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冬垣ひなたさん

時空モノガタリで活動を始め、お陰さまで4年目に入りました。今まで以上に良い作品が書けるよう頑張りたいと思いますので、これからもよろしくお願いします。エブリスタでも活動中。ツイッター:@fuyugaki_hinata プロフィール画像:糸白澪子さま作

性別 女性
将来の夢 いつまでも小説が書けるように、健康でいたいです。
座右の銘 雄弁は銀、沈黙は金

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ラフ&ピース〜大阪すっぴん姉妹〜

16/10/24 コンテスト(テーマ):第119回 時空モノガタリ文学賞 【 お笑い 】 コメント:5件 冬垣ひなた 閲覧数:840

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「あんた、しょうもない。なんでそんなこと言うんや?」
「最近暑いやろ?うちわがめっちゃ好きやねん」
「その心は?」
「うちは一番、センスない!」
 リビングの椅子に立ち、ふたりぼっちで肩を並べた小さなあたしたちは、お笑い界のてっぺんにいると本気で信じてたんや。
 神様が、意地悪だったとは思わない。
 ピン芸人になった妹の彩は、大阪のTVに出るとちょっとしたお茶の間の新星になった。
 このあたしをも、踏み台にして。


 師走の町を電車は走り抜け、あたしと彩が降り立ったホームには『枚岡(ひらおか)駅』という看板が立っていて、小ぢんまりした町並みがあった。ただ、不思議なことに、道は人であふれかえっている。
 二人は終始無言、最近の仲は特にぎくしゃくしている。
 確かにこの一年、あたしは色々憂鬱だった。
 彩がネタにしたせいで、「試食コーナーで一時間粘るオンナ」として彼氏にさよならされたのは……仕方ないとして、誇張してネタ帳に書き込まれたあたしの珍行動は枚挙にいとまがない。
 まあ、あたしも大人しくない性格で言い争う事もしょっちゅうやけど、もう今年も終わりやし、正月実家で明るく顔寄せておせち食べたいわぁって思うわけ。
 世は、シングルベルには厳しいクリスマス。
 しかし通りゆく人は年配の方が多く、何だか初詣のような雰囲気を醸し出していた。
 しばらく歩くと、本当に石畳が見えてきて、大勢の人々が『枚岡神社』と書かれた鳥居の奥に吸い込まれてゆく。


 あたしは意気揚々とリポーターの真似をする。

「これから始まるのは、注連縄掛神事(しめかけしんじ)、通称『お笑い神事』というんや。年の暮れに新しい注連縄(しめなわ)を掛け替えた後、皆で一斉に笑うんやで」
 「その昔、アマテラスオオミカミ様の隠れた天の岩戸の前で、催した大宴会と踊りに、神々が大いに笑った。この神社の神様も岩戸を開くのに一役買ったいうことで始まったそうや」
  「笑いは古来から大事にされてきたんや。笑う門には福も来るし、いいことづくめやねんで」

 彩がピッと、アタシの手から小さな紙を奪い取る。
「……お姉ちゃん、カンペ見たらあかんわ!」
「うわっ、返してな」
「だいたい誰に説明してんの?」
「そりゃあ、この画面の向こうに……。もう、そんな事ええやん、はよ行こ」
 あたしは彩の手を引っ張って、鳥居をくぐった。


 さあ、お笑い神事の始まりだ。
 長い参道を通り抜けた先の広場も、人で埋まっていて、拝殿へ上る階段の前に、真新しい横一線の注連縄が飾られていた。
 厳かな神社も今日は賑やかで、冬の清涼な空気が熱気を帯びる。
 まずは壇上の宮司が声高らかに笑う。

「あっはっはー」

 それから、参拝客も全員で笑う。

「あっはっはー」

 まずは儀式的な笑いを三回繰り返す。寒さで強張った顔が、それだけで和んでゆく。
 それから宮司の話があり、そして20分間、みんなで声高らかに笑いあう。

「あっはっはっは」「あっはっはっは」「あっはっはっは」
  「あっはっはっは」「あっはっはっは」「あっはっはっは」


 いつの間にかあたしも、彩も笑ってる。彩が真剣にお笑いの道を志してから、二人で毎年こうして笑うのだ。
 人間の一生分の笑いって、どれくらいの量やろうか。
 笑いを心に残す機会なんて、どれ位あるやろうか。
 実はたかが知れている。何もしなければ、あたしたちの人生は寂しい位に、冷えている。
 だからこそ、あの手この手で、笑顔の花を咲かすんや。
「アッハッハッハ」
 昔と変わらない彩の笑い声を聞いたのは久しぶりだった。


