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そらの珊瑚さん

🌼初めての詩集【うず】を上梓しました。  (土曜美術出版販売・現代詩の新鋭シリーズ30) 🌼小説や詩、短歌などを創作しております。 🌼作品を置いています。よろしかったらお立ち寄りくださいませ。 「珊瑚の櫂」http://sanngo.exblog.jp/14233561/ 🌼ツイッター@sangosorano 時々つぶやきます。 🌼詩の季刊誌(年4回発行)「きらる」(太陽書房)に参加しています。私を含めて10人の詩人によるアンソロジー集です。アマゾンでお買い上げいただけます。      ✿御礼✿「馬」のオーナーコンテストにご参加いただきました皆様、ありがとうございました。

性別 女性
将来の夢 星座になること
座右の銘 珊瑚の夢は夜ひらく

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てれびんさん

12/10/20 コンテスト(テーマ):第十六回 時空モノガタリ文学賞【 テレビ 】 コメント:8件 そらの珊瑚 閲覧数:1631

時空モノガタリからの選評

最終選考

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 あと一ヶ月でアナログテレビは観れなくなるっちゅうことや。無体やなあ。わしみたいにおいぼれだけんど、このテレビまんだ壊れとりゃあせん。おまえいくつになりよったかのう。もうかれこれ十年にはなろうかの。わしが定年になったのをきっかけに大きなテレビに買い替えよったんじゃった。

「おとうさんが長年働いてくれちょったおかげで、退職金でこげな贅沢させてもろうて」
 少々狭い我が家で不似合いな大きな四六型のテレビを前にして妻の幸子は嬉しそうやった。指輪でも着物でも何でも欲しいもん、買うてあげるき言っちょるのに、
「ほんなら大きなテレビがいいのう。おとうさんとゆっくりテレビ観るんが幸せじゃ」
「そんな小さか幸せで満足なんか。呆れるほど欲がない人じゃ」
「欲はかいたらきりないしのう。おとうさんはいつも忙しか言うて、ろくにテレビも一緒に観れんかったしなあ。うちはいつも一人でテレビ観よったんよ」
 わしは仕事人間だった。一人息子の子育ては妻にまかせっきり。忙しいというのを言い訳にして家庭をほっぽりだしちょったなあ。
「ほんなら、これからは二人でテレビ三昧よ。いやちゅうほど暇はあるきに」
 
 ところがそれから間もなく妻は亡くなった。交通事故でほぼ即死だった。
 妻のささやかな夢を叶えてあげられるはずだったのに、それはたった数回で終わってしまいよった。幸子、欲がないにも程があるで。しばらくして息子は結婚し、同居しておったが、今は転勤で家族ともどもアメリカで暮らしている。
「どうせ観れなくなるんやったら、粗大ごみの日に出してしまおうか。テレビなぞ観ないならただのおっきな箱じゃし」
 けれどやはり妻との思い出は捨てがたく、わしは毎日テレビを拭いて綺麗に磨き上げた。そんなことでもしないと時間をもて余してしまう。男やもめの年寄りはほんま、どうしょもない生き物や。最後にと思い、わしはテレビのスイッチを入れた。
 ──ブンッ。
 電気が流れる気配がする。数秒ののち画面が明るくなった。しかしそこに映ったのは大きなふたつの眼と鼻と口。けったいやなあ。まるで四角い顔のようではないか。
「ご主人さま、お呼びですか」
 あわわわ。テレビがわしに向かってしゃべってる? とうとう、わし、ぼけてしまったんかのう。
「驚かせてしまいソーリーです。わたくし、『てれびん』と申します」
「てれびん、さん?」
「はい。アラジンの魔法のランプの親戚で、テレビの精霊なのです。ランプは灯りを点すもの。テレビもまた然りです」
「はあ?」なんだかわかったような、わからないような。
「ご主人さまがわたくしを先ほどこすってスイッチを入れてくださいましたから、お願いをひとつ叶えて差し上げます」
 わしは半信半疑であったが、だめもとで言った。
「妻に、妻に会わせてくれんかのう」
「アイアイサー」
 するとテレビの顔が消え、一瞬ののちに懐かしい妻がそこに映っていた。
「幸子、幸子か。元気にしとったか」
「いやじゃね、おとうさん、私死んでしもうとうるじゃないですか」
「ああ、そうじゃったの。ほんなら天国にいるんじゃろうか」
「はい、父や母、飼っていた犬のシロと一緒に楽しく暮らしてます」
「いいのう。わしも行きたいのう。そうじゃ、てれびんさんにお願いしてみるか」
「おとうさん、それはダメですよ。お願い事はひとつだけですから。欲をかいたらきりがありませんよ」
「ほんでも、わしさみしゅうてなあ。ひとりでテレビもよう観んわ」
「なに言うとりますの? このテレビは天国につながっていて、スイッチを入れさえすれば私はすぐにやってきて一緒に観ることができるの、知らんかったんですか」
「たまげた。そういう仕組みだったんか。そんなん初耳じゃ。ちゃんと教えてくれんと」
「悪かったねえ。だども私は即死だったからあんたに伝える術がなかった」
「それならこれからどんどんこのテレビを観ちゃるわ。おまえが一緒だと思えば楽しいさのう」
「そうですとも。それじゃあ、そろそろ」
 そう言ってテレビはぷつんと切れた。
 それから地デジチューナーいうもんを買うて、わしは今でもアナログテレビを観よる。テレビ観よる時は一人ではなくなったんじゃ。


