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ひーろさん

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巡る五分間

16/12/10 コンテスト(テーマ):第124回 時空モノガタリ文学賞 【 五分間 】 コメント:2件 ひーろ 閲覧数:431

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 重たい扉の内側に設置された赤いボタンを押すと、短い警報音とともに厳重なセキュリティロックがかかり、小さな研究室は誰も寄せ付けない鉄壁の要塞と化す。男は、興奮した面持ちで初めて赤いボタンを押した。研究室の主である博士は、厚い信頼を寄せる唯一の助手であるその男に留守番を頼んで、珍しく外出していた。
 男は一人、薄明るい部屋の中を一通り眺めた。偉大なる博士の貴重な発明品の数々がそれぞれ透明なケースに収めてある。そのいくつかを手に取っていじってみた。どれも詳細なメカニズムは理解できないが、使い方ならある程度知っていた。博士がいつも、自慢の発明品について意気揚々と語るのを聞いているからだ。小さな箱型の装置やら奇妙な形をした眼鏡型の機械やらを次々と操作して回った。助手とはいっても、普段は買い出しや掃除、薬品点検などの雑用ばかりで、博士の発明にはほとんど携わっていない。

***

「これは一体何の薬だろうか」
 男はそう呟いて、ケースの上に置かれたビンを持ち上げた。中には青い錠剤がたくさん入っている。しばらくの間その美しく深い色に魅せられた。なぜかビンの蓋は開いていて、ほのかに甘い匂いが漂った。不意に空腹感を刺激される。ふと視線を落とすと、ケースのすぐ横に、博士が書いたのであろう走り書きのメモが張り付けてあるのを見付けた。ミミズのような文字でこう書かれていた。

『記憶を消す薬。服用するだけで嫌なことを忘れられる薬として実用化予定。現段階では、これを一錠飲むと、直前の五分間の記憶が無くなる』

 それを読んだ男は、ビンから薬を一錠取り出して、
「実におもしろそうだ。一粒くらいなら飲んでも大丈夫だろう。これも助手の特権というものだなあ。はははは」
と呟き、嬉しそうに飲み込んだ。

***

「あれ? 俺は何を……。そうだ。博士の発明品を拝見していたんだったな……ん?」
 男は、ケースの上に置かれたビンを見付けた。
「これは一体何の薬だろうか」


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このストーリーに関するコメント

16/12/10 クナリ

面白いです。
ショートショートの魅力が詰まっていると思います。

16/12/11 ひーろ

クナリさん、ご感想ありがとうございます。
拙作から「ショートショートの魅力」を見つけていただけて嬉しいです。

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