっち側の対応など想定していなかった俺はどもりにどもって全く立つ瀬がない。実際、俺はほんとうに困り切った顔をしていたのだろう。橋崎は忘れていいよと言った。一度口から出した言葉は決して戻れないんだと、どこかで聞いた窘めをこいつの耳にタコが出来るまで言い聞かせてやりたい。
「忘れられる訳ないだろ。そんなこと言うなら、なんで秘密にしとかなかったんだよ!」
 思わず大きな声が出た。そうだ、秘められるものならそうしておけば良かったんだ。同じクラスで席も近くて、考えてみれば休日までいつもつるんでいるような間柄だ。いつの間にかそうなっていた。これからどうすればいいんだよ、どう考えていけばいいんだ。やけくそに呟いた言葉を聞いた橋崎も、同じくらいのトーンで「隠しておけなくなった。お前と居る時がいちばん楽しいって、言ってみたくなった」と言った。こんなふうに俯いているところはあんまり見たことがなかった。一緒にいるときは確かにいつも楽しそうだった。俺だって楽しかった。恋愛感情を絡めてこの友人を見たことはなかったけれど。
「あの、それで、俺をどうしたいの」
 恐る恐る一応聞いてみる。乗れる電車が来たけれど、椅子からどちらも立ち上がれない。同じ高校の制服の人がちらっとこちらを見ては乗り込んでいく。閉まるドアに、知らない世界に連れていかれる自分を想像した。
「ううん、そうだな……あんまり考えてなかったな」
「ああお前はいつもそうだよ、なんでも考え無しに喋るんだよ」
「うん、だから考え無しに告ってみたりして」
「そこはもうちょい考えてほしかったよバカ!」
 あんまりにあんまりないつも通りに呆れ、つい癖で右フックの真似して小突いていた。笑いながら橋崎が吹き飛ぶ仕草をする。日常に近い一連の流れに感じる、安堵。そうか、と俺は気付いた。何も考えずに繰り返してきた日常が壊れるのを、俺は今危惧している。いつも一緒にいたのに、こいつはこれから急に遠くなって俺を独り残していなくなろうとするんじゃないのか。別にこれは、俺にも恋心があった!とかじゃない。友人を失う危機を本能的に察知して恐れている。暗くなった空と、疎らになった駅。空虚を演出するには充分に汚れたホーム。
「考えてないなら、変な気起こすなよ」
 俺は勝手に居なくなるなよ、の意でこう言ったのだが、この大馬鹿は「こんなとこではさすがに手は出さない」などとのたもうた。俺はさっきより力を込めて殴った。もう、どうするんだ。告った当人が何も考えてないなんて、告られたこちらはどうにも出来ないだろ。お前はバカだバカだと繰り返していたら、今考えるから肩を貸せと言ってきた。
「五分だけ」
「長っ」
「短すぎるくらいだろ」
 人生を決める五分だぞ、訳の分からないことを言いながら、橋崎は俺の肩口に顔を埋めるようにして背に腕を回した。並んで座っていたのを無理に横向きにされたので、俺はベンチに膝をついて乗り上げる破目になる。
「おい!これ肩を貸すって言わないけど!橋崎!」
「うーん」
 それから五分間、のらりくらりと文句を躱しながら本当にこいつは俺をホームで抱き締め続けた。絶対誰かには見られた、明日の学校が怖い。長すぎる五分が漸く過ぎて頭をはたいたら、橋崎は妙にすっきりした顔で俺を放した。
「お前が逃げなかったから、俺も決めた」
 何か納得しているけど俺は混沌の渦に抱かれたまま。その裏側、笑顔にほっとしている俺も居る。ああ、こいつはただの橋崎だと。


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

ログイン