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このストーリーに関するコメント

12/10/20 泡沫恋歌

珊瑚さん、拝読しました。

テレビって独りでボーと観てると何だか寂しくなりますよね。
ましてや、四六型のテレビなんて、独りで観るの辛すぎる。
亡くなった妻の幸子さんが一緒に観てくれたら楽しさ倍増です(笑)
暖かいオチで、広島弁が何んとも味があって良いですね。

アナログテレビだって、未だ使えるのに捨てられるのは可哀想です。
DVDとゲーム用なら、ちゃんと使えますから。

12/10/21 草愛やし美

そらの珊瑚さん、拝読しました。

このテレビいいですね〜、亡くなった大切な方と一緒にテレビを見られれば、残された人も寂しくないですね。なんて素敵なことでしょう。

アンログテレビもチューナーで見られますから、捨ててしまわないでよかったですね。旦那さま、これからは楽しいでしょうね。

12/10/22 そらの珊瑚

恋歌さん、ありがとうございます。

年をとって独りでテレビを観るくらいしか
楽しみがないなんて、さみしいですよね。
せめて誰かと観たいものです。

広島弁はネイティブでないので、なんちゃって広島弁かもしれません。

12/10/22 そらの珊瑚

草藍さん、ありがとうございます。

うちもまだテレビが壊れたわけではないのに
買い換えてしまいました。
今思うと残しておいても良かったかなという気はしますね。

12/10/26 鮎風 遊

方言がよろしいなあ。
味があって。

私が関西弁で書いたら、もう誰も読んでくれないかな。
だけど1回試したくなりました。

12/10/30 そらの珊瑚

鮎風さん、ありがとうございます。

方言は味わいがあって良いですよね。
是非チャレンジなさってみてください。
読みにいきますから。

12/11/07 ドーナツ

拝読しました。

地デジに変わったとき、まだ使えるのに もったいないって思いましたが、絶対、アナログテレビ 泣いてるよ って思います。
天国に繋がってるテレビッってのがすごくおしゃれ。
広島弁は 最初聞いたとき、猫が喋ってるような感じがしましたが、文字にするとまたほんわか柔らかで いいですね。

12/12/12 そらの珊瑚

ドーナツさん、ありがとうございます。

まだ使えるのに捨てられたアナログTV、かわいそうですよね。
広島弁、最初に聞いた時、みんなが菅原文太に見えました(笑い)

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