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本宮晃樹さん

ふつうにサラリーマンをしております。 春夏秋冬、いつでも登山のナイスガイ。 よろしくお願いします。

性別 男性
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不撓不屈の人びと

16/12/17 コンテスト(テーマ):第95回 【 自由投稿スペース 】 コメント:0件 本宮晃樹 閲覧数:464

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「幕僚長!」荒々しい足音とともに空佐が駆け込んできた。「すでにお聞きおよびかとは思いますが、中国大陸から多数の航空機が――」
「知ってる知ってる」航空幕僚長はむしろ笑顔を浮かべてさえいる。「参ったなあ。どこに向かって連中、飛んできてると思う。ずばりここ。東京だよ」
「お言葉ですが幕僚長、あまりにものんきにすぎるというか、その」
「だってきみ、どうしろってんだい。五年前の悪夢の日、世界平和を標榜するありがたい護憲主義者どもが大挙して押し寄せて――それもバズーカ砲で武装してだよ――わが空自の航空兵力はメタメタに破壊されちまった。いまの俺たちは丸裸も同然さ」
「そうは言っても現実に多数の爆撃機が飛来してるんですよ。だからわたしはずっと言ってたんです。中国に決して気を許しちゃいけないって」
 航空幕僚長はあごひげをしごきながら、「そうさな。まあひとつ言わせてもらえば、俺は片ときも連中に気を許したことなんかなかったんだがね」
「じゃあなんでこんなことになったんでしょう」
「つまりさ」航空幕僚長は肩をすくめた。「平和ボケした国民が、おとなりは文句なしの友好国だって早合点したわけだ。この国じゃ十八年生き延びられればとりあえず投票はできる。まともに国防のことを考えられるかどうかはこの際問題じゃない。それが民主主義ってもんだろ。ちがうか?」
「そうかもしれませんが、民主主義で国が滅んで連中は満足なんでしょうかね」
「どうだろうな」彼は諦観の混じった半笑いを不意にやめた。「少なくとも俺は満足してないがな」

     *     *     *

被害報告書(草稿)
防衛大臣殿

 このたびわが国が受けた攻撃は史上まれに見る大規模なものであり、その被害総額はいまもってなお計り知れないものであります。これほど効率的かつ徹底的に爆撃が実施された物理的背景には、次のような要因が挙げられます。
@わが国と中国の距離
 三十ノットも出ていないコンテナ船でさえ、三日ないし四日でわが国に入港してしまう昨今です。最短距離を飛行する航空機にとっては町内の散歩程度のものだったでしょう。
A防衛意識の欠如
 戦略爆撃機はおろか迎撃用の局地戦闘機さえ持っていない国があり、当面のところは脅威にはならないけれどもいつでも再軍備可能な財政状況にあるとしたら、攻撃されないと考えることのほうがむしろ驚きでありましょう(わが国が戦闘用航空機をまったく保有していない経緯については、五年前の〈平和的打ち壊し〉(報告書番号七五四八-N)を参照のこと)。
B中国の政治体制
 資本主義経済に移行したとはいえ、中国は民主政治からはほど遠く、いまだに共産党政権が絶大なる権力を保有しています。党首脳が日本を攻撃すると決めたが最後、誰も止められる人間は存在しません。われわれは向こうの権力者が全国民が平等に与えられた選挙権によって選出された、自愛あふれる高潔な政治家たちだと誤解していたのではないでしょうか。
 最後に取り急ぎ、顛末を記載して報告を終わりたいと思います。中国からは数千機にもおよぶ大編隊が飛来、徹底的な絨毯爆撃によって主要都市は壊滅しました。それに引き続いて重慶から核ミサイルが発射され、能登半島に着弾、同地域はガラス質の平坦な土地に変貌しました(わたしの愛した立山連峰も消し飛びました)。
 その後の冷静さを欠いたNATO軍による制裁攻撃によって上海、南京、成都、重慶、天津、その他の都市は壊滅しました。これにて極東地域の経済は事実上、完全に沈黙したと見てよいでしょう。
 わたしは中国の真意を問いただす前に、NATO軍が共産党幹部ごとかの国を殲滅したのは明らかな失態だったと強く主張します。それは絶対に確かめておくべきでした。ですがいまや、すべては闇に葬られました。実に残念です。
 戦争を起こそうとする国が悪いに決まっています。中国はどんな理由があったにせよ、そうすべきではなかった。しかしわたしはあえてこう言いたい。防衛戦力をみずから放棄し、軍事同盟国であったアメリカを追い出し、これで恒久平和が確立されたとお祭り騒ぎをしていたおめでたい連中が、これを招き寄せたというのも厳然たる事実であると!
 平和とはなんでしょうか。
 われわれはもう一度いちから、この難解極まるテーゼを追究していくべきではないでしょうか。

 航空幕僚長 日下部真琴 印

     *     *     *

 一人の男が焼け野原に立っていた。
 もう永遠にこの土地から地平線を見ることはできないだろうと思われていたのだが、雑多な建造物が残らず倒壊したいま、再びそれを見ることができるようになっていた。
 男は破裂した水道管から噴出する水で、煤によって汚れた顔を洗い、のどを潤す。都市は破壊された。彼の家族と妻子も一緒にだ。だが彼にだけ同情するのは不公平だろう。いまやそうした人間は日本中に――いや、中国にもごまんといるのだから。
 彼はどういう気持ちになるべきなのだろう? 大規模爆撃などという流行遅れの大道芸をやらかした中国への怒り。もちろん。係累と妻子を失った悲哀。もちろん。人生への深い絶望。当然だ。
 だが彼はそのどれもを感じることなく、代わりに大きく伸びをした。
「さあ、やることが山ほどあるぞ!」


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