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奈尚さん

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消失のサンタ

16/12/19 コンテスト(テーマ):第123回 時空モノガタリ文学賞 【 クリスマス 】 コメント:5件 奈尚 閲覧数:1131

時空モノガタリからの選評

ある日、突然手もとから消え、思いがけないところに届いたモノたち……。今回クリスマスというテーマということで、家族や恋人といった半径数メートルの世界を描いたものが多い中、紛争国という、社会的にも距離的にも日常からかけ離れた場所と結びつけている点が新鮮でした。ニュースを見て突き動かされるように、次々とプレゼントを購入していくシーンは、特に素晴らしいと思います。非常にシンプルな行為ながら、内から湧き上がるような衝動がストレートに伝わります。主人公は取り立てて平和問題に関心がある人間ではないのかもしれませんが、損得考えず行動する姿には偽善的なところも感じられず、真摯な情熱のようなものが感じられました。シンプルな構成なのが良かったのかもしれませんね。そしてラストでの、平常と何も変わらない現実世界の描写が、よりリアリティを出していたと思います。

時空モノガタリK

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 昨夜見た夢の話だ。羽の生えた少女が現れて、まっすぐ私を指さし言った。
 あなた、サンタクロースにおなりなさい、と。

「そういえば今日はクリスマスイブだっけ」
 顔を洗いながら、鏡越しにカレンダーを確認する。社会人となり一人暮らしを始めてからというもの、すっかり行事というものに注意を払わなくなってしまっていた。
(なんであんな夢を見たんだろう。サンタなんて柄でもない)
 首をひねりつつ、ひげ剃りに手を伸ばす。
 右手でグリップを握り、頬に押し当てる。毎朝やってきた動作だ。目をつぶっていたってできる。
 しかし、今朝はいつもとは勝手が違っていた。握ったはずのひげ剃りが消えたのだ。
「ん?」
 落としたのかと床を見る。ない。元の場所にも、洗面台にもない。
「おかしいな」
 とりあえず顔を拭こう。ハンガーにかけてあったタオルを取る。ふかふかのその布地に触った途端、私の右手は空を切った。
 さっきまでそこにあったはずのタオルも消え失せたのだ。

 不思議な現象は、それで終わりではなかった。
 着替え。朝食のパン。マグカップ。新聞までが姿を消した。どうやら右手で触れるとなくなってしまうらしい。目を凝らしていようが、足で踏んづけていようが関係ない。触れたと思った次の瞬間には、煙のように消えてしまっている。
(一体どういう事だ)
 そのままの状態で会社に行ったが、うっかり何かを消してしまわないかと思うと気が気でなかった。重要な書類でも消したら一大事だ。すっかり神経をすり減らし、帰宅してテレビをつけた時にはヘトヘトになっていた。
『すてきなニュースが入ってきました』
 アナウンサーがにこやかな顔で告げた。
『戦争にあえぐこの国ではクリスマスを祝う余裕がなく、サンタからのプレゼントを心待ちにする子ども達の願いを、誰も叶えてあげられません。ところが今朝、五歳の女の子に一つの菓子パンが届けられたそうです』
 菓子パンが大写しになる。それは、消えてしまった朝食のパンに瓜二つだった。
『気がついたら枕元にあったそうで、誰がどうして置いていったのかは不明です。女の子は家族とパンを分け合い、久しぶりに笑顔を見せました』
『現地からお伝えしています。この家に住む六歳の男の子に、日本製と思われるワイシャツが届きました。送り主は分かりません。両親を爆撃で亡くした彼は、天国からプレゼントが届いたと喜んでいます』
 リポーターが示したシャツは、私が今朝着ようとしたシャツと同じものだった。
 ――あなた、サンタクロースにおなりなさい。
 昨夜の夢がよみがえる。まさか、あの言葉はそういう事だったのか。
『危険にさらされたまま、寂しいイブを過ごす子ども達は沢山います。少しでも多くの子ども達が、プレゼントを受け取れるといいですね』
 その言葉にいてもたってもいられなくなった。時計を見る。午後九時。もうすぐイブは終わってしまう。慌てて財布をつかんで、外に飛び出した。
 近所のケーキ屋は閉店間際だった。シャッターを下ろす店員の手を、私は左手でつかみ引き止めた。
「す、すみません! まだ何か余っていませんか」
「ごめんなさい。今日はイブでほとんど残っていなくて。クッキーなら何袋か」
「それ全部ください!」
 右手で触れないよう慎重に支払いをすませ、クッキーを抱いて外に出る。誰も見ていないのを確認して、私はそれに右手で触れた。
 消えるクッキー。胸を高鳴らせる私の耳に、電気屋のウインドウに並べられたテレビから声が届いた。
『先ほどのニュースですが、今度はクッキーが届いたとの報せが入りました! 話によると、いきなり手の中に出現したそうです。不思議ですねえ』
 やはり――!
 確信した私は、次の店に向かって走り出した。
 おもちゃ屋。それから文房具屋。小さな子どもが喜びそうなもの、遠い異国でも使えそうなものを買っては、右手で触れて『消して』いく。
(急げ、急げ。サンタはイブの間にプレゼントを配り終える。もうあと数時間しかない!)
 息が切れるのにもかまわず走った。我が子へのプレゼントを求める父親とでも思ったのだろうか、店員が笑って大変ですねと労う。ああ大変なんだ。もう時間がない。あと二時間……一時間……三十分……。

