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ゆきどけのはるさん

こちらのサイトでは短編を主に執筆予定です ホラー、アクション、グロをよく書きますが、気ままに書いていきたいと思ってます。 Twitter @HrhrKoharu

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俺の彼女は神を崇拝しすぎている

16/12/14 コンテスト(テーマ):第123回 時空モノガタリ文学賞 【 クリスマス 】 コメント:2件 ゆきどけのはる 閲覧数:579

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 もう後何日かで年が暮れ、もう後何日かで今年が終わるこの寒い時期。俺の彼女は嬉しそうに寒空を見上げて、マフラーも手袋もコートも着ずに外を走り回るのだ。付き合った始めの年には驚いたものだが、もうかれこれ5年もいる。5回、この日を一緒にしてきた。驚きは薄れていったが、奇妙さを毎年感じずにはいられない。

「どうしてそんなに嬉しいんだい?」

 僕がそう尋ねるとまるで鳩が豆鉄砲を食らったような表情をする。普段の彼女は温厚で人柄も良く、老若男女問わずに愛される自慢の彼女だ。しかしこの日、この日だけは彼女は彼女ではなくなる。

「どうしてって…どうして?」

 疑問を疑問で返されてしまいどうしたものかと言葉を選んでいると、寒さからか真っ赤な鼻をした彼女は僕の近くに寄って来た。

「嬉しくないの?」
「いや…」

 何と答えるべきなのか。今まで生きてきた30年間、特にこの日を嬉しいと思ったことはない。幼い頃はよくサンタクロースが来ると言ってはしゃぎはしたが…それも10歳を前にしてなくなった。
 以来、平日として溶け込んだこのクリスマス。しかし彼女と付き合ってからこの日は平日ではなく、れっきとしたクリスマスとしてインプットされ始めていた。

「イエス様が産まれた日なのよ? どうして嬉しくないの?」

 そんな悲しそうな顔をされたって困るだけだ。そもそもイエスが産まれた云々は正直どうでもいいのだ。僕はただ、彼女がどうしてここまでイエスに執着するのかに関心がある。興味がある。

「この日には安らぎ、永遠の命、無条件の愛が頂けるのよ。罪を犯した私達を聖なる母のように包み込み、神のように全てを許してくださる…。こんなに素晴らしい日はないわ」

 イルミネーションの輝く街で、ワンピース一枚の彼女は異彩を放っている。周りにいる人々は幸せそうにしている彼女をどこか冷めた目で見て通り過ぎていく。

「日本では恋人の日として根付いているけど、そうなったのも無条件の愛、のおかげなのよ。深く深くイエス様には感謝をしないと。この日を迎えられることを光栄に思わないと」

 両手を組み、祈りをささげるような格好で彼女は目を閉じている。この時ばかりは彼女は俺よりもイエス・キリストを必ず優先する。

「何でそんなにキリストを信じるんだよ」
「だってあの方は私を助けてくださったから。私の人生そのものだから」

 益々訳が分からない。しかし彼女が信仰するイエス・キリストの行事といえばこのクリスマスの他に、イースターとバレンタインもある。諸説ありと言われているが彼女はこの行事に全く関心を持たない。

「助けたってどういうことだよ」
「そのままの意味よ。私を救ってくださったの。私の人生を正してくださったの。だから貴方とも出会えて、貴方と付き合えて、これから一緒にいるのよ」
「はあ?」
「出会いは偶然じゃなくて必然なの。私と貴方が出会って一緒になることも、教えてくださったの」

 ちょっと待て、どういうことだ。初めて聞いてしまった。聞かないほうが幸せだっただろう、衝撃の事実。相変わらず笑みを浮かべたまま、嬉しそうに俺に寄って来る彼女を、思わず拒んでしまう。

「何、言ってんだよ、おまえ…」

 周りがこちらを見ているがそんなの気にならなかった。それより俺は目の前にいる彼女だけしか見えていない。

「イエスが言ったからって! 俺と付き合ったのかよ!」

 思わず声が大きくなる。嘘だと言ってほしい。違うよ、冗談よと笑ってほしい。

「イエス様、でしょう」

 俺の問いには答えず、呼び名の訂正をされた。いや、答えは出ているだろう。まさしくそうなのだ。イエス様に言われたかどうかは定かではないが、彼女は俺が好きだとか愛しているだとかそんな感情で付き合っているのではない。

「話しかけてくださるのよ、あの方が。この時はこうしなさい、こうすればうまくいく、そっちはいけない…って。こうして私の人生はうまくいってきた――いえ、これからもずうっとうまくいくの」

 普段口数の少ない彼女から出てきた言葉達は、非現実的なもので到底信じられない。俺は小さく聞こえるかどうかの声で別れようと告げた。

「フフ、言っちゃダメって言われてたけど言ったのは――どうしてだと思う? 貴方が怖がると知ってて、これを話した理由はね」

 途端、目の前が真っ白になる。吹雪が急にきたのかと思ったがそうではないらしい。身体が傾きコンクリートの地面に倒れ込む。じんわりとあたたかい液体が身体から溢れ、灰色を赤く染めていく。

「私のことを知ってほしかったからよ」

 彼女が俺を本当に愛していたのかは、分からないまま。俺はそこで息絶えた。


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このストーリーに関するコメント

16/12/14 クナリ

!???……謎多きラストですね!
「普段の彼女」ではなく「クリスマスの彼女」こそが真の姿なのでしょうか……。

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