1. トップページ
  2. 野菜には、血の気を抑える効果

にぽっくめいきんぐさん

著作権とスマホアプリとカラオケに興味あります(雑食)。ゆるく楽しく生きてます。ありがとうございます。

性別 男性
将来の夢 興味を持ったものに躊躇なくうちこめるような、自由な時間が欲しいです。知らないものを知れるのが楽しいですし。
座右の銘 ざっくりだもの by まつお

投稿済みの作品

1

野菜には、血の気を抑える効果

16/11/07 コンテスト(テーマ):第120回 時空モノガタリ文学賞 【 平和 】 コメント:0件 にぽっくめいきんぐ 閲覧数:439

この作品を評価する

「たかいたかーい!」
「キャハハハ!」
 宙を舞う黄色いパジャマ姿の赤ん坊が落下してくる。11月だというのに半袖の、俺の腕に。

「たかいたかーい!」
「キャハハハ!」
 再び舞う息子。パンダ柄のよだれかけのマジックテープが外れ、畳に落ちる。息子の方は俺が受け止める。

「……意識が!」
 かつて存在した駄洒落を言った瞬間、俺の体の中で、スイッチが入った感覚があった。
 そうか、意識高い系もダメなのか。人より秀でようとする思想が混入しているから。

 今から24時間後に、俺がこの世から居なくなる事が、たった今決まった。
 そして、俺の体液に浸透しているAIナノ粉末が、俺の脳裏に走馬灯を見せ始めた。

 ……

 泣きじゃくる俺がいる。人工知能が第3次ブームになった2016年に生まれた。その時の俺はれっきとした人間だった……はずだ。いや、人間とAIとの境目とかはどうでも良い。

 暗がりの中、電気代節約の為に4本中2本しか刺さっていない蛍光灯に照らされた、リノリウムの床。ビニールスリッパの音。幼稚園時代は病弱で、殆どを病院で過ごした。

 どぶ川でおぼれる俺の絶望と、泥水と真っ暗と息苦しさと、どぶに沈んだり水面から頭を出したりを繰り返す小学2年の俺。父さんが伸ばした棒につかまって、一命を取りとめたんだっけ。

 脳裏の走馬灯が俺視点と他者視点のまぜこぜになっているのは、俺の父さんが、俺の体の中で体液代わりになっているからだ。人間の知能をデジタル化して保存したAIチップは凄まじい小型化を遂げ、粉末化してオブラートに包んで飲んだり、皮下注射できるようもなった。父さんが開発した技術だった。

 その技術で父さんがノーベル賞を受賞したのが、俺が14歳の時。
 今の俺と同様に、半袖短パンの暑がりオヤジルックで受賞式に父さんは出ようとして、母さんからめちゃめちゃに怒られている図。俺の脳裏にある父さんの絵は、そこで止まっている。

 受賞式のすぐ後に、父さんは行方不明になったから。
「どこぞの組織に消された」とかいう謎の噂話が、ゴシップ誌やらSNSやらを当時駆け回ったが、人の噂も75日だ。

 政府の方から来ましたと名乗る黒服どもに、父さんの遺品はあらかた持って行かれたが、唯一残ったのが、俺の服のポッケにこっそり忍ばせてあった、緑の粉末が入った小さい透明の袋だった。

 俺を襲う、とある感情に耐えるための、左手の爪が左の手のひらに食い込む感覚と、「……青汁?」と言う俺の間の抜けた感想。

 あとは、俺視点の走馬灯のみが続き、青汁っぽい粉末が、実は父さんの知能そのものだと理解できた、「俺の」研究室での、とある1コマまで、早送りのごとく進んだ。
 
 俺の、というか、今や全世界の人間の体に組み込まれたAIナノ粉末は、既に人体の主要な機能を支配しており、「戦い」「競争」などの意識や行動に反応して、その機能をストップする。

 政府とマスコミは、父さんが開発した技術の平和利用だと、盛んに喧伝してたっけ。

 AIナノ粉末の機能は、人間を無気力にした。
 生産性は、機械としてのAIが人の作業を代替してくれたので、むしろ増大した。
 人間の生殖は無くなった。性欲はVR技術で処理できるようになったから、美女を取り合ってイケメン同士が争うドラマなんかも、とっくに無くなった。そんなドラマを理解できるのは、今や俺だけ。だって、AIナノ粉末の他に、父さんの、青汁みたいなナノ粉末も、俺は摂取したから。

 生殖の代わりに、男女の体から細胞片を取り出し、バイオテクノロジーで新しい人間(?)を作る。野菜の株分けみたいな感覚だろうか?

 効率的で、争いの無い、幸せが保証された世界。
 邪な「競争意識」とかを持たなければ。

 この子の母親として細胞片を提供した女性は、こないだ死んだ。このご時世に小説なんぞ書こうとしたらしい。AIに任せておけばいいのに。承認欲求の先にある、優越感情という地雷を踏んでしまったんだ。

 俺があと23時間半後にいなくなっても、半袖の腕に抱かれたままの一人息子は、何不自由なく生きていける。とってもいい時代だ。後顧の憂いが無くていい。

 いまだにキャハハハと笑っている息子。その黄色いパジャマのポケットに、俺は緑色の粉末が入った透明の袋を捻じ込んだ。俺のスイッチが入ってしまった時用に、準備してたんだ。

 AIナノ粉末ではない、ケール100%の粉末。つまり、青汁そのもの。

 健康に生きろと、願いを込めて。

<了>


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

ログイン