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雲鈍さん

性別 男性
将来の夢
座右の銘 タフでなければ生きて行けない。 優しくなければ生きている資格がない

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捨て身の覚悟

16/11/13 コンテスト(テーマ):第121回 時空モノガタリ文学賞 【 捨てゼリフ 】 コメント:0件 雲鈍 閲覧数:384

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目の前の男が、俺に向けて殺意をふるう。それは明確な刃の形を為していて、確実に俺の身体を切り刻む。それだけでも悲劇だったが、さらにそれを色濃くしているのは、その男が俺の親友である点だった。

「おい」

俺らは奴隷だった。広大な農園で働かされていた。同期に入った俺と、こいつと、その妹だった。俺らは年が近く、兄弟のように育った。お互いを助け合い、励ましあいながら今日まで生きてきた。

最近、妹がパンを1つばかり食堂からくすねた。……といっても、残飯のようなパンで、捨てるのを待つばかりのパン屑だ。それを彼女は身寄りのない子供に分け与えた。

しかし、それがお金持ちのやつらには気に入らなかったらしい。
全身を鞭うちの刑に処されることになった。

そこで俺と親友は、助命のために立ち上がった。

贅沢と怠惰でぶくぶくに太った俺らの雇い主は、その油まみれの顔面をゆがめた。「それなら、私を楽しませてみせろ」と。


話は簡単だった。
俺と親友が殺し合いをする。
もし手を抜けば、妹を殺す。


……だくだくと、汗が流れる。
親友のナイフが俺の左腕を切り裂き、一筋の血が流れ落ちる。
「なあ」
とっくみあい、首をしめながら、俺の耳元で囁いた。
「俺はお前と同じくらい、妹のことを愛している」
首を絞められ、返事もできない。
「お前は、どうだ」
一瞬、拘束をほどかれ、俺は呼吸を整える。

「俺もそうだ」
「どうやら、俺の妹もそうらしい。お前のことを愛していると」

そして何を思ったか、ナイフの切っ先を、自分の首へと向けて――。

「やめろ、! 」
「妹をよろしく頼む」

おびただしい、出血。
友は首を切り裂いて。




卑怯だ、と俺は身体を抱えながら思う。
断れないじゃないか。
捨て台詞ってのはだいたいがカッコ悪いけれど。
こんな捨て台詞なんてないぜ。
こんなに、かっこいい捨て台詞なんて。……。


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