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あずみの白馬さん

成人済 アイコンは天乃ゆうりさん作成(無断転載を禁じます) 自分なりの優しい世界観を出せるように頑張ります。 好きな作家は飯田雪子先生です。若輩者ですが、よろしくお願いします。 Twitter:@Hakuba_Azumino

性別 男性
将来の夢 旅立つときには、ひとりでも多くの人に見送られたい。
座右の銘 「これでいいのだ」

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生命を守る5分間のビデオ

16/12/09 コンテスト(テーマ):第124回 時空モノガタリ文学賞 【 五分間 】 コメント:5件 あずみの白馬 閲覧数:810

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 出発を待っていた旅客機が、滑走路に向かって静かに動き始めると、機内安全ビデオが流れ出します。
 5分間程度で酸素マスクの使い方や、緊急脱出の手順などが説明されますが、半数ぐらいの方は、見ていないのでは無いでしょうか?

 しかし……、見ていないと後悔することになるかも知れません。

 ***

 私の乗った旅客機は順調に飛行を続け、目的地が近づき、シートベルトサインが点灯した。すると、
「お客様、パソコンはしまって下さい」
 CAに言われ、渋々作業を中断してパソコンをカバンに入れた。この中には大事なプレゼンの資料が入っている。無くすわけにはいかない。もちろん壊すなんてもっての他だ。

 しばらくすると突然、右の翼の近くにいた乗客が叫んだ。
「翼から炎が出ている!」

 パイロットも異変に気付いたのか、右エンジンの出力を止めたようで、そこから音が消えた。
 しかし、機内に煙が入りだし、他のお客さんもざわつき始める。

 その時、突然アナウンスが入った。
「機内のみなさま、こちらは機長です。当機はエンジンのトラブルのため、着陸後、安全にスポットまで行くことが困難となりました。滑走路上で止まりましたら、直ちに脱出して頂きます。客室乗務員の指示に従い、落ち着いて行動して下さい。なお、我々はこういったときのために訓練を積んでまいりました。ご安心ください」
 するとCAが安全姿勢を取るように指示があった。
 安全姿勢……、どうやるんだっけ?
 まごついていると、客室乗務員が飛んできて姿勢を教えてくれた。頭を前の席につけて、腰は椅子につける。

「衝撃に備えて!」
 CAが叫ぶのでそれに従った。滑走路に着地した衝撃はさほどでも無かった。しかし、機体が静止したとほぼ同時に、機内に煙が充満してきた。
 周りは軽くパニック状態になり、みんな急いで非常口に向かい始めた。私も急いで逃げようと、前の椅子の下に置いたノートパソコンが入ったカバンを取った、しかし、
「荷物は持たないで下さい!」
 なんと、命より大事なデータの入ったこれを置いていけだと!? そんなこと出来るかとカバンを手に取るが、煙で視界が悪くて周りが見通せない。
 とりあえず通路を前の方に進もうとするが、意識がもうろうとしてきた。出口! 出口はどこなんだ!? ますます視界が取れなくなっていく。前へ進むがなかなか出口が見えない。カバンが邪魔で進みにく……い……。
 意識を失いかけた時、CAが手を引いてくれ、非常口まで来ることが出来た。
 ここでパソコンを預け、滑り台のようなものをおりるように言われた。
 しかし、大事なパソコンを放っておけないと、軽くパニック状態だった私はCAからカバンをふんだくり、そのまま滑り降りた。
 しかし滑る勢いが強く、思わず手を広げてしまった。するとカバンは手から滑り落ち、あわれ滑走路に落下。私はその様子を見てしまったために姿勢を崩し、着地の際に腰を強く打ちつけてしまった。

 私は幸い一命をとりとめたものの、パソコンは再起不能、しかも病院にしばらく入院することになってしまった……。

 ***

 この人物のようにならないための正解が、機内安全ビデオの中にあります。

 安全姿勢は、ビデオで紹介されています(各社ごとに若干の違いはありますが、長い民間航空の歴史で確立されているものです。この姿勢を確実に取っていたために助かった、という事例も多くあります。
 また、緊急脱出の際は荷物を持ってはいけません。煙が充満してきた時はかがんで非常口まで向かいますが、その際は、床にあるランプが点灯するので、それを頼りに進んで下さい。後ろに向かった方が早い場合もあるので、非常口は事前に確認します。
 これを覚えておくと、万が一の際も落ち着いて行動出来ます。

 ところで機内安全ビデオと言えば、以前は自動車の運転免許更新の時に見るような平坦なものが主流でしたが、最近は、映画とコラボレーションした演出が組み込まれていたり、ラップミュージックを取り入れたりして、見るものを楽しませてくれるように工夫されている航空会社もあります。

 そこまでするのは、もちろん搭乗されたお客様に必ず見て欲しいからです。

 ここまで読んで頂いた読者様の中には「安全確保は航空会社の仕事だ。客には関係ない」と、思う方もいらっしゃるかも知れません。
 しかし、どんなに気をつけていても万が一は起こり得ます。お客様を大切にしているからこそ、航空会社は5分間のビデオを流しているのです。

 なお、映像装置の無い旅客機の場合、CAが実演で教えてくれます。こちらにも工夫を凝らしている航空会社もあります。

 どうか読者の皆様、わずか5分間です。旅客機に乗った際には、機内安全ビデオをご覧下さいますようお願い申し上げます。


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このストーリーに関するコメント

16/12/09 あずみの白馬

【注意】
劇中の事故は架空のものです。実際の事故とはなんら関係ありません。

【謝辞】
漫画「CREWでございます」の作者、御前モカ先生のツイートを参考にさせていただきました。ありがとうございます。

16/12/10 葵 ひとみ

あずみの白馬様、

拝読させて頂きました。
私も某国上空でテロが発生して「EMERGENCY(緊急事態)」のアナウンスが流れた事態に遭遇した事があります……
人事ではない気がしました。これからは「生命を守る5分間のビデオ」をしっかりと観ようと心に留めました。
素晴らしい掌編を心からありがとうございます。

16/12/11 霜月秋介

あずみの白馬様、拝読しました。

事故なんて起こらない、大丈夫だと思ってる方は大多数でしょうね。私も飛行機に乗るときは見逃さないようにします。
この掌編をきっかけに、ビデオをご覧になる方が増えることを御祈りします。

16/12/22 野々小花

あずみの白馬さま
拝読いたしました。
機内安全ビデオは、これまで特に意識もせずに見逃していました。
他人事だと思ってしまいがちですが、自分にも起こりうることなのだと常に考えて行動しなければと感じました。

16/12/29 あずみの白馬

> 葵 ひとみ さん
>「EMERGENCY(緊急事態)」のアナウンスが流れた事態に遭遇した事があります……
 ものすごい体験をされているのですね……、本当に怖かったと思います。無事に生還できて何よりでした。
 素晴らしいとの評価、ありがとうございます。

> 霜月秋介 さん
>この掌編をきっかけに、ビデオをご覧になる方が増えることを御祈りします。
 ありがとうございます。短いながらも大事なものなので、見ていただける方が増えてほしいと思い、描かせて頂きました。

> 野々小花 さん
>他人事だと思ってしまいがちですが、自分にも起こりうることなのだと常に考えて行動しなければと感じました。
 他人事と思ってしまうこと、確かにあると思います。自分にも起こりうると考えていただきまして、ありがとうございます。

【謝辞】
御前モカ先生より「実際客室乗務員が安全姿勢をお客様のところまで行ってお教えすることはなかなか出来ない」とのご指摘をいただきました。この場を借りて御礼申し上げます。

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