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ポテトチップスさん

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山に振動を響かせサンタがやって来た

16/11/27 コンテスト(テーマ):第123回 時空モノガタリ文学賞 【 クリスマス 】 コメント:0件 ポテトチップス 閲覧数:482

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 岩に積もった雪で足が滑りそうになった。光一は後ろを振り向き、小学校が冬休みに入ったばかりの輝彦に、「気をつけろ!」と言った。
 輝彦は、父親に無理やり連れられて登山させられていることに、朝から機嫌が悪かった。
 来年の1月1日付けで、光一は東京に単身赴任することが決まっている。その前に、1人息子と登山に挑戦してみたいと光一は思っていた。
 光一は腕時計に目を向け、
「早朝から登山を始めたから、もうそろそろ昼ご飯にしよう。腹減ってるだろ?」
 輝彦は小さく頷いた。
 適当な雪の積もった岩場に、シートを敷いて2人は腰を下ろした。
 登山リュックからレトルトの非常食を取り出し、父と息子は食べ始めた。毎日、残業で帰りが遅い光一は、息子とじっくり話す時間をとりたいと思っていた。
「最近、学校で困ってる悩みとかあるか?」
 輝彦は、横に顔を振る。
「学校に友達はたくさんいるのか?」
 また小さく頷く。
「少しは、言葉にだして返事をしなさい」
 また小さく頷いた。光一は妻である美佐江の甘やかしすぎている子育に、また苛立たしい気持ちになった。
 美佐江との夫婦関係は、もう長いこと冷え切っている。来年の1月1日付けで東京に単身赴任するのも、光一が自ら望んで会社にお願いしたことだった。離婚も考えはしたが、息子のことを考えると、別居した方が最善だろうと思ったのだった。
「お母さんとは、どんな会話をするんだ?」
 輝彦は小首を傾げる仕草をした。
「ちゃんと言葉にだして言いなさい」
「別に・・・・・・」
「別にって?」
「いろんな話する」
「お母さんは、優しいか」
「うん」
「どんなところが?」
「ゲーム買ってくれるし」
 光一は、空になったレトルトの非常食を雪の上に置きながら、鼻からため息を吐いた。美佐江とは、教育の仕方や考え方が自分とは正反対だとつくづく思った。
「明日はクリスマスイブだな。サンタさんにプレゼントのお願いはしたか?」
「サンタなんて、いないよ」
「もうサンタさんを信じていないのか。いつサンタさんはいないって知ったんだ?」
「11月くらいに・・・・・・」
「学校で友達に教えてもらったのか?」
「お母さんに教えてもらった」
 もうサンタがいないことを知る年齢ではあったが、美佐江が子供の夢を奪ってしまったことに、微かな憤りすら感じた。
「さあ、そろそろ登山を再開するか。あと2時間もあれば、山の頂上に登りきれるぞ!」
 2人が登山を再開して30分近くが経った頃、輝彦が滑落した。
「テル! 大丈夫か! テル!」
 いくら叫んでも、輝彦は身動きしない。光一は目を見開き、体を震わせながら何度も叫んだ。救助しようとリュックを置き、急斜面を下りようとしたら光一までも滑落した。
 足の骨が折れてしまったのか、酷い激痛が体に走ったが、折れていない両腕で輝彦の近くまで体を引きずった。
 輝彦の体を揺すると意識をとりもどし、大声で泣き始めた。
「テル! 大丈夫だ! お父さんも一緒だから心配するな。体はどこか痛くないか?」
「痛い! 痛いよ!」
 光一は、たいへんな事故を起こしてしまったと、目を瞑って奥歯を噛んだ。携帯電話はリュックの中に入れてある。
 夜になった。山は暗闇に包まれてはいたが、無数の星と月明かりが2人の全身を浮かび上がらせている。
 また携帯電話の着信音が斜面の上から鳴った。もう100回近く鳴っているのではないか。きっと美佐江だろう。
 光一は、輝彦に頑張れと励まし続けていた。きっと今頃、日付が変わって、世のお父さんとお母さんは、子供達のベッドの枕元にプレゼントを置いている時間だろうと思った。それがとても幸せそうに思えて、光一は涙が零れた。
 山の空を切るような、体に振動を感じさせる音が近づいて来ている事に気づいた。その音だけで、助かったと光一は思った。
「テル、見てごらん。サンタさんがやって来たよ・・・・・・」
「ホントだ。サンタさんだ・・・・・・」
 月明かりに照らされた、赤いヘリコプターが上空でホバリングし、人がロープで下に降りてきた。
「消防局の航空隊です。お怪我はありませんか?」
 涙が出た。
 
 光一と輝彦は、毛布で包まれて赤いサンタのソリの中にいた。
「もう大丈夫ですからね!」
 オレンジ色の救助服を着ている、20代後半くらいの男が安心させるように言った。その男性の左手の薬指には、銀色の結婚指輪が光っていた。
「子供のサンタさんにならないといけない時間に、救助をさせてしまいまして申し訳ありません」
 光一は泣きながら言った。
「いいんです。お二人が助かってよかったです」救助服を着た男は笑みをたたえて言った。
 光一は、隣で疲れ寝ている輝彦の顔を見ながら、クリスマスにサンタさんはやって来るんだよと心の中で呟いた。
 


 


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