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秋 ひのこさん

歯について考える時、右と左がよくわからなくなります。右奥だっけ、左奥だっけ。虫歯が絶対にあると思われるあの場所を伝えるべく「ええと、右です。そして上な気がします」と言ったら先生が「うん、上は上でも左ですよね」とか言う瞬間が恥ずかしいので、虫歯は放置しているような人間です。こんにちは。 

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君のサンタでいたいから

16/11/24 コンテスト(テーマ):第123回 時空モノガタリ文学賞 【 クリスマス 】 コメント:1件 秋 ひのこ 閲覧数:636

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「今年はね、レゴにしたの。人気あるんだって、小学生に」
 真弓が嬉しそうに大きな包みを見せてきた。青い包装紙に黄色いリボン。去年は戦隊ものの人形だった。一昨年は、確かトラックのおもちゃ。
 買い物は真弓に任せ、英一は夜中にそれを枕元に置きに行く。何度やっても、この瞬間こそ父親の醍醐味だとしみじみ思う。
「ケイちゃん、気に入ってくれるかな」
 真弓は目を細めて包みをそっと紙袋に戻した。


 12月25日に有給を取るようになって3年目だ。子供のためにクリスマスは休みを取るなんて、以前では到底考えられなかった。しかも、夫婦揃って。ただでさえ23日が祝日だというのに、肩身が狭くないと言えば嘘になるが、今年もなんとか取得できた。というか、無理やり取得した。
 せめて半休か、できれば23日、或いは直近の週末にすればいいじゃないか、というのが英一の本音だが、平然と休みを取り、当たり前のように英一にもそれを求める真弓にどうしても強く意見できないのだった。


「用意できた。じゃあそろそろ」
 真弓がはりきって車に乗り込む。
 英一は運転席のドアを開け、ふと我が家を見上げた。圭一が生まれる直前に思い切って購入した小さな2階建て。気がつけば10年。もう新築とは言えない外観とは裏腹に、まだ先の長いローン。同じ時期に購入した家族向けミニバンも、最近真剣に買い替えを考えている。
「サンタさーん、早く早く」
 真弓が急かした。
 英一は「はいよ」と無理やり明るい声を出す。同僚に残してきた仕事と、雨風で黒ずんできた外壁、型落ちになった車。そんなもので一杯になってしまい、肝心の圭一と真弓のことを考えられない己の頭が情けなかった。

 車で国道を走っていると、クリスマスの雰囲気は街中ほど感じられない。車のディーラーやコンビニのショーウインドウに派手な飾りは見受けられるが、流れ去る景色に、あの心を浮き足立たせるような余韻はない。せいぜい、ラジオから流れる音楽くらいだ。
「車、そろそろ買い替えないとな」
 車のラジオCMをきっかけに、圭一はつぶやいた。会話をしようとしただけだ。深くは考えなかった。
 だが、真弓からはすかさず棘のある言葉が返ってきた。
「別にまだいいんじゃない。毎日乗るわけじゃなし。ケイちゃん、この車大好きだし」
 真弓は圭一が好きなものを絶対に手放そうとしない。
「英一って、そういとこ、あっさりし過ぎてるよね」
 試すように、真弓が売り言葉を吐いて捨てた。英一はそれを黙ってやり過ごす。真弓はそれ以上何も言ってこなかった。

「ケイちゃん、来たよー」
 真弓が声をはずませ、手を振った。
 その先には、墓石。
 4年前に買ったばかりだが、すでに当時のつるりとした輝きは失われ、墓地特有の色味の薄い景色にすっかり溶け込んでしまっている。
 先月添えた花が、しおれていた。

 
 英一と真弓の長男、圭一は6歳でこの世を去った。
 4年前のクリスマスは日曜で、家族3人、近所のファミリーレストランに昼食に出かけた。外は雪で、圭一は駐車場へ出たがった。ほんの5分かそこら、両親が最後のひと口を食べ終えて会計を済ませる短い時間だけ、というつもりで行かせた。本当に、すぐに後を追うつもりで。出入り口に留まるよう、絶対に車に近づかないようきつく言い含めて。
 圭一は両親の言いつけを守り、出入り口に続く短い階段で雪をいじり始めた。
 本当に、2分か3分のことだった。
 そこへ、高齢者が運転する車が勢いよく階段に乗り上げ、そのまま店内に突っ込んだ。
 圭一の小さな遺体は、半分も元の姿にしてやることができなかった。


 12月25日は、圭一の命日だ。
 真弓は、悲しみに沈み込み過ぎないよう、あえてクリスマスと命日を一緒にやろうとする。プレゼントを買い、24日の夜に圭一が使っていたベッドにそれを置きに行くのは、英一の役目だ。生前と同じように。
「やったー、サンタさん来たよ!」
 亡くなる日の朝に聞いた圭一の興奮した声を思い出しながら、英一は大きな包みを空っぽのベッドに置く。そして翌25日は、開封されていないプレゼントを改めて圭一に――墓石まで届けに行く。
 今年はそれらに加え三回忌の法要も済ませ、家に帰ると、3人分用意されたご馳走とケーキを食べた。
「メリークリスマス」
 赤いリボンのついた鶏肉を前に、真弓が微笑んだ。先に視線を向けたのは、新品のレゴが置かれた椅子で、次いで英一だ。
 いつまでこんなことを続けるのだろう、と思う反面、止めようとも言い出せない。
「メリークリスマス」
 英一も笑った。
 いずれは、いつかは、もう少し上手く折り合いをつけられる日が来るのかもしれない。だが、それまではサンタを続けようと、英一は思った。英一が圭一の父親であることに、かわりないのだから。


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このストーリーに関するコメント

16/11/29 秋 ひのこ

この話の作者です。訂正があります。

4段落の5行目
誤:車のラジオCMをきっかけに、【圭一】はつぶやいた。
正:車のラジオCMをきっかけに、【英一】はつぶやいた。

お恥ずかしい。大変失礼しました。

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