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ポテトチップスさん

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何度も現れる白髪に白髭の男

16/10/28 コンテスト(テーマ):第121回 時空モノガタリ文学賞 【 捨てゼリフ 】 コメント:0件 ポテトチップス 閲覧数:464

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 玄関ドアが開く音がした。壁時計を見ると深夜2時を少し過ぎていた。
 京子は椅子から立ち上がり玄関に向かうと、玄関横の階段を上がろうとするタクミの背中に向かって怒鳴った。
「アンタ! 何時だと思ってるのよ!」
「うるせー!」
 幼少期は動物にも優しく接する、心優しい子供だった。中学を卒業し高校に入学してから、タクミは不良仲間と遊ぶようになった。
 高校2年生になったタクミは、家のお金を盗んで夜な夜な遊ぶ。いくら京子が注意しても、親の話など聞く耳をもってくれない息子に、母である京子は、自分の子育ての何がいけなかったのだろうかと思い悩む日々が続いた。
 新興宗教に相談に行ったこともあった。教祖と呼ばれている高齢で白髪の白髭を生やした男は、『あなたには悪霊がとりついている。その悪霊が息子さんを非行に走らせている』と言って、除霊費用として200万円を払うように催促してきた。
 お金があったら迷うことなく支払っていたが、母子家庭で生活に余裕がない京子に、そのお金は払うことができなかった。
 
 京子は部屋に戻り椅子に座りなおすと、大きくため息を吐く。なんだかお酒が飲みたい気分になり、今年のお盆に親戚からもらった、ビールの贈答品の箱を開いて、冷えていない缶ビールを一気に飲み干した。
 お酒などめったに飲まないので、すぐに酔いがまわってきた。
 京子の目の前に、小さな男の子が顔を両手で覆って泣いていた。なんだか見覚えのある洋服に、京子は男の子をずっと見ていると、男の子は両手を下ろして振り向いた。
――ママ。
――タクミ。
 小さな子供はタクミだった。私としたら何をボーっとしていたんだろうと京子は可笑しく感じ、小さく声を出して笑った。
――おいで。
 両手を開いてタクミに来るように促す。
 タクミは泣き止み、笑い声を上げながらこちらに向かってくる。
――タクミ君! そっちに行っては行けない!
 タクミはキョトンとして、立ち止まった。
 京子は声のする方に顔を上げると、白髪に白髭を生やした、以前あったことがある教祖と呼ばれている男の姿にうろたえた。
――タクミ君、こっちにおいで。
 タクミは白髪の老人と京子を見比べたあと、老人に方に近づいていく。
――タクミ! そっちじゃない! ママはこっちよ!」
 老人に抱っこされたタクミが振り返り、冷たい目を向けてきた。京子はあまりの恐ろしさに悲鳴を上げた。
 目を開けると夢を見ていたことに気づき、夢でよかったと安堵した。部屋の時計に目を向けると、早朝と言ってもよい時間帯だった。
 新聞配達のバイクが走る音が家の外から聞こえる。京子はお酒など飲むんじゃなかったと後悔した。
 ベッドで寝直したら、また悪夢を見るような気がして、もう起きてようと思った。
 しばらく時間が経ち、朝日が部屋の中に射してきた。タクミは不良仲間と夜遅くまで遊んでいるが、ちゃんと学校には遅刻せずに行っている。そのことだけは、京子も安心していた。
 2階から目覚まし音が鳴り、タクミが階段を下りて洗面所で歯を磨いているようだった。京子は洗面所にいるタクミの背中に声をかけた。
「朝ご飯、食べなさい」
「いらねーよ、そんなの」
「せっかく作ったんだから」
「いらね!」
京子はリビングのソファーに座ってテレビをつけると、天気予報がやっていた。夕方から雨が降るそうだ。
 身支度を済ませたタクミが玄関で靴を履いている。京子は玄関に行った。
「夕方から雨が降るから、傘を持っていきなさい」
「金?」
「何?」
「遊ぶ金、ちょうだい」
 なんであんなに優しかった子が、こんな風になってしまったのかと悲しく思い、強い怒りを覚えた。
「アンタなんか、産むんじゃなかった!」
 タクミは無言で振り返ることもなく玄関を出ていった。
 この日、京子はパート先の工場で働きながらな、なぜあんなことを言ってしまったのかと、何度も後悔した。
 夕方になり、工場の開け放っている窓から、外は雨が降り出したのが分かった。京子の後悔はずっと糸を引いている。
 ダンボールを持ち上げようとしゃがんだ時、ネックレスが突然切れた。タクミが10歳の時に、京子の誕生日プレゼントに買ってくれたものだった。
 京子はあら? と思いながら、ネックレスをポケットにしまった。
 外の雨は雷雨に変わっていた。携帯電話が鳴る。電話に出ると、警察からだった。タクミが横転したトラックの下敷きになり、緊急搬送されたと伝えられた。
 タクシーで急いで病院に向かいながら、『アンタなんか、産むんじゃなかった!』という、自分が言ってしまった捨て台詞が頭の中で繰り返し響いた。
 赤信号でタクシーは止まった。
「何かあったんですか、お客さん?」
 運転手が振り向いた。白髪に白髭のあの教祖にとても似ている顔に、京子は体が震えた。
 


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