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かわ珠さん

自分の好きな作家さんの言葉のチョイス、並べ方、区切り方、リズム、テンポに少しでも近付けるような文章が書けるようになりたいです。

性別 男性
将来の夢 世界平和
座右の銘 愛は時空を超える

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クリスマス・オブ・ザ・デッド

16/12/12 コンテスト(テーマ):第123回 時空モノガタリ文学賞 【 クリスマス 】 コメント:0件 かわ珠 閲覧数:641

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「はぁ、はぁ、はぁっ……っくそ! 冗談じゃねえぞ!」
 クリスマスを2週間後に控え、イルミネーションに彩られた町中。その輝く町中に人は見当たらない。そのかわり、ゆっくりのそのそと歩くサンタクロースの群れ。恐らく、この小さな町に残された人は俺と、俺の隣で上がった息を整えている幼なじみのケンとアリスだけだ。俺たち以外の人間はみんなサンタクロースにされてしまった。
「……このまま私たち、サンタクロースにされてしまうのかしら」
 不安げに、泣きそうな声でアリスは呟く。
「大丈夫さ。この町さえ抜ければ、きっと助かる」
 ケンはそう言ってアリスをなだめる。
 ああ、そうだ。きっと、この町から抜け出せれば、助かるに違いない。俺たちはお互いの顔を見合ってから、地下の下水道へと潜り込んだ。

 クリスマスの日、サンタクロースは全世界の子供たちにプレゼントを配る。世界中の夢見る子供たちに。今現在の全世界の人口はおよそ70億。そのうち、15歳以下の子供は約20億人。そのうちのサンタクロースを信じる善良な子供だけに数を絞ったとしても、膨大な数が存在する。その子供たちにサンタクロースが一晩でプレゼントを配るなんてことは、物理的に不可能だ。
 ならばどうするか?
 答えはシンプルだ。荷物を配る人員を増やせばいい。
 だから、サンタクロースは定期的に人員を補給する。その方法が、今夜この街で行われているこの方法なのだ。すなわち、感染だ。
 サンタクロースに噛まれた人間はみんなサンタクロースになる。噛まれた人間は徐々に体が丸みを帯びてゆき、白い髭が生えてくる。思考も停止し、ただプレゼントを配るだけの機械同然のものとなる。そんなものはもはや生きているとは言えない。まるで死にながらにして生きているゾンビのようなものだ。そんなものになってたまるか、と俺たちは逃走を続けてきたのだ。一人、また一人と感染し、倒れていく人々を横目に見ながら。

 俺たちは下水道を歩く。ときおり頭上で「ほーっほぅ」「ほっほっほーぅ」と奴らの声が聞こえてくる。そのたびに、足を止めてじっと堪える。
「そろそろ隣町の川に辿り着く頃だと思うんだが」
 もう三人とも疲労困憊で歩くのも困難になってきている。けれども、この町さえ抜ければ助かるんだ。この事態が起こる前にこの町に来て、警鐘を鳴らしていたサンタクロース研究家のアレクさんはそう言っていた。長年研究をしてきていた彼が言っていたのだ。今はそれを信じて前に進むしかない。
「おい、光だ!」
 とケンが叫ぶ。
「助かったのね!」
 俺たち三人は喜びのあまり、その場で抱き合う。それがよくなかった。ゴールを前にして、俺たちの警戒は緩んでしまっていた。だから、ソレがすぐ背後に迫っていることに気付けなかったのだ。
「ほーっほぅ」
 その声は耳元で響いた。
「「「!?」」」
 俺たち三人はすぐに振り返る。と同時にサンタクロースがケンに抱き付いていた。
「走れ!」
 ケンの声が下水道で反響する。
「で、でも……」
「俺はもう駄目だ。噛まれっちまった」
「そんな!」
「いいから行け! ここは俺が食い止める。お前らだけでも助かるんだ! いいな!」
 アリスはケンの元に駆け寄ろうとする。その手を俺は掴む。
「行こう」
「でも」
「ケンが正しい。噛まれたのなら、もう駄目だ」
「そんなっ!」
 涙を流すアリスを俺は強引に引っ張る。途中、一度だけ振り返った。そこには、赤いサンタクロースの身体の隙間から親指を立てるケンの右手だけが見えた。
 俺たちは走って、走って、走って、ようやく光へとたどり着いた。その先には川が流れて……
「な……んで……」
 そこには下水道の出口を囲む見慣れた赤い壁。それはサンタクロースの群れだった。
「そんな……」
 アリスがへたり込む。俺も、足の力が抜けてその場に崩れ落ちそうになったものの、なんとか耐えて踏ん張る。
 せめて、アリスだけでも助けなければ。
「アリス、走るぞ」
「え?」
「俺が中央突破する。三人ぐらいはブッ倒せるだろう。俺も同時に倒れる。お前は俺の背中を踏み台にして川に飛び込め」
「そ、そんなの……」
 アリスが何かを言いだす前に俺は走り出す。アリスが俺を信じてくれることを信じて。
「うおりゃぁぁぁぁぁぁ!!」
 渾身のエルボーがサンタクロースの喉にクリーンヒットする。そのまま俺は倒れ込む。直後、背中を踏まれる感触がして、俺は思わず微笑む。

 朝。
 目が覚めると、俺はベッドの上にいた。背中が汗で湿って気持ち悪い。なんだか嫌な夢を見たような気がする。重たい身体を起こして、鏡の前に立つ。そこに映ったのは、丸い身体に白くて立派な髭。
 その姿は間違いなくサンタクロースのそれだった。そして、俺は悪夢を思い出して絶叫する。
「うあぁぁぁぁぁ!!」


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