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野々小花さん

野々小花(ののしょうか)です。文化教室に通って、書く勉強をしています。

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【エッセイ】 ふたりのクリスマス

16/12/17 コンテスト(テーマ):第123回 時空モノガタリ文学賞 【 クリスマス 】 コメント:6件 野々小花 閲覧数:453

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 幼稚園に通っていたころ、近所に神戸から引っ越してきた家族があった。両親と姉、兄、妹の三人きょうだいであった。末の女の子は私と同い年で、幼稚園も私と同じ所に通うのだという。
「家が近いんだし、お話してみたら」
 母にそう言われて、翌日、私は幼稚園で女の子に声をかけた。
「家、近いんだけど」
 口下手で、私はそれ以上なにも言えなかった。けれど、不安だったのだろう。私が発した愛想のない言葉にも、女の子は反応した。しかめ面だった表情が、ふっと、ほころんだのがわかった。

 女の子は、Mちゃんといった。小柄で、くせっ毛で、目がくりくりとしていた。ゆったりとした、上品に聞こえる神戸のイントネーションが新鮮だった。毎日、かわいいなぁと思って一緒にいたのだけれど、Mちゃんは案外、気が強かった。
 喧嘩をすると、絶対に勝てなかった。年の離れた姉と兄の影響なのか、難しい言葉をよく知っていた。長女でのんびり屋の私が敵うはずもない。毎回、謝るのは私だった。
 お互いの家を行き来して、よくリカちゃん人形の着せ替えごっこをして遊んだ。ドレスやアクセサリーはもちろん、ハウスと呼ばれるリカちゃんの家はとても豪華で、夢中になったのを覚えている。

 クリスマスの少し前、サンタさんにどんなプレゼントをお願いしたの、という話になった。リカちゃん人形に関係するものだとわかったけれど、具体的に何を、というのは秘密にした。もらってから、見せ合いっこをすることにしたのである。
 そして、お互いにもらったものを交換して遊ぼうと約束した。そうすれば、プレゼントを二個もらったのと同じことになる。クリスマスは二倍楽しくなる、そう無邪気に言い合っていたのである。
 私はサンタさんに、新しく発売されたハウスをお願いしていた。これまでのハウスの中で一番大きくて立派なものである。これでMちゃんと遊びたい。これを見たら、Mちゃんはどんな顔をするだろう。なんて言うだろう。楽しみで仕方なかった。
 サンタさんにお願いするときは、神棚の前で静かに手を合わせる。そして、欲しいものを唱えるのだ。なぜだかわからないけれど、毎年そうやっていたのである。十二月に入ってから、私は毎日のように、「リカちゃんのお家が欲しいです。最近発売された、大きくて豪華なハウスです。良い子にするのでお願いします」とまるで神さまに祈るようにして手を合わせていた。
 二十四日のクリスマスイブの夜は、なかなか寝つけなかった。少しうとうとして、目を覚まして、またほんの少し眠って、というのを繰り返した。いつサンタさんは来るのだろう。ハウスは種類がたくさんあるけれど、サンタさんは間違えたりしないだろうか。ちゃんと私が欲しいリカちゃんのお家を持ってきてくれるだろうか。楽しみと、不安もあった。
 ふと目が覚めたとき、枕もとに、四角い箱がひとつ置いてあった。箱は、包装紙にくるまれている。サンタさんが来たんだ! 
カーテンの外を覗くと、外はまだ暗かった。私はそっと起きて、包みを開けてみた。そこには、願い通りのものがあった。サンタさんは、間違えたりしなかったのである。
 その日のうちに、私はもらったばかりのハウスを持って、Mちゃんの家へ遊びに行った。Mちゃんは私が抱えているハウスを見て、あっ、という顔をした。そして、しょんぼりと肩を落とした。
「私も、それと同じのもらったの」
 なんとMちゃんも、私と同じハウスをサンタさんにお願いしていたのである。プレゼントを交換して、クリスマスを二倍楽しむ、という私たちの目論見は、残念ながら失敗に終わってしまった。
 がっかりしていたMちゃんは、次第にぷんぷんと怒りはじめた。自分がもらったハウスをきれいに仕舞って、これで元通り、返品できるはず! とかなり強気だった。
 そんなことできるのかなぁ。サンタさんって、そんなことしてくれるのかなぁ。私は、私がもらったハウスを抱えながら、黙って頭の中で考えていた。こういうとき、下手に口を出すと怒られるのである。

 Mちゃんは怒っていたけれど、私はうれしかった。同じものを欲しいと思ったのだ。私が欲しいと思ったものを、Mちゃんも欲しいと思った。Mちゃんはこのハウスで、私と一緒に遊ぶところを想像したのだろう。私と同じように。
 お互いに同じことを考えていたのである。そのことが、ふたりが通じ合っている証のように感じられて、私は、とてもうれしかった。



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このストーリーに関するコメント

16/12/20 野々小花

海月漂さま
読んでいただきありがとうございます。
自分がのんびり屋なので、真逆のMちゃんとうまくいったのかもしれません。友情とは、不思議なものだと思います。

16/12/29 あずみの白馬

野々小花 さま
拝読させていただきました。
素敵な話だなと思います。心が通じ合う聖夜。素敵だと思います!

16/12/30 葵 ひとみ

野々小花 さま
拝読させていただきました。

女性の敵は敵というぐらいですが、
微笑ましい掌編に心がほっこりしました。
素敵なお話をありがとうございます。

16/12/31 野々小花

あずみの白馬さま
読んでいただきありがとうございます。
子供のころの、クリスマスの偶然。ささいな出来事かもしれませんが、私にとっては大切な思い出です。
とても嬉しいコメント、ありがとうございました!

16/12/31 野々小花

葵 ひとみ様
コメントありがとうございました。
たしかに、嫉妬したり(お姉ちゃんとお兄ちゃんの存在が羨ましかったです)、些細なことでケンカしたりしたのですが、それでも嫌いにはならなかったです。不思議ですね。それくらい好きだったのでしょうか。とても良い思い出です。

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