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待井小雨さん

待井久仁子というペンネームで「小説&まんが投稿屋」というサイトで、童話やホラーやよくわからない物語を投稿しています。 ご興味を持っていただけたら、よろしくお願い致します。

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平和の小部屋

16/11/04 コンテスト(テーマ):第120回 時空モノガタリ文学賞 【 平和 】 コメント:11件 待井小雨 閲覧数:976

時空モノガタリからの選評

圧倒的な力で息子を責める父親に、無力な子供が立ち向かった結果、崩壊する世界。理不尽な神と人間との関係を象徴するような世界観にインパクトがありました。前半は普通の(と言ったら変ですが)親子の虐待の話かと思いきや、後半に壮大な世界観につながっていくダイナミクスが非凡な印象を与えます。急激な転調にもかかわらず唐突な感じがしないのは、前半の親子関係の中に神と人間の歪んだ関係がしっかりと重ねられているからでしょう。神というものがこの世界を作り出したというならばなぜこの世は不完全なのかという根本的な問いは、世界が平和にならない限り(おそらくならないでしょうが)、これからも投げかけられ続けるのでしょう。神と人間という普遍的な問題を、身近な虐待の問題に重ねたところが新鮮でしたし、文章も淀みなく力強さがあると思います。

時空モノガタリK

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 学校から家に帰るなり、酒で顔を赤くした父親にいつもの小部屋に放り込まれた。階段の上、小窓とテレビしかない部屋だ。無抵抗のまま縄で縛られ、足がつかないよう吊るされる。
 父は僕の顔近くで酒臭い息をいっぱいに吐きながら、ものすごい剣幕で怒鳴りたてた。
「ニュースを見てみろ!」
 父の太い指が指すテレビの中では、日常の一コマのように事故や事件のニュースが流れていた。
「これは何のニュースだ」
「……殺人事件」
 チャンネルを変え「これは」と同じ問いをする。
「海外の、紛争」
 感情を乗せないように努めたが、頭を引っぱたかれて反射的に父を睨んでしまう。
「反抗的な態度を取るな! お前の悪い心根が世の中を平和から遠ざけるんだ!」
 怒鳴り声と共に汚い唾が飛ぶ。うるさい。耳を塞ぎたくとも手は縄に縛りこまれている。目を強く瞑った。
 もういつの頃からだったか、父は悪いニュースを見つけてはそれを理由に僕に暴力を振るった。世界が平和にならないのは僕のせいだと憂さ晴らしの種にする。そんな事、僕にはまるで無関係だというのに。
「今日も人が死んだんだぞ! 争いがなくならないはお前のせいだ!」
 そうして僕をサンドバッグのように殴りつけてくる。僕は謝罪を唱えながら、早く追われと時間の過ぎるのを待っている。
 いつまで経っても流れ続けるニュースは悪いものばかりで、鬱憤の溜まっている父は「これもお前のせいだ」「あの事件もお前が悪いんだ」と言って僕を責めた。終いにはぜぇぜぇと肩で息をして憎々しく、けれど何処か消沈したように呻いた。
「俺はこんなに頑張ってるのに、お前の心持ちが良くないせいで台無しだ……!」
 どんな仕事をしているのだかもよく知らない。その仕事の憂さを僕にぶつけるばかりだ。
 最後に蹴りを入れられ、そこで疲れ果てて父は眠った。
 交通事故、内乱、殺人、裏切り、等々、等々……見飽きるほどに毎日見させられている。自由を求めて戦う民衆。親が子供を殺したり、子供が親を殺したり。
 ――ある頃を境に、成長する子供は親の力を超えてそれまでの関係を覆すものだと学んでいた。
 僕は小さなナイフをポケットから出し、縄を切る。テレビの裏に隠しておいた大きめのナイフを手に取って、贅肉だらけの体を前に立ち尽くす。
 ああーー今こそ逆転の時なのだと知る。

 朝。部屋に立つ僕を見て、起きたばかりの父は激昂した。
「どこまで反抗的な奴だ!」
 平手を頬に喰らう。
「俺は神なんだ。お前を導いてやってるんだ。なのにいつまで経っても平和にならない! お前が反抗的で恨みがましいから争いが無くならない!」
 そんなの僕のせいじゃない、と考えながらごめんなさい、と呟く。……そして、ナイフを脂肪のついた肉体に突き刺した。
「……世界の平和なんて知ったことか」
 誰が苦しもうが悲しもうが関係ない。僕に平和がもたらされないのが何より不公平で理不尽だ。
 耳鳴りがする。ごうごうと僕の中で怒りが駆け巡っている。けたたましく、警報のようにごうごうと、がんがんと世界を揺らめかすほどの音。
 刃を振り上げ、何度も降り下ろす。
 ぐぅ、という声が聞こえて怒りが増した。ごうごうと――うねりを上げて鳴っているのは何なんだ! 体の内ばかりでなく外からも音がする。窓の外に稲光が走るのを捉えながら、父に馬乗りになって顔を滅茶苦茶に殴りつけた。
 爆音がする。雷鳴が轟く。ぎゃあぎゃあと何かの生き物が叫んで、世界ががたがたと崩れていく。

