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かわ珠さん

自分の好きな作家さんの言葉のチョイス、並べ方、区切り方、リズム、テンポに少しでも近付けるような文章が書けるようになりたいです。

性別 男性
将来の夢 世界平和
座右の銘 愛は時空を超える

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硝子の天才

16/10/26 コンテスト(テーマ):第121回 時空モノガタリ文学賞 【 捨てゼリフ 】 コメント:0件 かわ珠 閲覧数:457

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 後半25分、0対0で試合は膠着状態。
 審判が笛を吹き、試合を中断する。タッチラインには高宮がウォーミングアップを終えて立っている。交代はいつも通り俺だ。悔しいが、こいつが入ればチームは間違いなく勝てるだろう。念願の全国大会まであと一勝。この采配はきっと正しい。それでも、俺はこの交代に納得はできない。
 けれども、監督の采配は絶対だ。審判に促されながら、俺は渋々タッチラインへと向かう。

 俺たちの世代でサッカーをしていて高宮の名前を知らな奴はいない。小学生の頃から日本サッカー界の至宝ともてはやされてきた。そのプレーを俺は小学四年生の時に初めて見た。地元のサッカークラブに所属していた友達の応援に行った時のことだった。華麗に敵を抜き去り、度肝を抜くスルーパスで敵陣を切り裂き、正確なシュートでゴールを量産した。それは、見るものすべてを惹き付けた。そしてもちろん、それは俺も例外ではなかった。アイツのプレーに心を奪われた俺はその日のうちに友達に頼み込んでサッカークラブに入れてもらった。
 そして、俺もいつかあんな風に周りを惹き付けるプレーを魅せたい。そう思うようになっていった。俺にとって、高宮は憧れとなったのだ。
 中学では俺は学校のサッカー部、高宮はプロクラブのジュニアユースに所属で、直接戦うことはなかった。けれどアイツの噂は常に耳に入ってきていた。もう国内のプロクラブ入りが内定しているだとか、海外の強豪チームのスカウトが目を付けている、等々の噂を聞くたびに、胸を躍らせた。
 だから、アイツが同じ高校に通っていると知った時には舞い上がった。そして、同時にアイツがウチのサッカー部に所属したと知って怒りを抱いた。
 そのままプロのユースチームに所属していたら最短でプロになれたはずなのに。何故こんな高校の部活に所属しているのか。もちろん高校の部活からプロに上がる選手だってたくさんいる。それでも、やはり高校の部活からプロを目指すよりも、ユースチームからプロを目指した方が断然確率は高いはずだ。
 もちろん、それにはそれなりに理由があった。高校からは勉強に専念するためにユースチームを辞めたのだと、聞かされた。部活も、勉強を優先するために少ししか参加しないとも。つまり、高宮にとってサッカーは本気で取り組むようなものではなかったということだ。けれども、そんなもの納得できるはずもなかった。
 アイツは俺をサッカーの魅力に引きずり込んだのだ。それなのに、アイツは平然とそれを投げ捨てた。いや、部活には所属しているから、完全に捨てたわけではないのだろう。それでも、高宮にとっては遊びなのだ。そんなの、許せるはずが無い。圧倒的な才能を持ちながらそれを無駄にするなんて、あってはならないことだ。
 それでも、高宮個人の問題に俺が口出しできるはずもなかった。俺は高宮のプレーを歯噛みして眺めながら、部活に本気で取り組んだ。お前が遊びだと思っているのなら、俺がお前を抜いてプロになってやる、と。
 けれども、高校三年間で高宮よりも自分がうまくなれたとは思えなかった。結局、三年の最後の大会で俺はスタメンだったものの、後半に絶対に高宮と交代させられた。三年間みっちり取り組んできた俺よりも、練習不足でスタミナがフルに持たない高宮の方が相手にとって脅威だったのは明白だったのだ。

 高宮が両手を挙げている。けれども、ハイタッチはせずにそのままラインを出る。
「お前を許さない。絶対に」
 そう吐き捨てながら。
 ああ、俺、めちゃくちゃダサい。
 そんなのはわかっている。けれども、そのやるせなさをどうする事も出来ずに、俺はベンチに座り込んだ。
 そして、ウチの高校は全国大会出場を決めた。

   *   *   *

 俺たちが全国大会出場を決めてから十年後、俺は八年ぶりに高宮と会った。
 高宮の葬儀で。
 そこで、高校のサッカー部の顧問の先生に全てを聞かされた。高宮は心臓に疾患が見つかってサッカーを諦めたのだと。監督はアイツに一切サッカーをやらせるつもりはなかったらしいのだけれども、それでもアイツはどうしてもと懇願したらしい。そこで妥協案として試合の後半の僅かな時間だけ出ることだけを許したのだという。
 そうして、アイツは全国大会出場へと導いたのだ。全国大会の舞台では初戦敗退だったものの、それは間違いなく高宮の功績だった。
 そんなのズルいじゃないか。病気を抱えていることをおくびにも出さず、チームを勝たせてしまう。俺なんかが勝てるはずが無い。
 せめて、俺たちに一言言ってくれればよかったのに。そうすれば、俺たちは本当のチームメイトに慣れたかもしれなかったというのに。
「お前を許さない。絶対に」
 そう高宮の棺に呟いて送り出す。
 見送って、気が付くと、左頬を一筋の涙が流れていた。


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