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翡白翠さん

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テレビ賭博に依った世界

12/10/25 コンテスト(テーマ):第十六回 時空モノガタリ文学賞【 テレビ 】 コメント:0件 翡白翠 閲覧数:1194

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 日本国は、借金を返済し終えた。
 その日本国の首都、東京。十数年前には人が猥雑に歩いていた新宿の路上。そこには、人が一人もいなかった。
 そこでは、叫び声が響いていた。その出所は、近くの如何にも安そうなアパートからだった。数年前は栄華を誇ったこの場所も、今ではさびれたアパートに、規則的なコンビニが立ち並ぶ場所になっている。何故なら、高層ビルは全て売り払われ、土地に変えられたからだ。高層ビルにテナントを入れようなんて発想は、現代にはなかった。
 その、ぼろアパートの一つに、男がいた。男の周りには、乱雑にカードが散らばっている。そのカードは、十円玉で削られた跡があり、いわゆるシリアルナンバーを書く、入金用のカードであった。
「くそっ!」
 男の目線は、テレビに向かっている。不機嫌そうな態度を隠そうともせずに、悪態をついている。彼の右手に握られているのは、リモコン。
 テレビの画面には、馬が走っている映像が右半分を占め、残りの左半分は、馬の名前が幾つも表のように書かれていた。
 テレビ競馬である。
 隣の部屋を見てみよう。
 そこには、三十路ほどの年齢の女が一人いた。彼女もまた、テレビに向かっている。そこの右半分には、芸能人四人が歌っている映像。左半分には、誰が一番カラオケで得点をとれるか、という文字と、刻々とオッズが変わる、四人の名前。
 彼女もまた、それに夢中になり、投票をしている。当たることで得られるのは、金と、自分の喜びだろう。
 どの部屋も、似たような風景であるし、どのアパートも、似たような風景である。どの街に行ったって、大体はこんな風景が広がっている。尤も、東北地方の一角、そこには富裕層のみが暮らす街があって、そこでは日々悦の限りを尽くした生活が送られているらしいが。
 出歩く人はいない。出歩いて得られるものは、食糧と、シリアルナンバー付のカードと、或いは……その日暮らしで手に入れる幾ばくかの金か、自分を犠牲に手に入れる、途方もない大金である。
 政府は、数年前にテレビ賭博を解禁した。一部を税収として、国に還元するためである。そして、それを奨励した。初め、テレビではゴールデンタイムに賭博番組をやるという状況であり、それもバラエティーのほんのおまけ程度だったが、政府からの圧力は肥大化し、それにつられて番組内容も変化し、更には需要までもが上がってしまったのである。
 もう、戻れなかった。
 廃人的な人々が、夢を求めてテレビを見る。そんな人生が、この国のあちらこちらで行われていた。
 賭博の種類も増え続け、今ではテレビを介して行う賭け麻雀は、日常の風景となっている。
 そんな国の、或る一角。そこは、港町だった。
「止めてくれ! 金さえ、元手さえあれば、俺はまだ!」
 一人の男が、わめき散らしていた。身なりはぼろぼろであり、髪の毛は手入れを何日していないのか疑いたくなるほどにぼさぼさだった。
「貴方の借金は規定量を超えました。夢の島への船に、ご乗船していただきます」
 そして、その男の腕をがっしりとつかんでいる、お堅い服を着た人間が一人。低い声からすると、男だろう。彼はきっちりと底が浅い帽子を付けていて、如何にも政府の人間だった。
「待ってくれ、あと一回、あと一回だけ賭けを!」
 男の目は、血走っている。このまま暴れだしそうな勢いだった。
「そういって許可されていた時もありましたが……成功した割合は、一パーセントにも満ちませんでしたね」
「俺は、俺は違う! 必ず成功して……」
 男の言葉が最後まで続くことは無かった。がつっ、という音とともに、男は昏睡した。
「こうやって暴れまわる人がいるから、我々の仕事が増えるんですよ……」
 嘆息したように、役人は言う。
 そして、男を船の中へと入れた。
 現代日本では、労働力が足りなくなることは無い。元手を得るための日雇い労働者の労働力も、大きな比重を占めている。
 それと同時に、借金を抱えすぎて首が回らなくなった人間を、強制的に働かせているのである。
 日本の経済成長は、もう止まらなかった。金の循環は、もう止むことは無い。
 はたしてそれが豊かかどうかは別問題だとして、数字的なモノを、この国は得たのである。
 


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