 ……静かだな……と赤黒い体を踏みつけ、凪いだ心で部屋を見渡す。
 テレビはもう何の映像も流していない。飛び散った血がべっとりとついていた。視線を小窓に映して、そこに広がる光景に「……あ」と声が出た。
 住宅が立ち並んでいたはずの町が一変していた。
 暗く荒れた海原が激しい波を立てて広がっていた。吹き荒れる竜巻が海と天を繋ぎ、水飛沫が上がっている。
 ところどころに崖のように聳え立つのはビルの残骸だろうか、爆撃で壊されたような形跡もある――。
 強い風に木端が鋭い速さで窓に飛んできたが、直前の空間で爆ぜて消えた。
 ……この小部屋が特別なものであるかのように。

 *

 神は息子に重い天秤を持たせ、乗せているものを零さぬようにと言いつけた。
 傾けぬようあることが使命なのだと。
 神の息子は使命を軽んじ、荷を持たされることに不満を抱いて神を殺した。
 取り落とされた天秤から零れた災厄は地上を苛み、命はことごとく嵐にのまれる。

 *

 ……聞いたこともないはずの神話の一編。

「……そんな」
 血濡れた両手をだらりと垂れる。
 汚れることのない白々とした小箱が動く。そのように思った。
 ごご、ごご、と軋むように揺れながら、僕のいる小部屋は雲の切れ間へーー天空と運ばれていく。


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このストーリーに関するコメント

16/11/04 クナリ

主人公の圧し殺した感情そのままに静かに始まる冒頭。
感情のはつろとともに急展開する転調。
圧倒的な迫力の作品でした。
待井さんの世界観造りに脱帽です。

16/11/05 日向 葵

待井小雨様
拝読させていただきました。
私は平和というテーマは、戦争からの解放といった大きな平和と身近な平穏のような小さな平和に二分されると考えているのですが、待井さんのこの作品はこれらを神という壮大な世界観によって上手く繋げたとても秀逸な作品だと感じました。
この話には何か神話的なモチーフがあるのでしょうか?
あまり神話には詳しくないもので意図が汲み取りきれていなければすみません
(>_<;)

16/11/05 待井小雨

>クナリさん
コメントありがとうございます。
設定がわかりづらいかな、と思ったのですが、変に説明するよりも物語の雰囲気を残すことを考えてこのようになりました。
世界観についてそのように言っていただけて、とてもうれしいです。

16/11/05 待井小雨

向日葵 様

コメントありがとうございます。
最初は日常の平和について書こうと思ったのですが、話が思い付かず……ひたすら悩んでいたらこのような話が浮かびました。
「平和」というテーマにこういった話でも良いのか、となやみましたが(汗)

神話についてなのですが、あれは完全に自分の創作になります。
父親に関してはギリシャ神話の神のようなイメージを持って書きました。力を持つ俗で理不尽な存在、というような。
神話部分に関しては、人の力では止めようのない終末感を出すようにしましたが、実際にある特定の神話をモチーフにしているということはありません。
深く読もうとしてくださったのにむしろ申し訳ないです(汗)

16/11/05 待井小雨

あくまで「俗っぽく理不尽なイメージ」というだけですので、ギリシャ神話の神様がこんなイメージだというわけではありませんので、念のため。

16/11/06 浅月庵

待井小雨様
作品拝読させていただきました。
小部屋という狭い空間、とある日常から一変、壮大な展開へと切り替わっていく......そのコントラストが秀逸ですね。
夢中になって読んでしまいました。面白かったです!

16/11/08 待井小雨

浅月庵 様
コメントありがとうございます。
読み始めと読み終わりでの感覚がまるで違う話にしようと心がけて書きましたので、物語のコントラストについてそのように評価していただけて嬉しいです。
夢中になって読んでいただけたとの感想、これ以上に嬉しい言葉はありません。ありがとうございます!

16/11/13 待井小雨

海月漂 様
コメントありがとうございます。
虐待のように行われる父親の暴力に何かとんでもない理由があるとしたら……と、そのように考えて思いついた話でした。
「力強い世界が圧縮されている」このように仰っていただけるなんて、恐縮するばかりです。本当にありがとうございます。

16/12/04 光石七

拝読しました。
圧巻、の一言です。世界観も展開もお見事で、文章からにじみ出る心情や迫力、空気感に心が震えました。
素晴らしかったです!

16/12/05 待井小雨

光石七 様
コメント有り難うございます。
主人公の心でうねりをあげるもの、同時に外部でうねりをあげる何かを表現しようと文を作っていきました。迫力があると言っていただけて、努力の甲斐があったと嬉しい気持ちです。
素晴らしいとのお言葉、心から有り難く思います。

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