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みんなのきのこむしさん

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小さな盟友

16/12/23 コンテスト(テーマ):第124回 時空モノガタリ文学賞 【 五分間 】 コメント:0件 みんなのきのこむし 閲覧数:497

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 リーレンは隠れ場所から外を眺めて、夜が開け始めたのを認めた。
 苔むした素焼きレンガの隙間から、遠くの森の上が仄白くなっていくのが見える。
 しかし隠れ場所からは、それ以上日の光をうかがえない。
 処刑に連れて行かれる途中、獄卒たちを振り切り、戦って何とか逃げ延びたのはいいが、そのために鼓動も呼吸もひどく速まっている。
 太陽と自分の身体、そのどちらを使っても、時間の経過を掴むことはできない。
 しかしリーレンにはこれから三十分を、大体でいいから何が何でも計って、知る必要があった。
 城塞都市を脱出するには、引き潮のときを逃せない。
 海から水を引いた堀が浅くなって、流れも弱くなる。そこを渡るしかなかった。
 リーレンは牢で見付けて集めておいたものを、袋状にした囚人服の裾から出し、素焼きレンガの床に乾いた場所を探して、規則正しく並べた。
 小豆のような形と大きさのそれらは、微かだが力強さを感じさせて、表面を奮わせている。そして二つ三つと飴色から小豆色に変わっていく。

「あいつ、こんな所にいたのか」
 捜索隊長がリーレンの隠れ場所に踏み込んで唸った。
 そこは閉鎖された渡し船の番小屋で、堀に近い。
 外から中をうかがえない代わりに、外の様子を見ることもできなかった。
 しかし義賊リーレンは脱獄して、丁度いい時間まで番小屋にいた。そこを出ると、最後の力を振り絞って見張りを当て落とし、足が着く所を素早く選んで堀を渡り、城塞都市から逃げ去ってしまった。
 その戦い方も走りも伝説の義賊にふさわしく、二冬を独房で過ごした疲れも衰えもない鮮やかさだった。
 追っ手はあと一歩の所で取り残され、しかもリーレンは謎を置き土産にしている。
「どうやって引き潮の時を知った?」
 捜索隊長が思わず疑問を口に出している間に、部下の兵士たちは閉鎖された渡し船の番小屋を、くまなく探り回った。
「床にこんなものが」
 一人の兵士が、床に幾つも並んだ紙よりはるかに薄く所々が破けた砂色で空洞のいびつな楕円球を、慎重に一つ取り上げて示す。
「虫の抜け殻だな。サナギの」
 隊長はそれに意味があると思えず、興味なさそうに呟いて、湿っぽい番小屋の内側を、ゆっくり見回した。
 しかしその動きは、ある兵士の驚きの一声で止められた。
「小豆虫! リーレンはそれを使って時間を」
 隊長に表情で促され、その兵士は話した。
「名前通り小豆とよく似た虫です。私の故郷に多いのですが、このあたりでも時々見掛けます。暖かい場所でサナギになって、それは飴色ですが、成虫になる直前、小豆色に変わり、五分ほどすると甲虫が出てきます」
 隊長以下捜索隊は、リーレンガどうやって時間を計ったのかを、皆まで聞かないうちに覚った。
 リーレンは一年半の間、西日の射す独房に入っていた。
 そこにやって来た小豆虫の性質を知って、脱走に利用した。
 五分また五分とサナギの変色と羽化で時間の経過を計り、三十分待って隠れ場所を、そして城塞都市を出た。
 番小屋にリーレンはもちろん、一匹の小豆虫も残ってはいない。
「すぐに追うぞ!」
 隊長は部下に号令しながら、焦りと虚しさを感じる。
 義賊リーレンに、また一つ伝説を作らせてしまった。
 
 リーレンは城塞都市から安全な所まで逃げ延び、すっかり夜の明けた青空を見上げた。
 長い間牢に入って身体がなまっている。違法な高利貸しから証文を、賄賂で私腹を肥やす役人から金を奪い取りでもしながら、技量を戻していこうと思う。
 まだ農作業の始まっていない早朝の畑に案山子を見付けて、その服と囚人服を代えさせてもらった。
 そのとき囚人服の縁をちょこまかと歩き上ってくる小さな甲虫が目に入った。
 服の裾に作った袋に、サナギが気付かれず一つ残っていて、それから羽化した小豆虫だった。
 羽をすっかり乾かし終え、触覚を振りながら飛び立つため高い場所を目指している。
 リーレンは気配を消して虫の進む先に指の先を出し、小豆虫が上ってくると、その手をゆっくり高く上げた、
 短い時間を共にした小さい盟友は、羽を開いてしばし奮わせると、青空に飛び去って行った。


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