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うたさんさん

短歌を詠んだり、エッセイを書いたりしています。 今回創作もしてみたくなりました。初体験なのでよろしくお願いいたします。

性別 女性
将来の夢 保険営業、文筆、心理学、この3つを統合したい。
座右の銘 念ずれば花開く

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波動鑑定士

16/11/15 コンテスト(テーマ):第122回 時空モノガタリ文学賞 【 美術館 】 コメント:0件 うたさん 閲覧数:513

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その美術館は海が見える丘にあった。正面玄関は麓からの長いエスカレーターの果て、眺望は素晴らしかった。しかし真の玄関は3fと呼ばれるシークレットの入り口だ。黒潮に守られた原初の森を長い時間をかけて、リムジンは進んだ。曲線を描く道路は時折二股に分かれ、一度でも間違えば、元の市街地や、近隣のn市に運ばれてしまう。しかもuターンのまったく効かない崖を幾つもくぐり、無事に出れるのは翌日の昼。捜索願いの出されるぎりぎりの時間を過ごす頃には、2度と3f入り口を探す気力は無くなる。だが今日リムジンは迷うことなく目的地にたどり着いた。むせかえるような香りの薔薇が絡まる鉄のゲイトが速やかに開く。運転手が後部座席のドアを開けると、中から現れたのはごく平凡な感じの女だった。女は懐かしげな遠い目をしてあたりを見回すと、慣れた足取りで重いガラス戸を押し、3fの受付に向かった。普段vipしか受け入れたことのない受付嬢の目が曇ったが、それは一瞬でかき消された。というのも奥から館長の内野が現れたからだ。
「ゆうくん、よく来てくれた。」
痩せギズで背が高く普段は気難しいことで有名な内野が、全幅の信頼を込めた声でその平凡な女に呼びかける。
「鑑定用の部屋を用意しているんだ。すぐ来てくれ。」

お茶を出される間もなく、鋼鉄のエレベーターに乗りこみ、ゆうが通されたのは、その美術館の心臓とも言える収納庫の横のちいさな部屋だった。やわらかい光と完璧な湿度。ゆうは左の薬指にはめられたシンプルなティファニーの指輪を外すと、黒い鑑定用の布の上の茶碗と向き合った。古代とも未来のものともわからぬ不思議な光沢を放つ象牙色の茶碗の中には、赤土と金泥が一緒に練り込まれたような色で描かれた太陽の紋章があった。
「これは、もしかして月の器の対の…」
ゆうがつぶやくと、内野は満面に笑みを浮かべ、
「さすがゆうくん。月の器のデータは既にお持ちのようだね。」
「レプリカなのですか?」
「さあ、それを君に聞きたくてね。」
「太陽の器と呼ばれるものは、歴史上何度も現れたけどすべてレプリカだった。しかも太陽の器に関わろうとする人たちは、その後波乱の人生を余儀なくされる。これは美術界の都市伝説を通り越して定説でしょう?タブーになぜ関わるのですか?」
ゆうは器と見つめ合うように顔を近づけながらも淡々と内野に告げた。だが内野は興奮を抑えきれない声で、含み笑いをしながら言った。
「ゆうくん、これがどこで見つかった思う?」
ゆうに一瞬雷に打たれたような衝撃が走った。
「もしかして…」
「そのもしかだよ。沖縄だ。某神社が困窮して、資産を手放した。地元のユタたちは泣き叫んだそうだよ。良くないことが起こるに違いないと。だがうい曲折を経ながらも、このてぃーだと呼ばれる器は、私をまっすぐに目指してきた。明後日から『月の器・特別展』が開催されるこの美術館をね。もう赤外線調査も済ませている。このてぃーだが月の器と同時期につくられ、同じ原料を練りこんだ紋章であることも判った。あとは君のお墨付きだけだよ。」
「月の器を観ることはできますか。」
ゆうが観念すると。内野はもちろんと深く何度も頷きながら、収蔵庫の奥に消え、やがて古い桐の箱を胸に抱えてきた。紺の紐をほどくと、まるで自身が宇宙を覗き込む神のように、丁寧に両手で月の器を取り出し、てぃーだの横に並べた。漆黒の窯変天目に似たその茶碗には、ところどころに蒼いガラス状の模様が星雲のように散らされ、器の底には、銀泥で月の紋章が描かれていた。2つが共鳴し始めたのがゆうにはわかった。打ち寄せてはまた引いてを繰り返す波動。目を閉じると男が骨を砕いているのが見えた。その骨は男の妹だった。戦いに巻き込まれて死んだ妹を永遠に器に閉じ込めるため。もう一度生まれ変わりいうものがあるならば、妹に会いたい。その器は王府に捧げられるものだった。王と王妃を太陽と月になぞらえ、古くから伝わる紋章を描く。男は妹を愛していた。それは永遠に告げられぬ愛であった。器が本物であることは揺るぎなかった。ゆうは静かに目をあけると、内野に尋ねた。
「もしてぃーだが、本物だったらどうなるのですか。」
「そうだね。内覧を経た後で、3fから海外のコレクターに渡ることになるね。この器はこの国の歴史を変える秘密を握る、存在してはいけない器。おかげでこの美術館も、3fも今後10年は運営可能だ。」
「じゃあ偽物だったら?」
「太陽の器の復元レプリカとして、月の器ととも過ごすことになる。」
永遠ともつかぬ沈黙の後、ゆうはきっぱりと言い放った。
「偽物です。」
内野は一瞬苦味虫を潰したような顔をしたが、しばらくすると腹を抱えて大笑いした。
「ゆうくん。君は対峙する物の本当の声を聞くことのできる波動鑑定士だった。すっかり忘れていたよ!」




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