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W・アーム・スープレックスさん

性別 男性
将来の夢
座右の銘 作者はつねにぶっきらぼう

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ステーキ

16/12/25 コンテスト(テーマ):第125回時空モノガタリ文学賞【優しさ】 コメント:0件 W・アーム・スープレックス 閲覧数:350

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カリブ海上を客船で北上していたとき、突然の大波をうけて船が大きく傾き、あっと思ったときは私は海上に投げ出され、ほかに投げ出された者たちといっしょに、とにかく沈没する船体から逸早く逃れるために死にもの狂いになっていた。
何人かと海面を漂っているうちに、いくらも離れてないところに島影がみえだした。みんなは互いに励ましながら、その島めがけて全力で抜き手を切った。
島に泳ぎついた者たちは17名いた。だが悲しいことに2名が、上陸してまもなく、衰弱のために息をひきとった。私たちは森のなかに2人の遺体を埋葬した。
「十五少年漂流記みたいね。もっともあたしは少年じゃないけど」
少女というにも年のいきすぎているハナエは、森のなかでみつけた大きな花びらを髪飾りにした。
「かれらがサバイバルにむいているかどうか………」
と私は、文明の息がひとつもかかっていそうもないこの孤島に立つ15名の男女を、不安げにながめた。
「なんとかなるさ」
と、一人の男が、椰子の樹によじのぼろうとしたが、一メートルも進まないうちに、ずるずると滑り落ちてしまった。また別の男性が、谷川で水をのもうとして流れに落ちてしまい、それを救いあげるのに全員、青息吐息になってしまった。
「これじゃ、明日まで生き延びるのさえ、大変だ」
私たち全員は、一様に表情を曇らせた。
「あ、あれは―――」
ハナエが最初に、腰ミノ以外全裸の人間たちが茂みをかきわけて近づいてくるのをみつけた。
「ここは無人島じゃなかったのね」
ハナエが手をふると、相手の連中も彼女をまねて手をあげた。
私たちは、こちらをみつめるかれらの、慈愛にみちた目の光をみて、心から安堵した。
「こちらにこいといってるようだ」
島民に導かれて我々は、十数分後には木と葉でできた小屋がとりまく地帯にやってきていた。
そこでは野生の豚や極彩色の鳥が囲われ、また豊かにみのった果実が山と盛られている。我々はそこで、素焼きの器にいれた酒をふるまわれ、大勢の島民たちと乾杯をした。
「いくらでもここに留まっていけといってるようだ」
身振り手振りで私は、島民たちとコミュニケーションをとった。
女たちが、私たちのまわりに集まってきて、壺から酒をついでくれた。そのうち、いい匂いが漂ってきたかと思うと、石の皿にのせたステーキがみんなの前に並べられた。
「なんでもこれは、島で最高のごちそうらしい。彼らでさえ、めったに口にはしないそうだ」
私たちはさっそくステーキを味わった。最高のごちそうの名に恥じずそれは、軟らかくて脂がのっていて、ながいあいだ海水にさらされていた我々に、元気をもたらしてくれた。
「本当においしいわ。あの豚のお肉かしら」
ハナエが、柵のなかの四足たちをながめた。
「いい島に流れ着いて、感謝しなければならないな」
私は、こんなもてなしをしてくれた島民たちが、ひとつもそれを鼻にかけてないのが気にいった。打算と報酬しか頭にない都会人とはかけはなれたかれらの、おもいやりにみちた優しさが、いまかみしめるステーキの味にこめられているかのようだった。
それからもかれらは、毎日のように、我々に島でとれる豊富な果実を、また家畜の肉をふんだんに提供してくれた。おかげで何日もしないうちに私や仲間たちは、栄養豊富な食べ物のおかげで体力を回復するとともに、体に肉がついて、何キロも体重がふえていた。
私たちは、こんな優しい人間たちがいる島ならこのままいつまでもすみついてもいいとさえ思いはじめた。
そんな島民たちの顔に、なにかを期待するかような表情がやどりだしたのに、私もハナエも気づいていた。
「満月になるのを、まちわびているようよ」
「満月になると、なにかおこるのだろうか」
「私たちも、なんだかまちどおしいわね」
その満月まで、あと一日と迫ったとき、仲間のひとりが、妙にこわばった顔で私にそっと耳うちした。
「ちょっときてくれ」
彼は私を、例の亡くなった仲間が埋められている墓がある森につれていった。
「だれかが掘り返したらしい」
彼の言葉どおり墓は、ふたつとも暴かれて、黒々とした穴だけになっていた。
「いったい、だれが………」
当惑した顔を私たちが交わしたそのとき、ふいにざわついた背後の茂みから、槍で武装した島民たちがあらわれた。私が笑顔をむけるよりもはやく、島民たちは私たちの腕をとらえて、そのままむりやりつれていったさきは、やはり縄で拘束されたハナエたち仲間のところだった。
「この人たち、満月の夜に、私たちを食べるつもりよ」
泣きながらいうハナエに、そんなばかなといいかえそうとした私の頭にそのとき、掘り返された墓穴と、島に流れついたときに食べたなんの肉かわからないステーキのことがかすめすぎた。それに加えて、私たちを丸々とふとらせた滋養豊かな食事のことも………。







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