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比些志さん

ペーソスとおかしみの中にハッとさせられるなにごとかをさり気なく書いていきたいと思います。

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聖夜の酒宴

16/11/21 コンテスト(テーマ):第123回 時空モノガタリ文学賞 【 クリスマス 】 コメント:0件 比些志 閲覧数:547

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ここに来てもう二年になる。その夜、オレはダムの建設現場の仲間たちと宿舎の居間にいた。缶ビールとさきいかを手に、荒くれ男だけが集うわびしいクリスマスイブ。

となりに座っている初老の小男が頼みもしないのに新しい缶をあけ、笑顔をすりよせながらオレのグラスにビールをそそいだ。半年ほどまえにこの現場に来た男だが、笑うと恵比寿様のように目が垂れて愛嬌がある。どうやらオレに好意を持っているらしい。

正面にすわっているひげ面の巨漢の男が耳障りな関西弁でまくしたてる。こいつも四ヶ月ぐらい前にこの現場に流れてきた。素性の不確かな無法者ばかりの集まりだが、その中でもひときわ粗暴でホラ吹きで自分勝手な男だ。オレの一番きらいなタイプ。

「オマエら、ほんとうの悪党の目ちゅうもん見たことないやろ?」
ひげ面が発した唐突な問いかけに、皆あんぐりと口をあけている。
「ワシが和歌山でタクシーの運転手をしてたころのことや。とある駅前でひとりのお客を乗せてな、お客のいうとおりに走ってたら、いつのまにやら山の中や。そのうち、よりにもよって、とある墓地のまえでパンクしよんねん。すると、そのお客が、『あんた、今日の売り上げどれぐらいだった?』ってゆうさかい、けったいなこと聞くねんなあっておもいながらも集金袋をのぞいてたら、ちょうどそのとき正面から代車が来てな、それでお客はその車に乗ってさらに山の奥に行ってしもうてんけど、翌朝、そのときの代車の運転手が、山中にとめた車の中で死体で発見されたんや。連続タクシー運転手殺人強盗犯の一条カズマの仕業や。あのときもう少し代車の到着が遅れとったら、代わりに死んでたんは、ワシやったわ。そのあと、警察といっしょに車載カメラの映像を見てみたら、ワシが運転席で集金袋を開いているときに、アイツ、後部座席で自分のバッグに手をつっこんで、まさにナイフを取り出しよるとこやった。そのときの一条の目の恐ろしさゆうたら、あれは人間の目やないでえ。あれこそ悪魔や」
小男もまわりの男たちもみな目を丸くしている。巨漢の男は得意げだった。その様子が、オレには癪だった。ーー酔いも手伝い、ガラにもなく一度もしたことのない話を口にしてしまった。
「オレも悪党を知ってる。二十年前の銀座の都市銀行強盗事件を覚えてるか?」
すかさず小男がうなずいた。
「二億円強盗事件だろ。その場にいた客も巻きぞえになって殺された………たしか、幼い子供づれの家族も、犠牲になったんだよね?」
「ああ。じつはオレ、あの場にいたんだ。すみっこにいたから、流れ弾にあたらずにすんだけど、大勢の人が血まみれになって泣き叫びながら死んで行くところを目の前で見た」
「は、犯人の顔を見たんか?」それまでいぶかしげな態度で遠巻きに聞いていた巨漢のひげ面も身を乗り出した。
「覆面をしていたから顔は見てないが、目は見た。冷たい目をしてた。あいつこそほんとうの悪魔だとおもった」
みな顔をこわばらせながらだまってうなずいていた。
「たしか、犯人はまだ捕まってないはず……いまもどこかに身をひそめているんだろうけど、ああいうのを、人でなしっていうんだろうね」
人のよい小男がなにげなく口にした、人でなし、という表現が、心にひっかかった。
「ーーところが、オレは犯人のちがう面もそのとき目撃したんだ」
「なに、なに?」
小男が子犬のように顔をすりよせてきた。この顔を見るとつい口のひもがゆるんでしまうーー。
「犯人が銀行から逃げて行くときに、年老いた老婆にぶつかったんだよ。そしたら、犯人の奴、足をとめて『すまねえ』っていったんだ。本性っていうか、根はいい奴なのかもしれねえ、っておもったね」
「きっと田舎の母ちゃんをおもいだしたんだろうね。そういえば、あの日もクリスマスイブだったね。うん、なるほど、生まれながらの悪党なんていないのかもしれないな」
オレはなにもいわずにうなずいた。
「ところで秘密の暴露って言葉、知ってます?」
小男の言葉づかいが急にあらたまった。
「いや、しらねえが……」
「犯人しか知り得ないことを犯人が白状することですが、しらばっくれながらもどこかで自分のしたことを知ってもらいたいんでしょうね。ーーその強盗事件で犯人が老婆にあやまったっていうのは、マスコミにはいっさい公表されていません。それに銀行の外でのできごとなので老婆以外にその言葉を耳にした人もいないはずなんですよ。あなたーーXXXXXさんですか?」
それは、まぎれもなく二十年間かくしつづけたオレの本名だった。
小男は如才ない笑顔をうかべながら、ニッカポッカのポケットから警察手帳をとりだした。「すみませんが、ご同行いただけませんか?」
オレは立ち上がって出口にむかおうとしたが、巨漢のひげ面が腕組みをしながら行く手をふさいでいた。了


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