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あずみの白馬さん

成人済 アイコンは天乃ゆうりさん作成(無断転載を禁じます) 自分なりの優しい世界観を出せるように頑張ります。 好きな作家は飯田雪子先生です。若輩者ですが、よろしくお願いします。 Twitter:@Hakuba_Azumino

性別 男性
将来の夢 旅立つときには、ひとりでも多くの人に見送られたい。
座右の銘 「これでいいのだ」

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私と山の美術館

16/11/27 コンテスト(テーマ):第122回 時空モノガタリ文学賞 【 美術館 】 コメント:4件 あずみの白馬 閲覧数:668

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 私、彩(あや)は、高校生の頃から絵を書き始めて、もう10年以上たち、アラサー女子と言われる歳になっていた。

 個展を開いても、来てくれるのは友達だけ。世間の評価とは無縁で、自分の絵に納得が行かなくなってきた。
 そんなある日、訳もなく、旅に出ることにした。

 東京を発ち、夜行バスで西へと向かう。翌朝、バスは出雲大社に到着。あまり眠れなかったが、神様が年に一度集まる場所と言われており、来てみたかったのだ。
 本殿の大きさに圧倒されつつ、何か祈って行こうと思ったのだが、何も思いつかず、結局、お賽銭だけ入れてきた。

 境内で、これから何処へ行こうかと思案していると、スケッチブックを片手に下書きをしている高校生ぐらいの女の子を見つけた。
 こっそり覗いてみると、まだまだ粗いが、強い筆致が感じられ、思わず見入ってしまった。
「何か、御用ですか?」
 少女が私に反応した。とっさに
「あ、すみません、素敵な絵だと思って、つい見てしまいまして」
 すると彼女は嬉しそうな顔を見せた。
「ありがとうございます。お姉さんも絵を描くんですか?」
「あ、はい」
「そうなんですか。良かったら、私の絵、見てみませんか?」
 彼女がそう言ってスケッチブックを渡してくれたのでページをめくってみると、山間ののどかな景色と、不釣り合いに長いホームがある駅の絵があった。私はそれに魅入ってしまった。
「素敵な絵ね。ここって、廃線になった駅?」
 しかし、廃線と言う言葉が彼女の逆鱗に触れてしまった。
「とんでもない! 現役ですよ!」
「す、すみません」
「謝ってもらっても困ります。私にとっては大切な駅なんです」
 そんなのわからないよ、と思いつつ自分も些細なことでイメージが飛んだことがあり、気持ちがわからなくはない。
「あ、あの、ほ、ほんとに、ごめんなさい……」
 それを聞いた彼女は、
「ふーん、じゃあ、一緒に来てよ。これからちょうどその場所に行くところだったの。廃線じゃないってとこ見せてあげる。3時間ぐらいかかるけどね」
「え……!?」
 突然私を誘って来た。私は迷ったが、あてどのない旅、彼女について行くことにした。

 二回乗り換え、山あいの中を走る1両だけの列車に揺られる。
 その中で自己紹介。彼女は萌(もえ)さんといって、地元の高校生らしい。
 少し話すと、夜行バスであまり眠れなかったのもあって、そのまま眠ってしまった。

「彩さん、そろそろ着くよ。起きて」
 気が付くと静かな山間には不釣り合いの大きな駅に着いた。長いホームに1両だけの列車が止まり、東京の駅のようにポイントがたくさんある線路。かつては賑わったのだろうが、設備を持て余しているように見える。それが追憶を呼び、廃線と言ったのが申し訳なく思えた。

 駅の中に入ると、かつては駅事務室だった場所が改装され、数枚の額装された絵画が飾られていた。規模は小さいが、ここは美術館と言って良いだろう。何人かの旅人が絵を見て、列車に乗り込んで行った。
 改めて見ると、この駅や、山陰の海沿いの景色など、なかなかいい絵が多い。そこそこ名の知れた作家の絵もある。

 その中に、萌に似た一人の少女の絵があった。
「この絵、素敵でしょ? お姉ちゃんが描いたの」
「お姉さんは画家なの?」
「あ、うん……」
 萌の表情が一瞬曇った。
「もしかして、お姉さん、もう……」

 そこに来客があった。私と同い年ぐらいの綺麗な女の人だ。
「こんにちは、あら、お客さん?」
「あ、お姉ちゃん!」
「い、生きていたの!?」
「死んだとは言ってないでしょ、お姉ちゃんはここの館長さんなの」
「はじめまして、響と申します」
 響さんに絵のことをいろいろ話すうちに打ち解けてきた。
「10年以上描いてきたけど、行き詰まっちゃって……」 
「私も、プロの画家にはなれそうにないな。評価も気になる。けどね」
「けど?」
「キャンバスに自由に描けることが何より楽しいの。彩さんは、絵を描いていて楽しい?」
「最近は、あんまり……」
「なるほどね……。良かったら、どんなの描いてるか見せてくれる?」
 私はスマホのフォトフォルダから何枚か見せた。響さんはうなづきながら見た後、
「素敵な作品ですね。今度新作が出来たら、ここに送ってもらえますか? 展示させていただきたいと思います」
 その言葉に、私は嬉しさがこみあげてきた。
「ありがとうございます。頑張って描きます」
 自分の絵が美術館に飾られると思うと、俄然やる気が出てきた。

 旅の後、東京に帰って何枚か描き、やっと納得できる絵ができた。
 響さんに送ると、絵が飾られた写真とともに丁寧なお礼が書かれた返事が届き、改めて嬉しく思った。

 私は未だ芽は出ていないが、良縁に感謝しつつ、花咲く日を夢見て描き続けている。


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このストーリーに関するコメント

16/11/27 あずみの白馬

参考資料
wikipedia「備後落合駅」
(作中の山あいの駅のモデルに使用させていただきました)

写真は同ページより。
撮影者:Ippukucho 様(CC3.0に基づく表記)

協力:天月儀 式 様

御礼申し上げます。

16/11/28 あずみの白馬

補足です。

現実の備後落合駅には美術館はございません。
しかし、かつては交通の要衝として賑わった跡が残されており、現在は列車本数は少ないですが、静かな時間を過ごすことが出来ます。

16/12/29 あずみの白馬

> 海月漂 さま
花咲く日を探して旅する姿に、共感していただき、誠にありがとうございました。

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