「来年も福がうんと来るといいわぁ」
 神事の終わった帰り道、彩はうんと背伸びをした。
「営業の愛想笑い、心無いせせら笑い、ネタが受けない苦笑い、疲れた時の作り笑い、どれも経験してきたけどな、心の底から笑うってええよね」
「せやな」
「生まれたての赤ちゃんかて笑う。人間は、何にもなくても笑えるんやな」
 彩は何かふっきれたようだった。
「うち、無理に人の心をくすぐる事ばっかり考えてきた気がする」
 ネタ作りすぎたんやな、と彩はしょんぼりする。
「ごめんなお姉ちゃん、散々いじったりして。うち……」
「もうええよ」
 あたしは「えっへっへ」と笑った。
「頑張ってネタになったる。それがあたしなりの夢の叶え方や」
「お姉ちゃん……」
「その代り昼ご飯代は10割引きにまけてな!」
「うちのおごり?」
 あたしが揉み手をすると、彩乃はプッとふきだした。
「もう……!お姉ちゃんには負けるわ!」
 大丈夫、彩。
 化粧厚塗りでも、心はすっぴんや。なあ?
 休日限定コンビ『Laugh(笑い)&Peace(平和)』に、解散の文字はないんやで。
 うんと楽しい一日になるといいな。


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このストーリーに関するコメント

16/10/24 冬垣ひなた

≪補足説明≫
・枚岡神社は大阪府東大阪市にあります。
 (枚岡神社ホームページ http://hiraoka-jinja.org/)
・主祭神として祀られている天児屋根命は岩戸隠れの際、岩戸の前で祝詞を唱え、天照大神が岩戸を少し開いたときに太玉命とともに鏡を差し出したそうです(ウィキペディアより)

・左画像は枚岡神社です、これらの画像は写真ACからお借りしたものを加工しました。

16/11/02 泡沫恋歌

冬垣ひなた 様、拝読しました。

わたし、神社の御朱印集めが趣味ですが東大阪の枚岡神社はまだ行ったことないです。
お笑いの神様なんですか。
日本にはいろんな神様がいて楽しいですね。

実は私の卒業した高校の先輩が、姉妹漫才コンビの海原千里(現・上沼恵美子)・万里です。
最近は姉妹漫才とか、夫婦漫才とか少なくなったよね。

同じ大阪人のせいか、冬垣さんの書かれる文章や物語には親近感が湧きます。
子どもの頃から吉本新喜劇を観て育ったわたしたちは、まさにお笑いの英才教育を受けて成長しました。
たぶん、DNAにもお笑いの遺伝子が組み込まれていることでしょう(笑)

漫才姉妹のお話、とても楽しく読ませていただきました。

16/11/08 そらの珊瑚

冬垣ひなたさん、拝読しました。

お笑い神事にからめながら、姉妹のやりとりがほのぼのとしていて
心が温かくなりました。
ラブ&ピースもええけど、ラフ&ピースもええね!!

>「笑いを心に残す機会なんて、どれ位あるやろうか。実はたかが知れている。何もしなければ、あたしたちの人生は寂しい位に、冷えている。」
とても心に残る文章でした。


16/11/14 冬垣ひなた

泡沫恋歌さん、コメントありがとうございます。

枚岡神社へは行ったことはあるのですが、お笑い神事はまだなのです。神事の様子はホームページから見ることが出来ます。海原千里・万里の「大阪ラプソディー」はカラオケの定番ですね。今回の話作りはこのイメージがあったんだなと今頃気づきました。
確かに大阪に住んでいると、様々な場面でお笑いを求められますね。クラッシック聞きに行って、バイオリン奏者に「ツッコミが足りぬ」とおばちゃんが怒っていた時にはどうしようかと思った(;・∀・)
楽しい話。これからも頑張りたいと思います。


海月漂さん、コメントありがとうございます。

以前偶然枚岡神社を訪れたときにお笑い神事を知って、いつか行けたらなぁと思っていたのですが、この機会にお話にしてしまいました。今まで書いた中では、自己の満足度は五指に入る作品です。こういう話ももっと書けるようにしていきたいですね。もう、いつどんなテーマが回ってきてもいいように、ネタ作りしておかないといけません(笑)。


そらの珊瑚さん、コメントありがとうございます。

大阪のお笑いを絡めた話はこれが二度目なんで、色々と考えました。次に大阪の話を書く時まで、がんばって腕を磨いておきたいです。ラフ&ピースでもっと書きたいことは一杯ありましたが、心に残る言葉と言って頂けて嬉しいです。これからの作品に生かしていきたいと思います。

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