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ポテトチップスさん

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1943年の雪深い村にあった美術館

16/11/07 コンテスト(テーマ):第122回 時空モノガタリ文学賞 【 美術館 】 コメント:0件 ポテトチップス 閲覧数:378

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 昨夜から降りだした大雪は村全体をさらに雪化粧にし、この雪深い村に暮らす多くの者が、ため息を吐きながら朝から雪かきをしていた。
 大吉が家の前の雪かきをしていると、教科書などを風呂敷に包み、それを背中に背負って歩く、自分とさほど年の違わない少年が、近くの国民学校高等科に通うため、前の道を歩いて行く。
 大吉はその後姿を、羨ましげな気持ちで見つめた。
「早く雪かき終わらせ!」
 呂律の回らない口調で、父親の雅文が家の窓を開けて怒鳴った。
 大吉は急いで雪かきを終わらせると家の中に入り、病弱な母が作ってくれた麦飯と味噌汁を食べた。
 朝飯を食べ終えると、村の大地主の家に走って向かい、そこで小銭を得るために家の掃除や雪かきの仕事をした。
 夕方前に仕事が終わると帰路につくのだが、大吉はいつも寄り道する場所があった。
『田中蒸気機関車美術館』と看板がたてられている美術館は、美術館とは呼べないような粗末な建物だった。だが、建物の中には国産の蒸気機関車が3両、常時展示されている。
 村には蒸気機関車など走っていないので、展示されている蒸気機関車は大吉の心を弾ませた。
「おっちゃん、また観にきた」
「今日も、無銭入場か?」
「うん。だって金無いもん」
「今度、お父さんに入場料金もらってきてな」
「うち、貧乏だから・・・・・・」
 短髪に白髪が目立つ館長の田中は、大吉の坊主頭を撫でながら、
「なら、出世払いだ」と言って、笑った。
「出世払いって何?」
「大人になって偉くなったら、払ってくれってことだ」
 田中は、また豪快に笑った。大吉もよく分からなかったが、つられて笑った。
 建物の中に入ると、C53形・C54形・D51形が展示されている。その黒光りする大きな蒸気機関車に、大吉は毎回見惚れるのであった。
 ここに来るたびに、大きくなったら蒸気機関車の設計者になりたいと、大吉はいつも思った。
 夜、暗い豆電球の下で母の千代と大吉は、張り合わせた扇子紙の間へ骨を入れる内職をしていた。千代の隣では、父の雅文が酒によって鼾をかいて寝ている。
 内職の収入は月28円になったが、それはすべて雅文の酒代に消えた。
 雅文は酒の飲みすぎで腎臓と肝臓を悪くし、徴兵検査で丁種となり兵役を免除されたが、周りの家からは非国民だと揶揄され、村八分のような扱いを受けていた。
 千代が何度か大きく咳き込んだ。
「お母さん、大丈夫?」
「大丈夫」
 雅文が寝言を言いながら、歯軋りをする。囲炉裏の中の燃え木が、パチッと音を立てた。 
「高等科に通いたいんじゃないの?」
 千代が内職する手を休めて言った。
 大吉は、なんて返答すればいいのか迷った。高等科に自分も通いたいのが本心だったが、学校に通えば今以上に一家は貧乏になる。
「行きたくない」
「そう・・・・・・」
 千代が発した、『そう・・・・・・』と言う言葉が、何度も頭の中で繰り返し響いた。涙が出そうになるのを必死に堪え、大吉は早く明日になればいいのにと思った。明日、蒸気機関車を観れば元気が湧いてくるから・・・・・・。
 翌日、大地主の家での仕事が終わり、蒸気機関車が展示されている美術館に行くと、3両あったはずの蒸気機関車が、D51形の1両だけの展示になっていた。
「おう、坊主。今日も来たか」
「おっちゃん、他の2両はどうしたの?」
「うん、いろいろあるんだ・・・・・・」
 いつも笑っているおっちゃんの元気の無さに、これ以上は聞かないほうがいいと、直感で大吉は思った。
「蒸気機関車に乗ってみてもいいぞ」
「えっ! 乗ってもいいの?」
「ああ」
 通常は観るだけで、乗ることは許されていないのだが、この日は乗ることを許してくれた。大吉は、何度も降りたり乗ったりを繰り返した。

 翌日の夕方前、この日も蒸気機関車に乗せてくれるかもしれないと思い、胸を弾ませて美術館に向かうと、昨日まではあったD51形蒸気機関車まで無くなっていた。
 館長の田中が、大吉の肩を後ろから叩いた。
「おっちゃん、なんで蒸気機関車ないの?」
「お国のためだ。金属類回収令がお国から公布されたからしかたがない」
「いつになったら、また展示されるの?」
 田中は自分の頭を撫でると、
「おっちゃんな、明日から召集されるんだ。この村に生きて帰ってこれるか分からない」
「なんで? 絶対に行かなくちゃいけないの?」
「ああ」
 大吉は涙が止まらなかった。
「蒸気機関車は好きか?」
「うん」
「坊主は、うちの蒸気機関車美術館の常連客だ。よって感謝状を贈る」
 田中はそう言って、画用紙に書いた感謝状を大吉に手渡した。
 その日の帰り道、おっちゃんが生きて帰って来ることを願い、いつか自分が設計した蒸気機関車をあの粗末な建物の美術館に展示しようと大吉は心に決めた。
 


 
 


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