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黒い冗談

16/10/23 コンテスト(テーマ):第119回 時空モノガタリ文学賞 【 お笑い 】 コメント:0件 OSM 閲覧数:541

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 深夜零時、無料動画共有サイトで動画を視聴していると、スマホに着信があった。非通知だ。こんな時間に誰からだろうと訝しく思ったが、とにもかくにも電話に出ると、
「宮内庁の者ですが」
 と成人男性の声。宮内庁に知り合いはいないので、はあ、と答えると、
「陛下がお待ちです。至急、皇居まで来てください」
 とのお達し。猫ちゃん面白動画を視聴している最中だったが、陛下のご命令に逆らうわけにはいかない。タクシーを呼び、それに乗り込み、駆けつけた皇居。待ち受けていた宮内庁の男性職員に案内されたのは、皇居内にある、やけに天井が高く、広々とした一室。そこには既に陛下が玉座にお掛けになってお待ちになられていて、そのオーラに僕はたちまち圧倒された。跪き、額を床に押しつけると、
「顔を、上げて、ください」
 とのお言葉。ご命令に従うと、陛下は大らかな微笑みをお顔にお浮かべになられていた。独特のスローモーな喋り方で、
「あなたは、芸人、なのでしょう。でしたら、私を、笑わせて、くれませんか」
 と仰せられたので、どっと噴き出す汗。僕はすぐさま、
「いいえ、陛下。僕は、いえ、わたくしめは、いちご農園で働く、しがない派遣社員でありまして」
 と釈明したのだが、陛下は僕の言葉など聞こえなかったかのように、
「私は、こう見えて、ブラック、ジョークが、好きです。ですが、我が国の、民は、その手の、ジョークを、あまり、好まないので、ブラック、ジョークを、得意とする、芸人は、我が国には、あまり、いません。あなたは、ブラック、ジョークが、得意だと、風の噂で、聞きました。是非とも、ブラック、ジョークを、聞かせて、ください。私を、笑わせて、ください」
 という、いちご農園で働く派遣社員には酷な要求をお突きつけになられたので、思わず頭を抱えると、それをご覧になられた陛下は、
「なにか、テーマを、決めた方が、やりやすい、ですか。でしたら、障害者、という、テーマで、やってみて、ください」
 と仰せられたので、僕は泣きそうになった。――障害者。あまりにも難し過ぎるテーマだ。なぜならば我が国では、我が国の首都に近い人口七十万人の都市で、麻薬中毒者の二十代の男が、施設に入所する知的障害者の方々を虐殺するという事件を起こして以来、障害者の方々に対して差別的な発言をした者へのバッシングが凄まじいからだ。芸人ではない僕が、障害者をテーマにした上手いブラックジョークなど、言えるはずがない。しかも聞き手は、お笑い好きの一般ピーポーではなく、陛下だ。我が国の象徴だ。下手なことを言えば、SNSが炎上どころか、火炙りの刑に処されてしまう。唯一の救いは、喋り方からも分かるように、陛下は大変大らかなお心の持ち主でいらっしゃる、ということだ。ジョークを捻り出すまでに時間がかかっても、それを理由に火炙りの刑の執行を命じられることは、恐らくないはずだ。
 ならば時間を稼ぐ作戦で行こうか。陛下が生前退位されるまで、あるいは崩御なさるまで、粘ってみようか。
 などと、口に出せば不敬罪でしょっ引かれるに違いない不謹慎なことを考えている最中、妙案を思いついた。僕は陛下のお目を見据え、
「陛下。わたくしめが思うに、わたくしめよりも、陛下の方がよっぽどブラックなジョークがお上手かと」
「私が、ブラック、ジョークが、上手。それは、どういう、意味、ですか」
「陛下もご存知だと思いますが、現在の我が国においては、障害者の方々に対して差別的な発言をすることは、いかなる場合においても禁じられているに等しい状況です。その禁を破れば、漏れなく袋叩きです。にもかかわらず陛下は、障害者をテーマにしたブラックジョークを披露せよという、いちご農園で働く派遣社員には酷な要求をお突きつけになられました。我が国の象徴という立場にもかかわらず、我が国のルールに違反する結果に終わると分かり切った挑戦に臨むよう、わたくしめに強要なさいました。これに勝るブラックジョークはこの世に存在しない。そうわたくしめは申し上げたかったのです」
 陛下は、陛下には似つかわしくない、ほうけたような表情になられたが、すぐに満面に笑みをお浮かべになり、
「なるほど。わが国の、象徴、である、私を、我が国で、好まれて、いる、わけでは、ない、ブラック、ジョークが、上手だと、評する、という、ブラック、ジョーク、ということ、ですか。よくできて、いますね。実に、素晴らしい。あなたは、我が国に、おける、最高の、ブラック、ジョークの、使い手です。これからは、あなたが、我が国の、ブラック、ジョーク界を、牽引して、ください。応援して、おります。是非とも、頑張って、ください」


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