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かわ珠さん

自分の好きな作家さんの言葉のチョイス、並べ方、区切り方、リズム、テンポに少しでも近付けるような文章が書けるようになりたいです。

性別 男性
将来の夢 世界平和
座右の銘 愛は時空を超える

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好奇心の少女

16/11/16 コンテスト(テーマ):第122回 時空モノガタリ文学賞 【 美術館 】 コメント:0件 かわ珠 閲覧数:572

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 夜の美術館の警備員。
 それが僕の仕事だった。とはいえ、僕は所詮バイトだし、しかも働き始めたのは先月のド新人だ。
 このバイトを始めた理由は至極単純で、時給がいい、というその一言に尽きる。それに……こう言うと少し、笑われるかもしれないけれども、夜になると展示物が動き出すあのコメディ映画が好きで、警備員という職業そのものに憧れを抱いていたのだ。
 もちろん、夜に展示物が動き出すなんてこと、あるわけがないし、そもそもこの美術館の展示物は全て絵画だ。動きようがない。けれども、この手の深夜のバイトのお約束、少し怖い話というものはやっぱりあるようだった。
 ウチの美術館の話は一つだけ、シンプルでわかりやすいものだ。
 深夜、一人で見回りをしていると、誰もいないはずの館内に女の子の声が聞こえてくる。
「どこにいるの?」
 と、寂しげに問う声が館内に響く。進んでいくと、そこに白いノースリーブのワンピースに麦わら帽子をかぶった女の子が立っているのだという。
 まあ、それだけの話。特にオチもない。深夜に館内に女の子がひとり、佇んでいるというのは確かに怖いけれども、特に実害はないのならば、そこまで恐れることもないだろう。
……と、自分に言い聞かせながら、僕は暗闇の中を懐中電灯で照らして歩く。
 今日は初めて一人で見回りをすることになった。防災センターには先輩の警備員もいるけれども、今この場にいるのは僕一人だという事実は、どうしようもなく心細い。
「……こ」
 微かにノイズが耳に入ったような気がするけれども、気のせいだろう。
「……の?」
 風でも吹いているのかな?
「……こに……るの?」
 ふう、疲れたかな? 少し幻聴が聞こえるような気がする。
「どこにいるの?」
「……」
 もはや、自分を誤魔化すのは無理だった。間違いなく“声”は聞こえる。心拍数は加速する。呼吸も浅い。それでも、仕事はきっちりとこなさなくてはいけない、という無駄な責任感がその声の元へと僕の歩を進めさせる。そして、僕の懐中電灯は一人の少女を照らし出した。
 白いノースリーブのワンピースに麦わら帽子。間違いなく噂の彼女だろう。
 少女は懐中電灯の明かりに、眩しそうにしながらこちらを見る。なぜか恐怖心はない。さっきまであんなに激しかった動悸は穏やかになっている。
「あの、キミは?」
 と、気が付けば訊ねていた。訊ねながら、ふと気付いた。
 あれ、この女の子、見たことがある?
「私、探しているのです。友達を」
 そう言って、少女は泣きそうになる。
「じゃあ、一緒に探そう」
 無意識だった。無意識の内に自然とその言葉が僕の口を突き、飛び出してきた。そうするのが当然のことだと思った。
 少女を連れて、僕は歩く。特に行く当てもなく、とりあえず一番大きなホールに出た。その中央に置かれた大きな絵。ウチの美術館の目玉、世界的な巨匠画家の『好奇心の少女』という絵画。その絵を見て、僕は思い出した。そうだ、この少女はこの絵の中央に描かれている少女だったのだ。この美術館で一番有名な絵だ。彼女を知らないはずがない。
 懐中電灯でその絵を照らし出す。その中央に、少女の姿は無かった。間違いない。僕の目の前に立つこの少女はこの絵の中の少女だ。それが、なぜか出てきてしまったのだ。いや、理由は彼女が言っていたっけ。友達を探す、だったか。
 彼女を連れて再び歩き出す。
「ありがとうございます。こんな私なんかの為にお手を煩わせてしまって」
「別にいいよ。夜の警備員は暇を持て余しているからね」
 そう、現実には映画のように楽しい警備員ライフはなかなか送れない。
 と、少女が足を止める。
「あ……」
 彼女は口を押える。尋ねるまでもない。きっと、この絵の中の少年が彼女の友達なのだろう。その絵は作者不明とされていたものだったはずだ。けれども、彼女の友達だということは、この作者も世界的に有名なあの巨匠なのか。けれども、それは別に僕にとってはどうでもいい。どうせ、僕がそう言ったところで誰も信じないだろう。
 嬉しそうにその絵を眺める少女に別れを告げて、僕は防災センターに帰った。

   *   *   *

 翌日、ちょっとした騒動があった。『好奇心の少女』の絵の中の少女の絵が変わったと。中の少女がウインクをしている絵に変わっていたのだ。もちろん、一番最初に疑われたのはその日の警備をしていた僕。けれども、防犯カメラに僕がその絵に一切触れていないのが写っていたので、すぐに容疑者からはずれることとなった。まあ、容疑者も何もないけれども。彼女がウインクをしたのは彼女自身の意思によってだろうし。そして、その理由を僕は知っている。きっと、誰に語る日が来る訳でもないだろうけど。
 それでも、その秘密を持てたことが、僕は少し嬉しかった。


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