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聖夜の100ストーリーズ

16/12/11 コンテスト(テーマ):第123回 時空モノガタリ文学賞 【 クリスマス 】 コメント:0件 PineLeaf723 閲覧数:349

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 息するように嘘をつく。それが私の生業だ。
 八歳の息子が『サンタはママなら、プレゼントいらない』と拙い嘘をつくので、プロの嘘を披露した。
「本物のサンタにお願いしたいのか。なら相応の手順を踏まないと」
「ママ、知ってるの?」
 コタツで背を丸める息子のユウが、すがるように見上げてきた。

 必要なのは百本の蝋燭。ちょうど毎年のケーキのおまけが大量に余っている。ユウと手分けして紙皿に立て、電気を消した。
「短い物語を話して、火を吹き消す。それを百回頑張ったらプレゼントをくれるよ。サンタは子どものお話を聞くのが大好きなんだ」
 百物語のパクリだが、おあつらえむきに息子は知らない。
「今回は手伝おう。お互い五十話ずつだ」
「ぼく、そんなにいっぱい作れるかな」
 少し開いたドアごしに、義母が湯たんぽを抱えて納戸を窺う姿が見えた。
「知ってる物語を話せばいい。本は好きだろう?」

 吹雪の音が響く暗い室内に、百の炎が小さな生き物のように揺らめいている。
 むかしむかしあるところに、と私は一話めを始めた。執筆中の小説をアレンジし、めでたしめでたし、で締めくくる。最初の火を吹き消し、「ユウの番」と促した。
「えっと、じゃあ……」
 ユウが語り始めた二話めは、昔よく読み聞かせた絵本だ。終わって三話めが私、四話めがユウ、と交互に進めていく。
 幼い話し声に耳を傾けながら、大きくなったなあ、と感慨にふけった。出産と前後して夫を亡くし、兄弟を作ってやれない代わりに、子犬をもらって兄弟同然に育てた。あっという間に大きくなった子犬と座らせ、『本当のお兄さんだ。悪い妖精に魔法をかけられて』と教えたこともある。ユウは簡単に信じたが、小学校に上がる頃、さすがにバレた。『パパは外国で秘密の仕事をしている』という嘘も時間の問題だろう。
 百物語の半分を越えると、物書きの私もストックが尽きた。即興で物語を作り、場をしのぐ。粗筋もオチもひどいものだが、めでたく終わればそれでいい。ユウも内容がうろ覚えになったのか、突拍子もない創作を混ぜてきた。
「王女さまをたすけたのは……えっと、しょうぼうしゃ!」
「すごいな、ドラゴンの炎を消火したのか」
 しばらく塞ぎがちだったユウも今は笑顔だ。
 九十九話めを終え、私は火を消した。ラストの物語を、ユウは思い詰めた顔で語り始めた。
 ――むかしむかし、あるところに、クロという大きな犬がいました。クロは雪ぞりを引くのが得意です。雪ぞり遊びをしているとサンタが来ました。クロくん私のソリを引いてくれないか。病気を治してもらったクロは喜んで恩返しに行きます。クリスマスはトナカイと一緒にサンタを手伝い、元気にプレゼントを配りました。めでたしめでたし。
 いつしか吹雪は止んでいた。聖夜の静寂に、息子の落とす涙の音が、はた、はた、と幽かに響く。
 そっと頭をなでた。「確かにクロは、雪ぞりが上手だ」
 ドアの隙間から、義母が心配そうに覗いていた。私が目顔で問うと、義母は首を振る。
 クロは三日も寝たきりだ。今夜が峠だと獣医も言った。
「スカウトは来る。名犬だもの」
「クロと、ねてもいい?」
「いいとも。クロが苦しがったら起こしに来て」
 ユウが涙を拭い、納屋へ向かう。私は蝋燭を片づけた。
 息子は気づいているようだ。実在しないサンタが奇跡をプレゼントでもしない限り、回復などありえない。つまりクロは助からない。
 でも、私は嫌なのだ。『めでたしめでたし』で終わる以外の結末を、まだユウに聞かせたくない。早くに悲しみを味わったからといって、強い人間になれるとは限らない。現に私は嘘つきだし、不幸に脅かされた分だけ人並みの幸福に飢えた。
 読み聞かせた絵本がユウの心を豊かにしたように、のびのびと過ごす時間が、現実と折り合える健やかさを育むだろう。バカ親のわがままと分かっているが、少しでも長く、不安も悲しみも知らず過ごさせたい。
 しかし明日、あの子は骸を目の当たりにする。それを嘘で誤魔化せるのか?

 考えあぐねた翌朝、ユウが寝室に飛びこんできた。
「クロがいないよ!」
 握りしめた首輪を見せる。毛布に姿はなく、首輪のみ枕元に置かれていたという。
 皆で家中を探したが発見できない。まさかと外へ出ると、雪道にクロの足跡が続いていた。
「追いかけよう」ユウと一緒に駆けだした。
 まっさらな新雪に残る足跡は、明るみ始めた空の下、去りゆく夜を追ってまっすぐ続く。そうして、唐突に途切れて消えていた――まるで空からきた誰かに、喜んで飛びついたかのようだった。
 ぽかんとして、ユウは消えた足跡を見下ろしている。
 わがままな嘘を叶えてくれたのは、サンタなのか、クロなのか。
「その首輪、大切にしなさい。クロが配った初めてのプレゼントだよ」
 しっかりと息子を抱きしめた。


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