1. トップページ
  2. いつか、捨てる日が来るまで

密家 圭さん

読んで下さる皆様ありがとうございます。 耽美派の綺麗な文体で幻想的なファンタジーを書けるようになりたいです。 ツイッターをやっているのですが友達が増えず放置気味なので、皆様どうぞ適当な気持ちで遊びに来てください。

性別 女性
将来の夢
座右の銘

投稿済みの作品

1

いつか、捨てる日が来るまで

16/11/09 コンテスト(テーマ):第121回 時空モノガタリ文学賞 【 捨てゼリフ 】 コメント:0件 密家 圭 閲覧数:540

この作品を評価する

同棲中に浮気されてただ出ていくなんて、惨めすぎる。だからせめて捨て台詞だけは美しくしたいと思った5分前。目の前の鏡を見て、呆然とした。
‥‥‥洋画の綺麗なヒロインみたいには出来なかった。真っ赤なルージュで鏡に書いた「別れましょう」の文字は、心霊番組の怨霊が吐く呪いの言葉みたいになってしまった。
失敗作が薄紅色になって排水溝へ流れていくのを眺めながら、何が駄目だったのか、これからどうしよう、と言葉だけが脳内をぐるぐる回り、「なかったことにしよう」という答で思考を停止させた。

職場で背表紙の字が少し汚いファイルがあるな、と思ってよくよく見たら自分が書いたものだった。たったひと言さえ綺麗に書けないから嫌われたのか、なんて思い出したら何故か腹が立ってきた5日後。未だ同棲中の家へ帰るなり、途中で終わらせていたボールペン字練習帳を引っ張り出してきて、あいうえおから順に練習した。

練習帳をひとしきり練習し、大学ノートも一冊丸々使いきった5週間後。電話横のメモ用紙に書いてみたら、挨拶状のお手本のように整った「別れましょう」が書けた。この美しい字なら、これだけを置いて後を濁さずに出ていける。

出ていこうと思った5ヶ月前。これからどんな別れの言葉を書いてもこれより美しくならないだろう。このたった1枚しかないメモ用紙を置いていって、美しい字が自分の手元を離れてしまうのは、ひどくもったいなく感じられる。

そうして5年たった今も、あのメモ用紙は大切に取っておいている。大事なものしか入れていない引き出しの奥に、指輪と一緒に。


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

ログイン