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若早称平さん

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性別 男性
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だからその手を、

16/12/17 コンテスト(テーマ):第123回 時空モノガタリ文学賞 【 クリスマス 】 コメント:2件 若早称平 閲覧数:630

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 娘の遥が作る肉じゃがの味が死んだ妻のものと似てきた。教わったわけではないのにそういう所も遺伝するのかな、そう思いながら人参を口に運んだ。
「ねえお父さん」
 テーブルを挟んで同じく人参を突つく遥は私の方を見ずに言った。
「クリスマスなんだけど、友達と遊ぶからご飯いらないから」
 遥の視線は手元の携帯に向けられている。
「は?」私は箸を置いた。
「クリスマスはイルミネーション一緒に行くって言ってたじゃん」
「仕方ないよ、うちも付き合いがあるのよ」
「友達って誰だ?」
 そう聞いたのはなんとなく、父親の勘だった。
「……別に、お父さんの知らない子」
「男か?」
 私の方を一瞬見てすぐに目をそらしたのを見て勘は確信に変わった。
「ダメダメ、絶対許さない」
 私は箸を持ち直し、食事を再開する。
「は? なんで?」
「中学生が男とクリスマスなんて十年早いよ」
「いや、これは相談じゃなくて報告だから。許す許さないじゃないから」
 本当に口ばかり達者になったもんだ。私は溜め息をついた。
「まあお父さんが寂しいのも分かるけどさ、うちももう中二なんだよ? 別に普通だよ」
「待て、誰が寂しいって?」
「うちがいないと一人だもんね、彼女とかもいないだろうし」
「は? 彼女とかいますし。遥がいないなら彼女とデートしますし」
「じゃあそれでいいじゃん。解決じゃん」
「いや、話すり替えないで。お父さんのことより遥のことだろ?」
 遥が口を尖らせる。何か考えている時に出る癖だった。
「じゃあさ、百万歩譲ってダブルデートっていうのはどう?」
 我が娘ながら何を言い出すのかと思った。
「いや、それは向こうが嫌だろう? お父さんととか」
「大丈夫、大丈夫」
 遥がにこりと笑った。

 翌日の満員電車の中では「さてどうしよう?」が渦巻いていた。勿論彼女などいない。クリスマスまであと三日で出来るはずもない。通勤時間をフルに使ってひねり出した打開策は誰かに彼女のフリを頼むというどうしようもないものだった。
「いいですよ、別に暇だし」
 アテが全くなかったわけではないが、まさかこんなに二つ返事でオッケーされるとは思っていなかった。
「本当にいいの? クリスマスだよ?」
 十歳年下の最近よく話すようになった隣の部署の女の子はいつも通りの明るい笑顔で「うん」と答えた。
 私は年甲斐もなく軽い足取りでデスクに戻った。これは遥に感謝しなくてはいけないかもしれない。遥の提案がなければ彼女との仲がこんなに急に進展することなどなかっただろう。早速遥に待ち合わせの時間と場所をラインしようとしたが、帰ってからでいいか、と携帯をしまった。

 前日からの雨は雪に変わることなく明け方まで降り続いていた。まだ薄暗いのになぜか目が覚めて携帯を見ると夜中にラインが来ていた。
『実はたった今彼氏が出来ました。なので明日は行けません。ドタキャン申し訳ない』
 深々と頭を下げるスタンプを見て私は頭まで布団をかぶった。しかし、彼女に振られた傷心よりも遥との約束をどうしようということが先に頭をよぎった私はもう男である前に父親になっていたのだろう。

 雨は上がったが私の心は晴れず、遥にも何も言えないまま待ち合わせの噴水前でマフラーに半分顔を埋めて突っ立っていた。
「お父さん」
 あまりにぼうっとしていて後ろに遥がいたのに全く気付かなかった。
「あれ? 一人か?」
「お父さんこそ」
 そう言って一瞬間を置いて「ごめん!」と二人同時に頭を下げた。そして同時に顔を上げ、その顔を見合わせる。謝られる心当たりのなかった私は随分間の抜けた顔をしていたことだろう。
「このくらい追い込んだらお父さんも彼女作るきになるかなって嘘つきました。ごめんなさい」
 我が娘ながらなんてことを考えるのだろうかと思ったが、まんまとそれに乗せられた私も私だ。「彼女作ろうと思ったけど無理でした。ごめんなさい」
 遥を真似て謝ると彼女はにこりと微笑んだ。
「まあ、あんまり期待してなかったから……。どっかで時間つぶして予定通りイルミネーション行こうか」
 遥が私の袖を引っ張った。私はコートのポケットから手を出し、その手を取ろうとした。
「待って、手を繋ぐのはキモい」
 本気で嫌そうな顔の遥に苦笑いしながら、私は再びポケットに手を入れた。


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このストーリーに関するコメント

16/12/23 クナリ

短い字数のなかで、二転三転するストーリーが面白かったです。
最後にもなんとなく終わるのではなくひと盛り上がりがあり、読みごたえがありました。

16/12/23 若早称平

クリナさんコメントありがとうございます!
場面転換が多すぎるかなと思ったのですが、そう言って頂けるとありがたいです。

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