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吉岡 幸一さん

性別 男性
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【あまりにもフクロウな捨てゼリフ】

16/11/11 コンテスト(テーマ):第121回 時空モノガタリ文学賞 【 捨てゼリフ 】 コメント:2件 吉岡 幸一 閲覧数:852

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 深夜、救急急患センター入り口横の駐輪場で僕は煙草を吸っていた。
 もうこれで何本目だろうか。携帯灰皿はすでに吸い殻でいっぱいになっている。
吸い殻を押し込みながら、新しい煙草に火をつけていると、入り口の自動ドアがひらいた。
 看護師に背中を押されながら年配の男が出てきた。男はかなり酔っぱらっているようだった。ろれつが回っていなかったが「覚えてろ。訴えてやる」と、もがきながら犬のように吠えていた。
 そんな酔っ払いの捨て台詞に看護師は動じることもなかったようだ。腕を組むと、酔っ払いが門から出て遠ざかっていく姿を黙って確認していた。
 酔っ払いの姿が見えなくなると、すぐに看護師は僕のそばまでやってきた。
「煙草は体に毒ですよ。ほどほどにされてくださいね」
 そう言って、僕のつま先から頭までを舐めるように見て首を傾げた。どこか納得がいかないようだったが、それ以上とくに何も言うこともなかった。
「見事な捨て台詞でしたね」
 機嫌をとるように言ってみたが、看護師は軽く会釈しただけで、すぐに救急急患センターのなかへと戻っていった。
 看護師が怪しむのも無理はない。僕は患者でもないし、だれかの付き添いでもない。煙草を際限なく吸えるほど健康なのだから、救急急患センターにお世話になるような人には見えないに違いない。
 僕は待っていた。
 昨夜、仕事から帰ってきた僕は干していた洗濯物を取り込むためにベランダにでた。救急急患センターの隣に建つマンションの五階に暮らしていたので、意識しなくてもこの場所は目に入ってくる。普段は気にすることもないのだが、この日は偶然アレを見つけてしまった。
 アレとはフクロウのことである。駐車場は三方をケヤキの木に囲まれていた。センターの逆隣りにはオフィスビルの壁があって、その前に並ぶケヤキにフクロウはいたのだ。
 街中にフクロウがいるはずはない。いるとしたら、どこかで人に飼われていたフクロウのはずだ。逃げてきたのか捨てられたのか、そんなことはわからなかったが、僕はこのフクロウを捕まえようと思っていた。
 ネットで調べてみるとモリフクロウという種類のようだ。濃い茶色と白い毛が入り交じった三十センチ位の大きさで、目が大きくまんまるで可愛らしかった。
ケヤキの木には穴が空いていて、その中にフクロウはいた。昨夜見たときは穴から出て横の枝に止まっていたが、今日はなかなか穴から出てこなかった。僕は煙草を何本も吸いながらフクロウが出てくるのを待っていたのだ。
 待ちくたびれた僕は強攻策に打ってでた。バイクと自転車の間に寝かせていた百円ショップで買った虫取り網をひろうと、ケヤキの下まで行った。
 網を真っ直ぐに伸ばして木の穴を塞ごうとしたが届かなかった。飛び上がってもわずかに届かない。フクロウは穴から出て来ようとはしなかった。
「なにをしているんですか」
 先ほどの看護師がいつの間にか側に来ていた。また誰かを追い出した後なのだろうか。
「あ、いえ、あれを捕まえようと思って」
「なにかいるんですか…。鳥、フクロウなの」
「はい。近くで飼われていたんだと思うのですが、こんな街中じゃ、ネズミやカエルなんかも捕まえられないだろうし、そのうち弱って死んじゃうんじゃないかと思いまして」
「あら、捕まえてどこかの山の中にでも逃がしてあげるつもりですか」
「はい」と、頷くと看護師は「お優しいんですね」と、やわらかな声で答えた。
 網が届かないので、脅かして穴から出そうと思い、網の先で木を叩いたり木の根元を足で蹴ったりしたが、フクロウは逆に穴の奥に引っ込むばかりだった。
「ちょっと待ってください」と、言って看護師は救急急患センターのなかに戻ると、二段しかない小さなアルミ脚立を持ってきた。
 脚立を使うとどうにかフクロウの潜む穴まで網が届いた。届きはしたが、肝心のフクロウが穴から出て来ないのでやはり捕まえることはできない。
「このままずっと穴を塞いでいたら出てくるんじゃないですか」
 看護師は気楽にそう言ったが、朝になっても出てこなかったらどうするのだろう。
 考えていて、つい足もとがよろけてしまい、手から虫取り網が滑り落ちてしまった。その瞬間、フクロウは穴から飛び出し羽をくの字に広げ飛びたった。
「ホウ、ホウ、ホオウ」と、鳴きながら空中で一回勝ち誇ったように円を描くと、半月の見える方角に飛んでいった。
「おまえなんかに捕まるわけないだろう」
 きっとフクロウ語を翻訳するとこう言っているのだろう。
「まさかフクロウからも捨て台詞を聞くなんて思わなかったわ」
 愉快そうに看護師は言うと、手早く脚立をたたんで救急急患センターのなかへと戻っていった。
 僕は虫取り網を腋に挟んで、ポケットから煙草を取り出すと、何か気の利いた捨て台詞でも言いたい気分になった。


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このストーリーに関するコメント

16/12/13 光石七

拝読しました。
救急急患センターもフクロウも、冷静に考えれば日常からちょっと離れているものではあるのですが、自然に淡々と綴られる文章に溶け込んで、違和感なくすっと心に入ってきました。
捨て台詞の使い方がお見事です。
読後感も良く、自然と微笑んでしまいました。
素敵なお話をありがとうございます!

16/12/21 吉岡 幸一

光石七様
コメントをいただきありがとうございます。感謝いたします。

参考までに本作品は同コンテストに応募した「あまりにもありふれた捨てゼリフ」という作品と対をなしているものです。

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