1. トップページ
  2. それぞれの事情

みんなのきのこむしさん

性別
将来の夢
座右の銘

投稿済みの作品

0

それぞれの事情

16/12/02 コンテスト(テーマ):第122回 時空モノガタリ文学賞 【 美術館 】 コメント:0件 みんなのきのこむし 閲覧数:352

この作品を評価する


「これは封じ絵にゃ」
 警備の依頼を受けた山寺併設の美術館に着いて、狙われているという室町後期の妖怪画を見るなり、妖怪特捜員の相棒、猫又のニャア太は、ろくろ首の僕に言った。
「封じ絵といっても、江戸時代に流行った絵を使ったナゾナゾではにゃい」
「ああ、分かるよ。法力や呪力によって妖怪の魂を紙に封じ込めたものだ。絵のように見える」
 そこには日本三大妖怪の等身大封じ絵が、それぞれ一種類ずつ三枚展示され、古美術としてもなかなか壮観だった。
 鬼、天狗、河童。どの妖怪も実は本物だけあり、水墨画とは思えない生々しい迫力がある。
 そして三枚のうち一枚が、妖怪に盗まれようとしていた。
 昨夜の丑三時、山寺の美術館に何者か侵入しようとして警備システムによって果たせず、闇に紛れ逃げ去った。
 発動した警備システムは性能が今一つの対人用のものではなく、強い力を備える退魔用のもので、封じ絵が妖怪に狙われていると推定され、妖怪特捜員の僕たちが呼ばれた。

 その夜更け、妖怪はまた現れた。長く伸びた爪で警備システムの結界を切り裂き、護符を剥がしていく。
「鬼だね」
 張り込んでいた僕は左肩に乗るニャア太に囁く。
「うにゃ。この気配、封じ絵のヤツにゃ」
「絵に封じられたのは魂の一部、それを取り返しにきたのか」
 僕は首を伸ばして鬼の背後から巻き付け、ニャア太が飛びかかって急所の角に爪を立てようとする。
 鬼は対抗して僕の首を力任せにほどくと、ニャア太に向け右腕を打ち振る。
 ニャア太は空中で止まってやり過ごすと、そのまま浮遊して隙をうかがう。
 魂の一部を封じられているとは言え、鬼はさすがに強い。
 僕たちは鬼と向き合い、戦いは膠着した。
 睨み合ってどのくらい経った頃か、美術館の中に風が巻き起こる。
 僕たちは、そして鬼さえも、あおられてよろける。なのに展示ケースのガラスは音も立てていない。
 これも妖怪の仕業だ。
 察するより先に風を起こした主が、羽を畳んで鬼と僕たちの間に降り立つ。
 天狗だった。
「そこまで」
 落ち着いた声で戦いを止め、天狗はまず僕たちに告げた。
「この鬼はかつて悪行ゆえ調伏を受け、絵に魂の半分を封じられて逃げた。しかしこのところ力が衰えてきたので、絵の魂を取り戻すため、ここに押し入った訳だ」
 鬼は天狗を睨んで牙を剥きながら頷く。天狗は話した。
「わしは封じられたのではない。修行のため敢えて力を押さえようと、自分から魂の半分を、絵に封印してもらった。しかし今では魂を預けていると、考えを変えている」
 鬼は不思議そうな、ニャア太は納得した表情を浮かべる。
 天狗は更に続けた。
「わしら妖怪には、人間に認められ畏れられることで、妖力を強め保つという性質がある。しかし最近わしらを意識する人間は減っている。だから人間たちに分かる記録が、必要となっている」
「人間風に言うと保険にゃ」
「うむ。猫又殿はよく分かってらっしゃる」
 天狗はニャア太に応じてから、鬼を促した。
「お主も魂の一部をここに預けながら、今の状態で妖力を鍛えたらどうだ」
 鬼はしばらく思案してまた頷き、美術館を立ち去る。
天狗も姿を消した。

「一件落着にゃ」
 白み始めた外に目を遣りニャア太が言い、僕は疑問の独り言を呟く。
「天狗と鬼はああだとして、河童はどうなんだろう?」
「近くの川にいるにゃ」
 僕たちは山寺の美術館を後にすると、河童のいる川に寄った。
「封じ絵の魂ですか? ありゃあ質入れしたんですよ。キュウリの不作が続いてね、金が要ったから」
 河童はのんきそうに話した。
「すっかり忘れていたなあ。そのときに買ったキュウリの苗が、上手く育ちましてね、食べ物に不自由しなくなったから。このへんで祭りをやる人間も、いろいろ供えてくれまして……あの封じ絵は寄付しますよ。河童の質流れってことで」
「三大妖怪もいろいろだな」
 帰り道、僕はまた独り言を呟き、ニャア太が左肩で応じた。
「うにゃ」


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

ログイン
アドセンス

新着作品