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ポテトチップスさん

20代の頃、小説家を目指していました。 ですが実力がないと自覚し、小説家の夢を諦めました。ですが最近になって、やっぱり小説家の夢を追い求めたい自分がいることに気づきました。久方ぶりに、時空モノガタリ文学賞に参加させて頂きます。 ブログで小説を書いてます。http://www.potetoykk.com

性別 男性
将来の夢 太宰治賞もしくは北日本文学賞で最終選考に残ることです。
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サンドウィッチマンのクリスマス

16/11/21 コンテスト(テーマ):第123回 時空モノガタリ文学賞 【 クリスマス 】 コメント:0件 ポテトチップス 閲覧数:473

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 丸い綺麗な月が出ていた。風はさほど強くは無いが、寒風が衣服を重ね着していても体に堪えた。
 青島は駅前の広場で、サンドウィッチマンの格好でただ立っていた。何度か激しく咳き込む。このところ咳を頻繁にするようなった。
 駅前を歩く若いカップルらは、幸せそうに手を固く繋いで歩く。まるで12月24日のクリスマスイブは、自分達のための記念日であるかのごとく、みな幸せそうに微笑みながら青島の前を通り過ぎて行く。
 青島は何もすることなく、何も考えずにただ立っている。サンドウィッチマンの仕事で求められるのは、愛想でもサービス精神でもなく、ただ動かずに突っ立ていることだけだった。
 カラオケボックスの宣伝が書かれている看板を、体の前と背中に取り付けて、人から哀れみの目や冷たい目を向けられても、無表情でいること。
 駅の改札口を出た若い男女数人が、大きな声で話しながらこちらに向かって来た。
 青島は奥歯に力を込めて顔を横に向け、若者達が通り過ぎるのを待っていると、予想通り若者の1人が奇声を上げながら、わざと体当たりして来た。
「おじちゃん、メリークリスマス!」
「・・・・・・」
「ノリ悪!」
 若者らは、冷たい視線とあざ笑いを浮かべて通り過ぎて行った。 
 今宵はクリスマスイブだけあり、深夜0時になろうとしても人の流れが切れない。
 突然、横から女性の声で、
「メリークリスマス」
 また若者の嫌がらせかと思いながら、声のする方に顔を向ける。
「君・・・・・・」
「部長、お久しぶりです」
「やめてくれ、もう部長なんかじゃない。見てのとおりの落ちぶれたサンドウィッチマンさ」
 青島は心の中で、こんな姿をかつての部下に見られたくないと思った。
「部長、ずっと前からこのお仕事されてますよね」
「なぜ分かる?」
「じつは、今年の夏にこの場所で部長の姿をお見かけしていたんです」
「今の私は、誰にも声をかけられたくないんだ・・・・・・」
 元女性部下は、申し訳なさそうに顔を下に向けた。
 青島は汚れたボロボロのスニーカーを見られているように感じ、一歩後ろに後ずさりする。
「部長、お話させて頂きたいことがあるんです」
「私はもう、君と話すことなんか何もないさ」
「10分だけでもいいので、お時間を私にもらえないでしょうか?」
 青島は腕時計に目を向け、
「あと20分で仕事が休憩になる。その後ならいいよ」と、渋々告げた。
 深夜0時30分になり仕事が休憩になった青島は、元女性部下と夜の街を歩いた。何度か大きく咳き込む。
「コーヒーでも飲もうか」青島は言う。
「はい。あっ、あそこにスタバがあります」
 元部下は指を指して言った。
「スタバは高いから、マクドナルドに行こう」
「私が奢らせて頂きます。私が誘ったんですから」
「いや、見栄を張らせてくれ。私のプライドが許さないんだ」
 元部下は申し訳なさそうに頷いた。
 マクドナルドの店内で、適当なテーブルに2人は向かい合って座った。
「どうぞ、飲んでくれ」
「いただきます」
 女性はホットコーヒーに口をつけ、「美味しい」と言った。
「話ってなんだい?」
「私・・・・・・」と言って、口ごもる。
「どうした?」
「エイズに感染してしまったんです・・・・・・」
 深刻な表情で彼女は俯いた。
 3年前、新卒で入社した彼女は、保険の外交部に配属された。入社から1年が経過しても営業成績が伸びないと悩んでいた彼女に、部長であった青島はこっそりと、枕営業というのもあると教えてやった。以来、彼女の営業成績は飛躍的に伸びていった。
「非情に聞こえるかもしれないが、自己責任としか言いようがない」
「でも、部長が私に枕営業をしろと言ったんじゃないですか」
「しろとは言ってない。そういう手もあると教えただけだ」
「私、今後どうなるんですか?」
「医師を信じるしかない」
「酷いですね、部長」
「私はそういう人間さ」
「私、HIVに感染したの思いあたる人がいるんです。その人はもう亡くなっています。部長、憶えてますか?」
「何が?」
「1年半前、宴会の帰りに部長とホテルに行ったじゃないですか」
「まさか・・・・・・」
「HIVに感染した疑いの後ですよ」
 元女性部下の目は、冷たい目をしていて青島は体が震えた。
 30分の休憩時間が終わり元女性部下と別れると、また青島は看板をつけてサンドウィッチマンの仕事についた。
 また激しく咳きが出る。
 サンタクロースはサンドウィッチマンの自分に、ブラックジョークのようなプレゼントを与えてくれたと、皮肉混じりに青島は思った。
 また激しく咳が出て、唾を路上に吐き出すと、血が混じっていた。
 今日というクリスマスの日に、不幸を感じている人間は世界中で俺くらいじゃないかと、自嘲気味に青島は苦笑いを浮かべた。
 


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