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あずみの白馬さん

成人済 アイコンは天乃ゆうりさん作成(無断転載を禁じます) 自分なりの優しい世界観を出せるように頑張ります。 好きな作家は飯田雪子先生です。若輩者ですが、よろしくお願いします。 Twitter:@Hakuba_Azumino

性別 男性
将来の夢 旅立つときには、ひとりでも多くの人に見送られたい。
座右の銘 「これでいいのだ」

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顧問の先生、助けたい!

16/11/06 コンテスト(テーマ):第121回 時空モノガタリ文学賞 【 捨てゼリフ 】 コメント:2件 あずみの白馬 閲覧数:837

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「私、やめます!」
 西崎みはるはビデオに目をやりながら、一年前の捨てゼリフを思い出していた。

 長野県北部にある安曇野高校、秋の文化祭を終えて、木々が真っ赤に色づいている。
 新聞部部長のみはると、副部長の白井康永は、体育館で行われた演劇のビデオを見ながら記事を書いている。
 生徒たちの熱演を見ながら「これを見ると、思い出すな……」と、みはるは康永に思い出話をはじめた。

 ***

 みはるは高校に入ると、演劇部に入部していた。毎日ランニングの後に発声練習、さらには筋トレと、まるで運動部のような毎日だった。
 苦しい日々だったが、アラサー女子の水上先生が「大丈夫?」とよく声をかけてくれた。
 学校の日はもちろん、土日夏休みも稽古と、休みの無い日々が続いていた。そんな中、水上先生も休まずに生徒を見てくれていた。みはるは何かと声をかけてくれるのがうれしくて、がんばっていたのだが……。

 ある日、先生が過労で倒れてしまった。演劇部には先生から練習をつづけるように連絡があったが、みはるは気が気じゃない。
 お見舞いに行こうと部員に提案したところ、代表者が行くことになり、みはる含め3名が病院へ向かった。

「みんなごめんね。しばらく休めば大丈夫だから」
 あくまで気丈に振る舞う先生だった。しかしそのくぼんだ顔を見ると、みはるの気持ちは落ち込んだ。

 みはるは、学校問題などを扱ったサイトなどを見ると、部活や校内行事に追われ、過労死ラインを超えて働かなければならない先生たちの実像が映し出されていた。それを読むと部活を何のためにやっているのかわからなくなり、稽古に身が入らなくなってしまった。

「そんなことじゃ、先生に申し訳が立たないだろう!」
 と、先輩に注意を受けることが増えた。しかし、
「(みんな先生のために頑張るって言うけど、本当にそのためになってるのかな)」と、逆に疑問が募り、ついには演劇部を辞めてしまった。

 みはるは「次の手」を思いついた。当時新聞部は、部員が無く活動休止状態だった。ここに目を付けた彼女は、すぐに入部届を担任の先生に提出し、活動再開を宣言した。

 数日後の新聞部部室。みはるが一人、パソコンに向かっている。
「時間外の仕事は限界を超え、ついに水上先生は倒れてしまった……と」
 授業の他に部活の顧問、学校行事に問題のある生徒の対応などなど、疲れ切ってる先生の実態をみんなに見てもらいたかった。

 夜8時近くまでかかってようやく新聞が出来上がった。
「あとは印刷するだけ。すぐ掲示板に貼りに行こう」
 みはるは印刷ボタンに手をかけた、その時!

「ちょっと、それ待って!」
 ストップをかけられて振り返ると、そこにいたのは……
「水上先生!? どうして!?」
「挨拶が遅くなってごめんね。あなたが演劇部やめて新聞部を再開したって聞いて、顧問を兼任することにしたの。それより西崎さん、それは何?」
「これは、先生の為に書いたんです!」
 記事には水上先生が入院した経緯や、学校への攻撃とも取れる内容が書かれていた。
「西崎さん、ありがとう、でも……そのまま出すのはやめて」
「なんでですか?」
「私は好きでやって来たことだし、支えてくれてる人もいるから大丈夫」
「そうやって倒れたのは先生じゃない! 他にもたくさん仕事あるのに頑張り過ぎだし、やっぱり納得出来ません!」
「でも、攻撃とか入れちゃうのは良くないよ」
「なんで先生はそうなんですか! 苦しんでるのを見るのは嫌なんです!」
「西崎さん……」
 先生は隣の席に座ると、みはるの両手を握りしめて静かに諭しはじめた。
「気持ちはとても嬉しいけど、このままだとあなたも立場悪くなっちゃうよ」
「だけど!」
 かたくなな、みはるに先生は一計を講じた。
「それなら、私の記事じゃ無く、一般論として書き直しましょう。問題提起ならそれでいいと思うの」
「うん……」

 ***

「それで、その後どうなったんですか?」
「少しは変わったみたい。生徒の自主練習には、必ずしも顧問がつかなくてもよくなったみたいよ」
 部室のドアが開いて、顧問の近藤先生が入って来た。
「こんにちは、お疲れ様」
「あ、先生どうも。さっきまで前の顧問の話をしてまして」
「前の? 顧問はずっと私だけど?」
「え? 去年は水上先生って聞いたけど?」
「ああ、私、結婚して姓が変わったのよ」
 康永が驚きながら言葉を返した。
「そうだったんですか! ところで先輩から聞きましたけど、先生って大変なんですね」
「本当に、ね。西崎さんってたまに暴走するから食い止めるの大変だったのよ」
「先生ひどいっ!」
 みはるはそう言いながらも、先生がいてくれたおかげで落ち着きが出て来た自分に気付き、改めて恩返しがしたいと思ったのだった。


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このストーリーに関するコメント

16/11/11 冬垣ひなた

あずみの白馬さん、拝読しました。

このシリーズは素敵です。今回はみはるさんが新聞部に入るまでのお話ですね。顧問の過労という難しい問題に向き合う高校生、彼女の将来は報道関係なのでしょうか。何だかとても気になります。優しく温かい人間関係が胸にしみました。ありがとうございます。

16/11/13 あずみの白馬

> 冬垣ひなた さま
ありがとうございます。

みはるちゃんは、最初から報道志望だった、と言うより、生きて行く過程で報道志望になっていく感じです。
義理堅い人なので、こういう感じですが……、これからもよろしくお願いします。

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