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本宮晃樹さん

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サンタクロース包囲網

16/12/09 コンテスト(テーマ):第123回 時空モノガタリ文学賞 【 クリスマス 】 コメント:0件 本宮晃樹 閲覧数:462

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「ねえパパ」五歳になる娘がつぶらな瞳で問いかけてきた。「サンタさんはどこにいるの?」
 そんなものはいないと断言して科学合理主義の化身にしてしまうには、彼女はまだ幼すぎるだろう。「いいかい、サンタさんはよい子の心のなかにいるんだよ」
「ふうん」明らかに納得していないようす。「でもおかしいよ。それじゃあどうやってあたしはプレゼントをもらえばいいの?」
「ええと、そのう……」
「どこかにはいると思うの、あたし」
 わたしは覚悟を決めた。「よおし、ちょっと待ってなさい。いま確かめてくるから」
 子どもだと思って侮っていた。こうなれば愛しい娘のためにも、徹底的にサンタクロース存在の可能性について検証するしかあるまい。

     *     *     *

 サンタが存在するかどうかは、一夜で世界中の子どもたちにプレゼントを配ることが可能かどうかで決まると仮定しよう。早速順番に計算していく。
 まず子どもの総数だが、世界の若年人口(1〜14歳) 平均値 18.42% というデータがある。いっぽう世界人口は80億人というのがだいたいのところだ。したがって
 80×0.1842=14.736 およそ15億人となる。
 次に地球の陸地面積だが、これは147,244,000平方キロメートルである。子どもたちがまんべんなく地球上に散在しているとすると、彼らの占める平均スペースは
 147,244,000÷1,500,000,000=0.098
 つまりほぼひとり当たり0.1キロ平方メートルのスペースに散らばっていることになる。15億人の子どもたちすべてを周るとなると
 1,500,000,000×0.1=150,000,000
 1.5億キロメートルだ。これがサンタが一夜のあいだに移動しなければならない距離である。
 さらにサンタの推定活動時間は子どもたちが眠っている時間帯のはずである。ざっくり21時〜5時までとしよう。いよいよサンタの飛行速度だが、公式は速度=距離÷時間なので
 1,500,000,000÷8=18,750,000
 これはキロメートル毎時なので、秒速に換算し直すと
 18,750,000÷3,600=5,208
 となり、およそ1秒あたり5,000キロ進むことになる。参考のために光速に対する比で表すと
 5,208÷300,000=00.174
 つまり光速の1.7%もの速度で移動しているものと思われる! もしこの値が小さいと感じるなら、やつが8秒で地球を一周すると言い添えておけば、たぶんたいていの人間は考えを改めるのではあるまいか。
 なおこの数値は控えめな最小値であることを付言しておかねばなるまい。サンタはたんに子どもたちのあいだを飛び回っているだけではなく、それぞれのくつしたにプレゼントを突っ込まねばならないのだ。
 その作業時間を加味すると、事実上彼は既知の物理現象では説明のつかない行動――超光速、壁抜け、その他いろいろの超常現象――のオンパレードで成り立っていることになる。
 以上のことから、精神衛生のためにもサンタクロースはいないと結論せねばならない。ではどうする? 娘にこう宣言するのか? 「サンタさんは主流派物理学から逸脱してる。よってやつはいない!」
 そのとき天啓が訪れた。なぜサンタを一人に限定する必要がある? 二人かもしれないじゃないか。二人が許されるなら三人も許されるし、極端なことを言えば無限だっていい。問題はそれをどうやって正当化するかだが、なにも心配することはない。
 有史以来サンタを目撃した人間は一人もいない。つまりやつは観測されたことがない。ということはちょっと強引ではあるけれども、量子力学のコペンハーゲン解釈に押し込んでしまえる。
 観測されていなければ誰もそれがどこにいるか断言できない。サンタは世界中の夜空に確率の波として量子化されているのだ。彼は思慮分別を欠いた阿呆に観測されて波動関数が収束しない限り、どこにでもいる。おまけに確率として記述されるならば、ある瞬間に家屋の内部にいたとしてもおかしくはない。これがトンネル効果である。
 これですべてに説明がついた。わたしは晴れやかな気分で娘のもとへと急ぐ。

     *     *     *

「いいかい、サンタさんはね」彼女のつぶらな瞳は期待に満ちている。「お空いっぱいに広がってるんだよ」
「どういうこと?」
 こっちが聞きたい。「香苗がいるって思ったところにいるのさ」
「ほんと?」娘はじっと夜空を睨んでいる。「いないよ」
「今日はクリスマスじゃないだろ」
「あ、そっか」
「さあ、もう寝る時間だ」
「はあい」
 家に入りしな、わたしは夜空を見上げてみた。
 サンタの確率波が電子雲のごとく、地球をすっぽりと覆っている。


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