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浅月庵さん

笑えるでも泣けるでも考えさせられるでも何でもいいから、面白い小説を書きたい。

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Sometimes Alone

16/12/25 コンテスト(テーマ):第125回時空モノガタリ文学賞【優しさ】 コメント:0件 浅月庵 閲覧数:669

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 高校卒業後に上京して、数年で金融大手の銀行員と結婚した姉貴。顔立ちが整っていて頭も良かったので、こいつの周りにはいつも人が集まっていた。俺とは大違いだ。
「よりにもよって二人とも旅行かよ」
「お母さんには連絡してたんだけど、日にち勘違いしてたみたい」
「あぁ〜」
「明日の朝には確実に戻るから」人妻が朝帰りなんかしていいのか。「勇輝、文也の言うことちゃんと聞いてね」
「はい」

 今日、姉貴は高校の同窓会に出席するため、北海道の実家に帰ってきた。会自体は夜からみたいだけど、その前に仲の良かった友だちと集まるらしいので、荷物だけ置いてさっさと出かけてしまう。まだ午前十一時だ。

「勇輝、なんかするか?」
「いえ、お気になさらず」
 敬語かよ。二年ぶりに会った甥っ子は、やけによそよそしい。
 俺は二階の自分の部屋からゲーム機を持って来て、居間のでかいテレビに接続する。さすがに六歳児を放置するわけにはいかないので、一応目の届くところで。

 一時間ほど経過し、やけに静かだなと後ろを振り返ると、勇輝の視線はさんすうドリルに釘付けだ。「勉強ばっかやって疲れん?」
「平気です」
 普通このくらいの子どもって、遊びまくりたいお年頃なんじゃないの。

「ちょっとやってみ」
「えっ?」
「息抜きも必要だぞ」
 俺は半ば無理やり勇輝をテレビの前に座らせる。本当にこいつは一度もゲームで遊んだことがないらしい。マジかよ。
「おぉ、上手いじゃん!」
「すごい楽しいですね!」
 たかがゲームで、まさかここまで喜ぶとは思わなかった。

 二時間ほど遊んでいると、時計の針は昼の時刻を大幅に過ぎていた。
「腹減らね?」
 俺が聞くと、先ほどまで笑顔だった勇輝が顔を俯かせる。
「大丈夫です」
「本気で言ってんの。もう二時だぜ?」
「……本当は減りました」
 なんじゃそら。こいつは一体、何に気を遣っているんだろう。

「好きなもん頼んでいいよ」近くのファミレスのボックス席。俺が勇輝にメニューを向けると、勇輝はポテトを指さす。「あとは?」
「これだけでいいです」
「冗談やめろよ。なにが食べたい?」
「……」
「じゃあ勇輝、強制的に激辛キムチ鍋!」
「これが良いです」
 慌てて勇輝は子ども用ハンバーグセットを選ぶ。

 結局、俺たちはデザートまで平らげて店を出た。
 その後、ゲームセンターで少し遊んでいると日が暮れる。俺たちは家に戻ることにした。

「あのさ、勇輝。いくらなんでも遠慮しすぎだよ」
「どういう意味です?」
「子どもはアレ欲しい、コレやりたいってワガママ言うのが仕事だぜ」
 俺が軽い気持ちでそう言うと、途端に勇輝の瞳の光が失せる。
「……お母さんが言っていました。小さい内から我慢を覚えてきちんと勉強しないと、ろくな大人になれないって」
 まるで二十歳にもなって親の脛をかじっている、出来の悪い俺への当てつけみたいな教育理論だな。

 ーーいや、違う。俺がこんな駄目人間だから、姉貴の考えが変な風に傾いて、全然関係のない甥っ子に被害が及んでいるのか。

 本当だったら姉貴は、自分の子どもを少しでも俺に近づけたくなかったんだろう。だから俺には、勇輝が泊まりに来ることを知らせなかった。いつもこうだ。
 ニートになる前から俺は、どこか家庭内で疎外感を覚えていた。優秀な姉貴と比較されるのがいつも苦痛で、その内何もかもがどうでも良くなる。
 俺は他人のことを一切気にせず、自分のことだけを最優先に考えるようになった。
「勇輝さ、たまに寂しくならん?」

 次の日の朝、予定通り姉貴は勇輝を迎えに来る。
「勇輝どうだった。大人しくしてた?」
「あのさ、姉貴」
 俺は勇輝に感じた異変を、勇輝に聞こえないよう姉貴に話した。過剰なまでに勉強ばかりさせていること、遠慮の仕方が異常なまでに子ども離れしてること、時々心がどこか遠くへ行ってしまうこと。
「私は勇輝に自己中のあんたと違って、他人へ気配りの出来る賢い子に育ってほしいと思ってる」
「……」
 ほら、やっぱりそうだ。
「勇輝を預かってくれたのはありがとう。だけど、そろそろ自分の心配したら?」

 姉貴に手を引かれ、勇輝はこの家を後にする。
 一度こっちを振り向いた時、俺は勇輝の笑顔に混じった悲しみの断片に気づいてしまう。

 俺みたいな人間になっちゃいけないのは勿論だけど、その教育も勇輝を一人ぼっちにさせてしまわないか心配だ。なんてこと、今の俺に言う資格はないのだろう。

 社会的地位の高い旦那を持つ、才色兼備な姉貴に自分の意志を通すには、俺が立派な人間にならなくてはいけない。
 同じ言葉でも、口を開いた人間次第で重みとか意味っていうのは変わるもんなんだ。

 それなら俺は、自分以外の為に頑張らなくてはまずいのだろう。


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