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本宮晃樹さん

ふつうにサラリーマンをしております。 春夏秋冬、いつでも登山のナイスガイ。 よろしくお願いします。

性別 男性
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アドリブ美術館

16/12/02 コンテスト(テーマ):第122回 時空モノガタリ文学賞 【 美術館 】 コメント:0件 本宮晃樹 閲覧数:463

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「あの、お一人ですか?」こんなもの俺でも描けると驕っているときにいきなり話しかけるやつがあるか。「よかったら一緒に回りません?」
 ひとつ断っておくが、俺に高尚な美術を理解できる素養があるだなんて思ってもらっては困る。そんなものはいっさいない。
 悪いがね姉ちゃん、友だちから賭けマージャンでかっぱらったチケットがたまたまこのくそいまいましい美術館のタダ券だったんだよ。「かまいませんよ」
 どうしちまったんだ? 素養がなかったんじゃないのか? そうは言ってもやっこさんを見ろ。地味だがなかなか美人じゃないか。
「じゃああっちにいきましょ」姉ちゃんはするりと腕を絡ませてきた。「誰かお好きな画家はいますか?」
「もちろん」いるわけがない。「そりゃ、ねえ? 二十一世紀に生きる知識人なら当然そういう嗜好があってしかるべきというか――」
「あたしは断然ゴーギャン! 南国の失われた情緒みたいなのが最高なんですよね」
「なるほどね。そいつは、あー」頼むから気の利いた台詞よ、出てこい。「実にリベラルですな」
 明らかにぼろの出ない前に逃げ出すべきだったが、彼女を諦めるか赤っ恥をかくリスクを負うかでいまだに揺れ動いているありさまだ。
「ほら見て」姉ちゃんはなんの変哲もないひまわりの絵を指差して、「やっぱり渋いですよね。堂々たる風格っていうか」
「はあ。まあ」
「あれ、ゴッホはあまりお好きじゃない?」
「え、コソボ紛争?」
 姉ちゃんは目を丸くした。「なんですか、それ」
 気まずい沈黙が下りた。俺の脳内はオーバーヒート寸前になりながらも超高速で回転している。なんとかいまのチョンボをなかったことにしなければ。
「ひまわりが戦没者に手向けられる」もうなにを言ってるのか自分でもわからない。「実に感傷的じゃないですか。ねえお嬢さん」
 彼女の顔はアスラのごとく移り変わったあげく、〈うっとり〉に落ち着いてくれた。両手を組み合わせ、「なんて退廃的なひまわりの解釈なんでしょう」
 一難去ったと思ったら、またもやずるずる引っ張られてべつのブースへ連行された。そこは彫刻の展示室で、これなら俺にも理解できると思いきや、そのわけのわからなさはさっきのありがたい絵画とおっつかっつだった。
「ダビデ像。いつ見ても勇壮ですよね」
 イチモツがやけに貧相じゃないか? おまけに皮までかぶってやがる。「ふうむ。なんというか非常にそのう……独創的ですな」
「そうなんですよ!」姉ちゃんの目の輝きを直視するのがそろそろつらくなってきた。「この像は聖書の怪物ゴリアテにソロモンのダビデが石を投げようとかまえてるときの構図なんです。すぐそこにゴリアテがいるみたいじゃないですか?」
 ゴリアテというのは例のアニメ映画に出てくるでっかい飛行船のことか? あれを地上から投石で撃墜するとなると、必要とされる膂力は大リーグの一流投手どころの騒ぎじゃなくなってくるぞ。「ぼくにも見えますよ。空に君臨する恐るべき飛行要塞の姿がね」
「飛行要塞?」姉ちゃんはぽかんと口を開けた。「なんですか、それ」
 ちくしょう。どうやらまたぞろチョンボをやらかしたらしい。最近はなににつけてもチョンボだ。こないだの賭けマージャンもそうだった。俺ともあろうものがあがりの役をまちがえたのだ。
 俺は思うのだが、衰退著しいマージャン文化を救うためにも初心者の参入を積極的に促す必要がある。あがり役の多様性と複雑性を軽減できれば連中を吸引するのも夢じゃない。どうだろう、いっそのこと雀荘にあがり役の一覧表をでかでかと掲示するというのは?
「つまりですね、ダビデの栄光は」ダビデって誰だ? 「空に舞い上がらんばかりだってことですよ」
 彼女の顔はアスラのごとく移り変わったあげく、〈うっとり〉に落ち着いてくれた。両手を組み合わせ、「なんて詩的なダビデ像の解釈なんでしょう」
 乗り切った。ちょっと思ったのだが、俺はアドリブに天賦の才があるのではなかろうか?
「きょうびこんなに美術について造詣の深い男の人って、あたし見たことないです」
 期待が高まる。バッグに手を突っ込んだ。なにが出てくるんだ? 連絡先か? それとも気の早いことに、捺印済み婚姻届か?
「これ見てください。絶対興味あると思います」
 らせんだか石鹸だかいう現代アーティストのパンフレットだった。姉ちゃんの顔を見てみろ。このありがたい紙切れに掲載されたしろものが売れると確信している笑顔だ。
 崇高な芸術と紫煙漂う下品なマージャンは、一見まったくの別物に見える。だが根底に流れるルールは同じなのだ。つまり、『獲物を見つけて食いものにしろ!』。
俺は苦笑いを浮かべた。「実に興味深いですな」
 今度からはちゃんと現金を賭けさせよう。美術館のチケットじゃなしにだ。


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