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裕福な少年

12/10/20 コンテスト(テーマ):第十七回 時空モノガタリ文学賞【 エレベーター 】 コメント:1件 ポテトチップス 閲覧数:1653

時空モノガタリからの選評

最終選考

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マンション管理人室の電話が鳴った。
コーヒーを飲もうと薬缶に火をかけていた黒津庄治は、3回目の呼び出し音で受話器をとった。
もうすぐ11月に入ろうとしている今の時期は、寒さが身にしみる。
長年、九州で暮らしていた黒津にとって、この時期の東京の寒さはどうにも体が適応できない。
おかげて先週から体調を崩し、今も微熱がある。
54歳の黒津は、3ヶ月前の8月の半ばに東京に上京して来た。
妻と大学生の1人娘は、九州の自宅で暮らしている。
30年近く勤めた工場が倒産したのは、今年の4月だ。地元で再就職先を探したが、年齢のため見つけることが出来なかった。
妻と大学生の娘を養育するため、東京に職を探しに上京したのだ。
なんとか、マンションの管理人の仕事を見つけることができた。
24時間、管理人が常駐するこのマンションは、港区の台場に建つ超高層マンションだ。
今週の黒津は、夜の10時から翌朝の7時までの勤務となっていた。

「はい、管理人室です」
「もしもし! 1205号室の若林ですけど、今、エレベーターに乗ろうとしたら、猫の死骸があるんです! どういうこと!」
「今すぐ、確認します」
受話器を置いた黒津は、軍手とゴミ袋を持って急いで管理人室を出ようと扉を出た後、薬缶に火をかけていたことを思いだし、薬缶の火を消しエレベーターに走った。
猫の死骸がエレベーターに放置される事件は、今月に入って3件目だった。
この事件のことは、黒津が勤務するマンション管理会社の本部に連絡はしてあったが、会社の指示で警察には通報しないことになっていた。
なぜなら、このマンションに対する悪いイメージがついてしまうことを、心配してのことからだった。
このマンションには防犯カメラが装備されているが、1階のエントラスだけにだった。
エレベーター前に着いた黒津はボタンを押し、12階に上がっているエレベーターを1階に下ろした。
1階に下りたエレベーターの扉が開くと、そこには猫の死骸が放置されていた。
他の住人に知られないように、急いで軍手をはめた手で猫の死骸をゴミ袋に入れていると、隣のもう一基のエレベーターの扉が開き、中から小学生の少年が降りてきた。
少年は黒津が行なっている光景を一瞥した後、夜中の11時過ぎだというのに、マンションの外に出て行った。
マンションの管理会社の本部では、この少年を疑っていた。
今回もそうだが1回目と2回目の事件の時も、別の管理人が猫の死骸を処理している時に、この少年が1階に下りて来て、その処理する光景を一瞥しているからだった。
この少年は両親と、最上階の2802号室に住んでいた。
両親は共働きで、二人とも帰宅するのは深夜1時過ぎが通例だった。

3日後の昼過ぎ、短い睡眠をとった後、黒津は日本橋にある管理会社の本部に電車を使って向かった。
今日は、月に1度の給料日だからだった。
会社は、銀行振り込みではなく手渡しで毎回給料を渡す。
日本橋に建つ6階建ての雑居ビルの一室のドアをノックして中に入った。
「お疲れ様です、こんにちは」
「黒津さん、お疲れ様です」事務員の長谷川智子が言った。
「お給料を受け取りに来ました」
「今、社長がいないの。でも、お給料を社長から預かってるからお渡ししますね」
そう言って、長谷川智子は鍵のかかった引き出しから給料袋を取り出した。
黒津が勤務するこのマンションの管理会社は、社員はたったの2人だけで、あとは黒津と同じ中高年のパートのマンション管理人が15名程在籍していた。
「はい、お給料です。中を確認した後、ハンコを押して下さい」
黒津は茶封筒の給料袋を開け、中を確認した。
「はい、確かに22万円頂きました」
受領のハンコを押していると、
「また3日前に、エレベーターに猫の死骸が放置されていたらしわね」と、長谷川智子が言った。
「うん」
「やっぱり、社長が疑っている最上階に住む少年なの?」
「おそらくそうだろうね」
「警察に通報した方がいいと思うのよね私は…」
給料を受け取って会社を出た黒津は近くの郵便局に入り、現金書留で九州の自宅に15万円を送金した。
今しがた貰った給料袋の中には7万円しか残っていない。
この7万円で、今月を過ごさなくてはいけない。

夜になり、マンションの管理人室でコーヒーを啜りながら新聞を読んでいると、窓がノックされた。
顔を上げると、最上階に住む少年だった。
窓を開け、「どうしました?」
「最近、猫の死骸がエレベーターに置かれていること多いね」
「本当ですね」
「一体、誰があんな酷いことやるんだろうね」
「……」
「ちゃんと見張っててよ、管理人さん」
「はい」
一瞬、不敵な笑みを浮かばせて少年はエレベーターに向かった。
生活がかかっている黒津は奥歯を噛み締めながら、また新聞に目を落とした。

終わり


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このストーリーに関するコメント

12/10/22 かめかめ

この作品は「終わり」ではなく「続く」だと思いますけど。

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