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浅月庵さん

笑えるでも泣けるでも考えさせられるでも何でもいいから、面白い小説を書きたい。
性別 | 男性 |
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将来の夢 | |
座右の銘 |
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このストーリーに関するコメント
16/11/05 日向 葵
拝読致しました。
キミーの転校でもう会えなくなる場面での「てめぇコラ! 次会ったときはぶっ飛ばすからな。覚えてろよ!!」という捨て台詞が優しさに満ち溢れて、上手いなと思いました。
よく聞く捨て台詞ですが、従来のものとは含んでいる意味が真逆の台詞に感心いたしました(^^)
16/11/05 浅月庵
向日 葵様
さっそくご感想ありがとうございます。
捨て台詞って、格好悪いものがほとんどだと思うので、どうにか意味合いが変わるような話を考えてみました。
その部分へコメントいただけてとても嬉しいです!
16/11/06 待井小雨
拝読させていただきました。
「捨て台詞」というテーマながら、心暖まるストーリーで読後感が良かったです。
主人公の捨て台詞から優しさを感じ、ふと微笑んでしまいました。
素敵なお話をありがとうございました。
16/11/06 浅月庵
待井小雨様
ご感想ありがとうございます。
個人的にとても難しいテーマで、暗い話やコメディタッチに寄ってしまいそうだったので、どうにか展開を優しい話にできるよう心がけました!
自分への周りからの印象は、なかなか覆すことが難しい。
人を傷つけることしか興味のない、鬼のような漢。それが俺のキャラ。
本当は学校帰りに仲間とお茶したり、カラオケで遊んだり、そういう青春の過ごし方を求めていたんだ。
ーーそれなのに俺は、今日も人をぶん殴ってる。
キミーと名乗る華奢な男。こいつが俺に喧嘩を吹っかけてくる頻度が一番高い。
“僕のこと覚えてくださいね! また来ます”
いつも同じ台詞を吐き、笑顔で去っていく、変わった奴だ。
だけど、今日のキミーの言葉はいつもと違った。
「これで最後ですけど、僕のこと覚えていてくださいね!」
俺は意味が理解できず、首を傾げる。
「親の都合で違う町に引っ越すらしいっすよ」スドウが俺に耳打ちをする。
「……」
キミーは弱いくせに、何度も俺に喧嘩を挑んできた。
だが、それも今日で終わりか。
「でも、最後までキミーの願いを聞き入れないなんて、やっぱアラタさんは鬼ですね」
「あっ?」
「いや、冗談っすよ!」
俺がスドウに詰め寄るもんだから、周りの仲間たちも顔を強張らせる。
「あいつの願いってなんだよ」
「……サ」
「え?」
「あいつ、ずっとアラタさんのサイン欲しがってたじゃないですか」
……そんなの初めて知ったぞ。
てか、あいつって俺と喧嘩するために来てたんじゃないのかよ。
「サインとか馬鹿じゃねぇの」
「キミーのやつ、本気でアラタさんの強さに憧れてましたよ。だけどアラタさんが取り合わないから……」
俺への用事なんて、腕っぷしの強さを確かめる以外、存在しないと思うだろ。
「ちょっと待て」
俺はキミーを呼び止める。
「はい。なんですか」
「紙とペン出せコラ」
「えっ?」
「いいから早く」
「はい!」
元気よく返事をしたキミーはズボンのウェスト部分に挟んでいた色紙を取り出す。だからいつも俺の拳を腹に食らってもケロッとしてやがったのか。
俺のパンチで歪んでしまった色紙に、ペンを走らせる。周りの仲間たちも俺の行動が意外だったようでざわついている。
「ほらよ」
「ありがとうございます! ぼくずっとアラタさんのファンだったので、とっても嬉しいです!!」
「ふーん」
悪いけどこんな俺は偽物だぞ。本当は周りと仲良くしたいのにいい出せず、次第に仲間から恐れられ、そんなことをいつまでもクヨクヨ悩むメンタル弱者だ。
「それでは僕は失礼……」
「待てよ」
「はい?」
「お前さ、いつも俺に手出さずに帰るけど、舐めてんの?」
「え?」
「一発殴れよ」
「そんなことできるわけ、」
「早くしろ!」
「わ、わかりました!」
そういってキミーは、俺の腹を全力で殴りつける。正直、まったく痛くない。だけど俺は苦しそうに呻き声を出し、膝をつく。
驚いたキミーはその場に立ち尽くすので、俺は早く行けと促すと、キミーは背を向ける。
「てめぇコラ! 次会ったときはぶっ飛ばすからな。覚えてろよ!!」
いつもキミーが俺に吐くお決まりの台詞を、今度は俺が負け犬っぽくいってやる。
……ファンとか正直、意味わからんけど。
でも、今まで俺に好意を持ってくれていたのに、悪かったな。最後くらいは気持ちいい思いをして帰ればいい。
「はい! ぼく、アラタさんのことずっと忘れません」
おいおい、振り向くなよ。俺の茶番が余計恥ずかしいものになるだろ。
だけどキミーは今まで見たどんな表情よりも嬉しそうなので、俺はなにもいえず、小さくなっていく姿を見送ることしかできなかった。
「アラタさん、マジ感激したっす!」
「そんな優しい一面もあったなんて意外でした!」
「器が広いですね!」
俺は仲間たちに囲まれる。
このくらいお安い御用だ。サインでも、負けるフリでもなんでもやるさ。いつの間にか喧嘩で勝つことが当たり前のキャラになってしまっていたけど、本当はそんなことどうだっていい。プライドなんて皆が思ってるより、大して持ち合わせていないんだ。
……だからこそここで、何度追い返されても向かってきたキミーのように、俺も一歩踏み出してみるか。
「あのさ、」
「はい、なんでしょう!」
俺の次の言葉を待ちわび、仲間たちが目を輝かせる。
「みんなでファミレスに、メシでも食いに行くか」
俺は恥ずかしさを抑えつけるように頭を掻きながらいうと、みんな顔を見合わせた後に、よっしゃー!と喜ぶ。
なんだよ、こんな簡単なことだったのか。お前らの笑顔を見るのは。
これからこいつらが、俺の喧嘩仲間や取り巻きなんかではなく“友だち”になってくれるのかは俺次第なんだけど……ありがとな。
しつこいくらいに“覚えていてくださいね”なんて言葉を浴びせられたけどーー。
絶対忘れることないわ。今日のこと。お前のこと。