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浅月庵さん

笑えるでも泣けるでも考えさせられるでも何でもいいから、面白い小説を書きたい。

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叶わぬ恋をあなたの胸で

16/11/23 コンテスト(テーマ):第123回 時空モノガタリ文学賞 【 クリスマス 】 コメント:0件 浅月庵 閲覧数:911

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 ◇
 彼は白い雪の降るなか、白い息を吐き、白い歯を見せ、手を振った。
 私もそれにつられて手を振り、名残惜しさを振り払うようにして背を向ける。
 私の小さくなる姿に彼はまだ、視線を送っているのだろうか。

 ◇
 私は別に、彼のことなんて好きじゃなかった。
 たまたま同じクラスで、話と気が合い、でもそれは恋心とは無関係な気持ちだ。生きている間には私に届かない、遠くの光。

 だけど周りのみんなが、二人はお似合いだとか、付き合っちゃいなよ、なんて無責任な言葉を投げかけて、私は彼のまんざらでもなさそうな表情に気づいてしまう。

 空気を読ませる、というか空気を周囲から固められる?みたいな感覚は本当に厄介だ。
 クリスマスのスケジュールを周りから、半ば押しつけるように決められる。私の両親は門限に厳しいので夜遅くまでなんて遊べないし、毎年予定があるのだから放っておいてほしいのに、みんなは聞く耳を持たない。
 他人の恋路で盛り上がっている人たちってキューピッド気取りで、矢を放つことにばかり忙しくなる。そういうところが心の底から嫌いだ。

 でもそのなかで、あなたまでも私と彼の恋の進展を笑い、手を叩くだなんて思ってもみなかった。
 あげくのはてにあなたは、彼と付き合ってみればいい、なんて言い出すもんだから、私の気持ちは悲しみから顔を逸らし、怒りの方向へと走りだす。
 
 あなたまで私の肩に置いた手を離すっていうのなら、どうなったっていい。そう思えた。

 ◇
「寒かったでしょ! 早く入って」
「お邪魔しま〜す」
 毎年クリスマスは、幼馴染の家族と過ごすのが恒例だ。
 ただ、温かく出迎えてくれたおばさんの笑顔を、素直に直視できないのはなぜだろう。

 廊下からリビングに目を向けると、私の両親とおじさんがテーブルに着いて談笑をしているので、軽く声だけかけて二階へと上がる。

 私は幾度となく訪れた部屋の前に立ち、ノックする。どうぞ、と声がかかるので、ゆっくりドアレバーを傾けた。

 どうも、と私が小さく頭を下げるとあなたは、いらっしゃいと答える。その顔に笑みはない。
「早かったね」
「うん、まぁ」
「ご飯食べた? ケーキもあるけど」
 あなたは私と二人の空間が気まずいのか、早口だ。
「なんなの、本当に」
「え?」
 単刀直入に切りだす。唐突な物言いだけど、私は耐えられない。
 ここ数週間、なんだかあなたと私の関係はギクシャクしていて、そんな状態でクリスマスの日になり……一体どんな感情でこの後の時間を過ごせばいいのかわからなかった。
「私、あの人と付き合うつもりなんてないんだけど」
「でも周りのみんながお似合いって言ってた」
「周りって、自分だけ責任逃れしないでよ」
「そんなつもりは……」
 私だって悪いのだ。嫌なら嫌だと、はっきりそう言ってしまえばいい。
「じゃあなんで、付き合ってみればいいなんて言ったの?」
「……その場の空気と、それに」
「それに?」
「うちらが付き合うの、無理だからさ」
 ずっと前から気づいてたし、わかってたことだし、今さら言わないでよ、と叫びたかったけど、私は口には出さない。
「だから他の人を充てがったってわけ? そんなの間違ってる」
「......ごめん」
 あなたの謝罪で私の強気な言葉は、あまりにも一方的すぎると、ふと我に返る。
「いや、私の方こそごめん」私はあなたの肩に手を置く。「でも私、あの人に気持ちなんてないから。散歩しかしてないからね」
 私がそう言うと、あなたは今日初めて笑顔になる。
「はは、散歩って。別に疑ってないよ」
「ありがと」
 疑ってない、というあなたの一言は、シンプルが故に真っ直ぐな言葉で、改めてこの想いを大切にしたいと感じる。
 
 私が彼と二人きりで会ったのは、私を見放したあなたへの仕返しだ。
 でもやっぱり、私の頭からあなたの顔がずっと離れなかった。早くあなたの元へ行きたくて仕方がなかったのだ。
 
 ーー私が振り払ったのは彼一人の名残惜しさで、私は彼に告白すらさせなかった。

 振り切った先にあるのはあなたの笑顔で、あなたは怒りっぽい私を受け入れてくれて、私の頭を撫でてくれる。あなたの声や表情の、そのどれもが私は愛おしく感じる。

「明日は予定ないの?」
「大丈夫。クリスマスくらいだからね、お泊まり許してもらえるの」
 この二日間の、貴重な時間、空間は誰にも渡したくない。

 私は、この恋が決して叶わないものだなんて思わないし、もし仮に周りが邪魔をするのなら、降り積もる雪で見えなくなってしまえばいいと、そう思うんだ。

 あなたも同じ気持ちかどうか確かめるように、私はあなたの心臓の鼓動を聞いた。
 その胸の柔らかさは、私の不安をいつでも掻き消してくれる。


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