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霜月秋介さん

しもつきしゅうすけです。 日々の暮らしの中からモノガタリを見つけ出し、テーマに沿って書いていきます。

性別 男性
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路上ミュージシャンは今日も叫ぶ

16/11/17 コンテスト(テーマ):第121回 時空モノガタリ文学賞 【 捨てゼリフ 】 コメント:0件 霜月秋介 閲覧数:859

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 ロックとは、捨て台詞のようなものだ。相手の返答を求めず、ただひたすら自分の思いを音にのせて吐き捨てる。
 そして俺は、毎日路上で言葉を吐き捨てる。黒い革ジャンを身に纏い、ギター片手に、世の中に向かって叫びたいことを自分勝手に叫ぶ。
 親には頼らない。俺は有名なミュージシャンになる。俺の歌で、俺自身の力で生きていく。そう捨て台詞を吐いて、田舎から上京してきた。なにも成し得ずに帰るわけには行かない。
 吐き捨てた俺の言葉を、誰かに拾ってくれとは思わない。俺はただ自分の心の中につっかえているものを、思いっきり叫んですっきりしたいだけだ。拾いたい奴は勝手に拾えばいい。ただし拾ったら、せめて俺に百八円を恵んでくれ。俺が大好きな辛子明太子入りのおにぎりが、税込みで一個百八円なのだ。
 しかし問題がある。俺はギターがまったく弾けないということだ。しかもギターを買う金がない。俺にギターを教えてくれる人間もいない。さらに俺は努力が嫌いだ。何かに興味を持っても、三日も持たずに飽きが来る。そしてまた新しいものに興味を持っても、また三日もしないで放棄するだろう。ギターを弾くことそのものには興味がない。幸い、俺は工作が得意である。スーパーに置いてあったダンボールの空箱で、本物と見間違えるほどのギターを作ることに成功した。弾く必要などない。音?音などなくても歌えるのだ。俺には音など必要としないほどの歌唱力があるのだ。アカペラで十分なのだ。
 以前友人達とカラオケに行ったとき、俺が歌いだした途端、トイレに行くだのドリンクバーに行くだの電話がかかってきただのと、もっともらしい理由をつけて、俺以外の連れがそのまま帰ってしまった。おそらく彼らはあまりの俺の歌唱力に、各々自分の歌唱力に自信を無くして帰っていったのだろう。それ以来、俺はカラオケに誘われなくなってしまった。彼らにはかわいそうなことをしてしまった。
 中学時代のクラス対抗合唱コンクールでも、俺の歌唱力はすさまじい威力を発揮した。俺のパートはテノールだったが、俺が歌いだした瞬間、観客は感激のあまり、頬に手を当てて満面の笑みだった。観客どころか、一緒に歌っているクラスメイトまでもが頬に手を当てながら歌っている。頬を覆っていた手が耳をも覆っていたのか、クラスの合唱がうまく合わなくなり、入賞を逃すどころか、最下位になってしまった。俺の素晴らしい歌唱力は諸刃の剣だった。

 そして俺は今日も、路上で歌う。いつかステージに立って歌う日を夢見て、黒い革ジャンを身に纏い、手作りのギター片手に、世の中に向かって叫びたいことを自分勝手に叫ぶ。相手に返答を求めようなどとは決して、思ってなどいない。すっきりしたいだけだ。
 息を思いっきり吸い込んで、いま叫びたいことを、歌にのせて群衆に向かって叫ぶ。吐き捨てる。俺が歌う歌に、タイトルはまだ無い。リアルタイムに、俺の思いを叫ぶのだ。

「どうして誰も聴いてくれないんだあああああああああ!!」

 ああそうさ。いつだってそうさ。誰も俺の歌唱力を理解してくれる人間などいない。始めからそんなこと、俺は期待してはいなかったさ。俺が歌うとみんなどこかへ消えてしまうんだ。聴かなくていい。俺の歌を聴かなくてもいいから、せめて百八円くらい俺に恵んでくれ。食べたいんだよ。百八円の明太子入りおにぎりが、どうしても食べたいんだ。


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