 そして遂に、時計の針がぴったり重なった。電気屋の液晶パネルがカランカランと電子音をたてる。
『家電ハウスが十二月二十五日午前零時をお知らせいたします』
「ハァ……ハァ……」
 私は息を荒くして、その場に立ち尽くしていた。右手にクレヨンが一箱残っていて、それはもう、消えなかった。
(終わった……)
 世界は何も変わらなかった。
 ニュースは相変わらず、遠い国の陰惨な戦争を報せている。思わず目を閉じ祈った私の横を、サイレンを鳴らしながらパトカーが通り過ぎていった。


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このストーリーに関するコメント

16/12/23 クナリ

右手の奇跡を悟るや否や駆け出す主人公がいいですね!
躍動感のあるプレゼント贈りのシーンがとても好きです。

16/12/25 待井小雨

拝読致しました。
はじめ、この設定はコメディになるのかな、と思いました。けれど、読み進めていくうちに主人公が四苦八苦していた能力が辛い境遇にある子供たちに幸せをもたらすものと判明し、更には主人公が子供たちの為に奔走してプレゼントを用意していく姿に涙が出ました。
自分の行う何かが、どこかの誰かの幸せの種になるなんて素敵ですね。

16/12/25 奈尚

≫ クナリ 様
コメントありがとうございます!
こういう、ちょっと変わった奇跡を振り分けられるのは、冴えないところはあってもまっすぐで優しい人なのではないかな、と思って主人公を描写しました。
後半部分は、主人公が感じている焦りや、残り時間の短さを何とかして表現したいと思って書いたので、躍動感があると言っていただけてとても嬉しいです。
心温まるコメント、本当にありがとうございました。

≫待井小雨 様
コメントどうもありがとうございます。
なるべく前半からは予想がつきにくい結末にしたいと考えていたので、そう言っていただけて本当に嬉しいです。
主人公が贈ったものはささやかなもので、それで子ども達の人生をどうこうできるようなものではないのですが、まさに待井さんが仰るように「幸せの種」になればいいなと思います。
素晴らしいコメントを、本当にありがとうございました。

17/01/01 奈尚

≫ 海月漂 様
コメントありがとうございます!
主人公が起こした奇跡は本当にささやかなもので、優しくはあっても、厳しい今の状況をどうにかできるほどではない。
そんな切なさ、やるせなさを表現したいと考えて書いた話だったので、ラストのシーンでそれを読み取っていただけたとのコメントに頬が緩みました。
劇的な変化は訪れずとも、主人公の行動、そして気持ちの変化は決してゼロと同じではないと私も思います。
お心のこもったコメントを、本当にありがとうございます。

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