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朱緒さん

受験生。 ゆれやすい年頃だって自覚はあります。

性別 女性
将来の夢 小説家か学者
座右の銘 人間臭い人間でいいじゃないか

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ゆりかごエレベーター

12/10/21 コンテスト(テーマ):第十七回 時空モノガタリ文学賞【 エレベーター 】 コメント:2件 朱緒 閲覧数:1195

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 閉じ込められたと気がついたのは、もう本当に間抜けすぎるけれど、四階になってチーンと間の抜けた音がしたときだった。この扉ひとつ開け、ちょっと歩いてもうひとつ扉を開ければあったかい我が家が待っている状態なのに、扉は無表情にわたしの前に立ちはだかっている。
「ふむ」
 こういうときの対処法は、何も考えずに連絡用のボタンを押すことだった。管理人さんがいる時間だとかそういうことも一切考えずに、とりあえず、押すこと。勢いよくつきたてたわたしの指は、もういっそ痛そうなくらいに曲がった。
 ちょっと待って、なんでこんなに硬いの。
 そう、しいて言うなら小学校や中学校にあった消火器の、「強く押す」と記された防犯ベルを押すための窓のように、硬い。あ、いやあれは小学生でも強く押せば鳴ったんだから、たいした強度ではないんだろう。まるでわたしがぶち割ったかのようだがそれは若気の至りということで済ませておく。
 つまりどういうことかというと、この「強く押す」は、「さらに強く押す」ということだ。わたしの指を折るつもりだろうか。ぽきっと曲がった指を見て、管理人は思わず興奮するのだろうか。そんな変態ではないはずだ。いやそんな変態ではないと信じたい、というか願う。
 そのときになってようやく、防犯カメラの存在を思い出した。ふっと顔を上げて、電気の後ろにひっそりと存在を主張する黒い球形に手を上げてみた。それから扉を指差して首と一緒に腕ごと振る。「開きません」
 なんて間の抜けたことをやっていたらいきなり携帯電話が騒々しく鳴りたてた。うるさい、誰だ。いやこの小さな部屋にはわたししかいないんだから、わたしの携帯電話以外だったら逆に怖い。
 ポケットで震えるそれを引き出してふと画面を開くと、友人からメールが一見入っていた。マナーモードにする癖を放棄して以来、この携帯電話は大変うるさい。一度ならず二度までも地面にたたきつけた。わたしが悪いんじゃないこの白い携帯電話がうるさいのがいけない。
 メールを確認してほう、と息をつき、もう一度携帯電話の画面を見て、今が何時なのか思い当たった。すでに真夜中を越していた。つまり管理人はもう自宅に帰っているということだ。それはつまりつまり、わたしが救出される可能性が極端に低くなったということだ。そしてそれはつまりつまるところ。
「まさかのエレベーターがゆりかごですか」
 お酒だけはあるから死なないと思う。くぴ、と開けっ放しになっていたビールをあおる。もう面倒になって座り込んでしまおうか。どうせ誰も来ないんだし。
「……うー」
 どうせ誰も来ない。
 そう思ったとたん、じわりと視界がにじんだ。さっきまで親友をつき合わせて自棄酒をかっくらったのにもかかわらず、わたしの目はじわじわと水を捻出し始めていた。色気もくそもない表現だけれど、他に正しい言葉が思いつかない。零れ落ちるとかそんなきれいなものじゃなくて、もう乾いてしまいそうなほどの目から、無理やり涙を流そうとしているみたいなんだから、仕方がない。
「うー……」
 さっきからうなってばかりだ。どうしよう他の四階の住人に聞かれたら。というか朝一番に発見されたとき泣いたあとがあったら恥ずかしい。豚の鼻に飛び込みたくなる。何か違うけどどうでもいい。
 六年間付き合って三十二にもなって、こちとら結婚するのかななんて考えてる矢先に振られて、そんでもって自棄酒飲みながら泣きはらした女なんて、きっと誰も見たくないだろう。
 いっそ電話してやろうか。あんたに振られたからエレベーターに閉じ込められたって。もちろんそんなの酔っ払いのやることだ、わたしという人間がやることじゃない。でもイタ電でもしてやりたいくらいに寂しかった。誰でもいいから声が聞きたかった。わたし以外の誰かの声。変態かもしれない管理人さんでもこのさいかまわない。できればイケメンがいいが。
「さみしいよー」
 ずるずるとエレベーターの床に座り込む。ようやく秋めいてきた今日だったから、エレベーターの中はそんなに寒くもないし、暑くもなくて居心地は悪くなかった。きっとこの手に持っているビールを二本ほど飲み終えたら、うっかり寝てしまえそうなほど。明日救出されたときによだれを垂らしていたり、泣いていたり元彼の名前を呼んじゃったりしないか心配だけど、まあ寝るのも悪くはないと思う。
 それで思い出すのが元彼の腕っていうのが切ない。抱きしめられてごろごろしたときが懐かしい。この大きな存在はきっとわたしを裏切らないと、全幅の信頼を寄せていたのに。今は彼の腕ではなくて、エレベーターがゆりかごだ。
 うとうとと瞼が閉じていく。ああもう畜生。
「ばかやろう」
 目を覚ましたとき、わたしを助け出すのがあんたであって欲しかった。


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このストーリーに関するコメント

12/10/22 かめかめ

日本語表現で気になったとこを突っ込みます。
「もういっそ痛そうなくらいに」自分の指のことなのになぜこんな客観視した表現なのか、不明。創作上の工夫でしたら、ごめんなさい。

「うるさい、誰だ。」この文は、電話かけてきたのは誰だ!?と言う誰何かと思いきや「誰の携帯がなっているんだ!?でありましたね。ならば「うるさい、誰の電話だ!?」等であって欲しかった。

「ふと画面を開くと」ふと、と言うのは「何とはなしに、ちょっとした拍子に」行う時につく言葉。明らかに携帯画面を開く意思がある時には使いません。

「一見入っていた」あ、これは誤字か。今気付きました。失礼。

と、中途で唐突に開けっ放しのビールが出てくるのも困った。酔っ払いでさらに缶ビール片手に歩いてきた女だということを冒頭で知らせて欲しかった。

以上です。

12/11/09 朱緒

>かめかめさん
的確な突っ込みありがとうございます!
もう少し言葉の意味を考えて書くべきですね、精進します!
次回はきちんと考えて書こうと思います。
ありがとうございました!

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